激変!刑事司法~裁判員制度10年~死刑判断に参加した裁判員

激変!刑事司法~裁判員制度10年~死刑判断に参加した裁判員
死刑は命を奪う究極の刑罰です。裁判員制度が導入される際、裁判員が死刑について判断することが妥当かどうか、司法関係者の間で議論がありました。
「心理的な負担が重すぎるため裁判員裁判の対象から外すべきではないか」
「重大な事件だからこそ裁判員に加わってもらって慎重に審理すべきだ」
さまざまな意見がありましたが、死刑が求刑される事件も裁判員裁判の対象となり、裁判員に選ばれた市民が死刑という重い判断と向き合ってきました。
裁判員制度導入による刑事司法の激変の1つが、一般の市民が死刑判断に加わることになったことです。被告を死刑にするかしないか。実際に判断に加わった裁判員たちは、裁判を終えた後、何を思っているのでしょうか。死刑が求刑された裁判員裁判で、裁判員や補充裁判員を務めた全国の14人に改めて取材しました。「激変!刑事司法」シリーズ3回目は、裁判員が死刑判断に加わることの是非を考えます。
(社会部司法クラブ・各局取材班)

死刑の判断に関わった裁判員は

裁判員裁判では判決の言い渡しが終わった後、裁判員の記者会見があり、出席を了承した裁判員に直接、取材する機会が設けられます。出席者がなく、会見が開かれないこともあります。

今回、これまでに死刑判断に関わった裁判員や補充裁判員の経験者のうち、連絡先が分かる全員に改めて取材をお願いしたところ、14人が取材に応じてくれました。

裁判員が死刑の判断をすることについて、実際に関わった人はどう考えているのでしょうか。
「妥当だ」と考える人が8人
「妥当ではない」と考える人が6人
意見が分かれました。
「妥当ではない」と答えた1人、兵庫県の40代の男性は平成26年に神戸市で小学1年生の女の子が殺害された事件で裁判員を務めました。

1審の神戸地裁では「被害者が1人であっても死刑を回避する事情は見当たらない」として、死刑が言い渡されました。

取材で裁判中の期間に印象に残ったことを尋ねると、男性は判決の日のエピソードを話してくれました。

判決の言い渡しが終わった後、この日だけ、ほかの裁判員たちとみんなで一緒に帰ったと言います。
裁判員経験者(兵庫県 40代男性)
「判決が判決だったので、やはり重い。それを和らげるわけではないけど、みんな誰かに一緒にいてほしかったのかな。人の命に関わる事件が審理の対象でしたが、判決も被告の命が関わってきます。裁判員として自分が参加することはすごく負担だったと思います。法律のプロではない私たちが決めていいのかとも思いました。無期懲役の次に重いのは死刑ですが、そこにはすごく高い壁があって、特殊だし、個人差はあると思いますが、裁判員の負担は大きいです」
一方、「妥当だ」と答えた1人、宮城県の男性は判決から8年余りがたち、裁判員としての経験を前向きに捉えていました。
男性が裁判員を務めたのは平成22年に宮城県石巻市で男女3人が殺傷された事件で、犯行当時18歳だった少年が被告でした。

裁判では被告の少年が立ち直る可能性があるかが焦点となり、裁判員裁判が導入されてから初めて、少年に対して死刑が言い渡されました。

この判決の直後、男性は記者会見に応じ、「みんなできちんと話し合って決めたことなので、大切な決めごとだと思います。本当に自分が出した結論でいいのか、悩み続けて、本当につらくて泣いてしまいました。私たちが本当に苦しんで苦しんで、悩んで出した結論です」と苦しい胸の内を語っていました。

今回、再び取材に応じた男性は、心境の変化がみられました。
裁判員経験者(宮城県 男性)
「裁判員の皆さんで話し合って出した判決で、後悔も否定も無いです。人の命に関わる判断に、市民が裁判員として加わることに対して、抵抗がある人もいると思いますが、私たちが何を言っても、覆す裁判官は覆せます。裁判員として何を心がければいいのか考えると、市民の感覚で『私たちなら一般的にこの罪が該当すると思います』とただ伝えることだと思います」

裁判員裁判での死刑判決

この10年間、裁判員裁判によって死刑が言い渡された事件には社会を震かんさせた事件もありました。

中には客観的な証拠が乏しく難しい判断を迫られた裁判や、殺害された被害者の人数が1人でも死刑が言い渡された裁判もあります。

裁判員制度が始まって10年となったことし5月の時点で、全国の裁判員裁判で死刑を求刑された被告は55人。このうち死刑が言い渡されたのは37人にのぼります。それぞれの裁判で6人が裁判員を務めるため、これまでに200人を超える裁判員が死刑を決める評議に参加し、法廷で死刑の言い渡しに立ち会ったことになります。

判決直後の裁判員の記者会見では「明確な証拠が少ない中、死刑にしていいのかという不安はあった」とか、「評議では涙を流しながら議論した」などと、重い判断と向き合った苦悩が語られることが多くありました。

