観光客急増! 瀬戸内の島々をつなげ

観光客急増! 瀬戸内の島々をつなげ
ことし1月、ある知らせが、瀬戸内海を駆け巡りました。アメリカの有力紙ニューヨーク・タイムズが発表した「ことし行くべき52か所の旅行先」の中に、日本から唯一、「芸術と自然が調和する場所」として「瀬戸内の島々」が7位に選ばれたのです。観光客が急増している瀬戸内海の島々ですが、今、その観光に欠かせない海上交通が課題に直面しています。(高松放送局記者 佐藤和枝)

瀬戸内海の島々が直面する課題

瀬戸内海の島々の観光客が急増している背景には、ニューヨーク・タイムズが行くべき旅行先に選んだ理由の1つにも挙げた「瀬戸内国際芸術祭」があります。瀬戸内海の12の島々と高松市の高松港、岡山県の宇野港が舞台の現代アートの祭典で、2010年から3年に1度開かれ、4回目を迎えたことしも春・夏・秋の3つの会期で107日間にわたり開かれます。
瀬戸内海の島々の美しい風景と、数々の現代アートの作品を目当てに、回を重ねるごとに外国人観光客が増加。去年1年間に香川県に宿泊した外国人観光客の数は、芸術祭が始まった翌年の2011年と比べておよそ14倍に増加しています。
しかし今、観光に欠かせない海上交通が課題に直面しています。

フェリーと高速艇の主な定期航路は、高松港や宇野港などの本州や四国の港と島々を結ぶものが主で、便数も限られています。ことしの芸術祭には4月26日の開幕からの11日間で17万人が詰めかけました。10連休中にはフェリーや高速艇の客が満員となるケースが56回にのぼり、そのたびに客が積み残されました。
そこで改めて注目されているのが海上タクシーです。定期航路のような制約が少なく、島々を結ぶ移動手段として需要が高まっていて、香川県内の隻数も増加傾向にあります。

私が取材した日も、首都圏から訪れた男性5人が6万5000円で朝から夕方まで海上タクシーを貸し切り、1日で10もの島々を巡っていました。男性の1人は「ダイレクトに島から島に移動できるのですごく助かります」と話していました。

アプリで海上交通を便利に

この動きに目をつけ、アプリで海上交通を便利にしようと挑んでいるのが東京のベンチャー「スキーム・バージ」です。東京大学の現役の大学院生、嶂南達貴さん(26)が小豆島を訪れた経験をもとにアイデアを思いつき、去年、会社を設立してアプリ「Horai」を開発しました。
これまでは海上タクシーを利用するには業者の連絡先を調べて電話し、船をまるごと貸し切らなくてはなりませんでした。しかし、このアプリでは、巡りたい瀬戸内海の島々や観光スポットを選べば、海上タクシーなどによって、それらを効率的にまわる旅程を提案します。

それが気に入れば、画面をタップするだけでアプリ上で海上タクシーの予約と決済ができるので、あとは当日に海上タクシーの発着場に行くだけです。

しかもこのアプリは予約が入る際に、同じ日の同じ時間帯に同じ方向へ旅する客と自動で結び付け、乗り合いで運航することを前提としているので、その分、貸し切りより安い料金で乗れるのがメリットです。たとえば、小豆島の土庄港から直島の宮浦港へは2400円で海上タクシーに乗れます。
「せっかく瀬戸内らしさを楽しめる場所をいっぱい作っているのに、初めて来る人はわからない。しかも、いざ行こう思うと、毎回、高松に戻ってフェリーに乗ってというと、1回で巡れる数が少なくて大変」
「このアプリを使えば、旅行スケジュールをもっとスムーズにできるうえに、島と島を直接、行き来できる海上タクシーという交通機関との連携がなされていて、最も合理的な旅行スケジュールを初めて達成できることが1番いいところです」

新たな需要の掘り起こしを歓迎

アプリは4月1日にリリースされ、1か月でおよそ350人が登録しました。今では1週間に30人ほどがこのアプリを利用して瀬戸内海の島々を旅しているということです。

利用客からの反応は上々で、「フェリー乗り場でチケットを買うために並ばなくてすむ」「これまで予定を決める時にフェリーに制約を受けていると感じたが、時間をむだにしないですんだ」、「混んでいるフェリーと比べて快適で優越感を感じた」といった声が聞かれたということです。
海上タクシー業者も歓迎しています。香川県の海上タクシー会社の多田陽介専務は、このアプリを通じて海上タクシーの発注を受けています。アプリと連携することで客どうしの乗り合いの運航が可能となり、個人旅行客や外国人旅行客などの新たな需要が掘り起こせると考えています。
「アプリは乗り合いを主なターゲットにしていて、1人当たりの料金を安くおさえることができるので、海上タクシーとしては利用者を多く囲い込むこともできる」
ただ、課題もあります。まずは、認知度の向上です。観光客にまだまだアプリの存在が知られていないので、地元のカフェやレストランにチラシを配るなどのプロモーションを展開し、利用客が少ない時期に収益を確保できるよう努めています。

さらに、繁忙期の船の確保も課題です。アプリで簡単に海上タクシーを手配できても、船が足りず乗れなければ利用客は離れていきます。このベンチャーでは今後もユーザーや事業者の意見をもとに、随時、改良を加えて、よりよいシステムにしていくことにしています。
「データをもとに、いちばん効率的に船を運航できるようなやり方を考えていきたい。ユーザー一人一人が本当に瀬戸内を楽しむことを目標に、いろんな不便の解決を技術でやっていけたら」(嶂南達貴さん)

海上交通どうかわる

瀬戸内海の島々への旅をもっと快適にしたいと開発されたアプリ。取材を通じて感じたのは、旅のスタイルが変わり、定番の観光ルートに縛られず、好きな時に好きな場所を自由に訪ねたいという需要が今、大きくなっているということです。

嶂南さんのようにその需要にテクノロジーで応えることができればビジネスのチャンスがあると感じました。瀬戸内海の海上交通がこれからどう変わっていくのか、見つめていきたいと思います。
高松放送局記者
佐藤和枝

平成20年から丸亀支局や高松放送局で地域報道に携わる。現在、高松放送局で幅広く地域の課題を取材。