精神的な負担は続くのか

被告の生死を左右する判断に加わった裁判員の精神的な負担は、判決から年月がたつと薄れるものなのでしょうか。それは経験した人にしかわかりません。裁判員制度10年の節目に、死刑判断に関わった裁判員経験者を取材するのにあたって、ぜひ聞きたいテーマでした。
死刑判断に関わった14人の裁判員経験者には「精神的な負担が今も続いていると感じるか」尋ねました。
「今も負担を感じる」とした人が3人
「負担を感じない」とした人が7人
「当時から負担を感じなかった」とした人が4人
「負担を感じない」とした人の話です。
裁判員経験者(京都府 30代男性)
「死刑判決は議論を重ねて裁判員と裁判官で出した結論でした。議論を尽くしたので、精神的な負担は感じていません」
裁判員経験者(大阪府 30代男性)
「人の命を左右するということで、当時は負担感がありましたが、時間の経過によって負担感がなくなりました。当時、裁判官がしっかりフォローしてくれたことも大きいかもしれません」
「負担を感じない」としたほかの人も、裁判員と裁判官の全員で議論を尽くしたことや、時間の経過を理由にあげる人が複数いました。

一方、「今も負担を感じる」という人はどんな心境なのでしょうか。
裁判員経験者(東京都 60代女性)
「時間がたっても負担が昇華していくことはありません。あの判決は何だったのだろうとずっと悩み続けています。裁判員裁判に対して否定的ではありませんが、肯定もしきれません」
裁判員経験者(福岡県 30代女性)
「正しい判断が出せたかどうか、納得できていないので、今もそのことを負担に感じています。子どもが関わる事件だったので、自分が子育てしていく上で、子どもに対する心配がトラウマみたいに残っている部分があります。子どもの成長に合わせて、私の不安も少しずつ解消してくれたらいいと思っています」
裁判所は裁判員を務めた人の精神的な負担を軽減するため、メンタルヘルスケアの窓口を設けていますが、その利用率は低い状況が続いています。

負担を感じているという裁判員に窓口を利用しない理由を聞くと、「窓口に相談してもそう簡単に不安はぬぐえるわけじゃない。一時的に話を聞いてもらうよりも、家族とか身近な人に相談したほうがいいと思った」と話していました。
裁判員制度の設計に加わった國學院大學の四宮啓教授は「死刑判断に関わった裁判員に限らず、悩んでいる裁判員はたくさんいると思います。精神的な負担が予想される事件ではメンタルヘルスの専門家も法廷で裁判を傍聴し、事件の内容を知ったうえで裁判員の気持ちを聞くなど、裁判官・裁判員が一緒に、専門家の元で語り合うことが必要です」と指摘し、裁判員の精神的な負担を軽減する新たな措置が必要だと提案しています。

2審の死刑判決破棄 裁判員の受け止めは?

裁判員裁判が開かれるのは地方裁判所での1審のみに限られています。被告側か検察のどちらかが判決を不服として控訴した場合、2審の高等裁判所では裁判官だけで審理されます。

裁判員裁判によって出された1審の死刑判決の多くは2審でも維持されていますが、破棄されたケースもこれまでに5件あり、いずれも無期懲役とされました。

日本の刑事裁判は3審制で、被告の生命に関わる究極の刑罰である死刑の適用は最大限慎重な手続きが求められます。

一方で裁判員制度の導入にあたって、最高裁の司法研修所は2審の審理の在り方について「1審の判断は裁判員と職業裁判官とが力を合わせて行うもので、市民感覚が反映される。それにより司法への信頼が高まることが裁判員制度導入の意義であり、2審としては、1審で市民感覚が反映された結果をできるかぎり尊重しつつ審査にあたる必要がある」という見解を公表しています。

2審で死刑判決が破棄された事件について1審の裁判員を務めた人たちは、どのように受け止めているのか尋ねると、受け止めはさまざまでした。
平成26年に神戸市で小学1年生の女の子が殺害された事件は、1審の神戸地裁が死刑を言い渡しましたが、2審では「誘拐から殺害まで計画を立てていたとは言えず、偶発的な側面が否定できない」として無期懲役になりました。
裁判員経験者(兵庫県 40代男性)
「これまでの判例から、被害者が1人の場合は死刑は難しいという説明はされていました。2審で無期懲役になることは想定していたので、驚きはありませんでした。議論を尽くして出した結論なので、僕たちがやったことがむだだったとは思いません」
一方、2審で死刑判決が破棄されたことについて、釈然としない思いを持っている人もいます。

平成21年に東京 港区のマンションで高齢の男性が殺害された強盗殺人事件は、1審が死刑を言い渡しましたが、2審は「1審は前科を重視しすぎている」として無期懲役となりました。
裁判員経験者(東京都 60代女性)
「判決を出すまで事実を検証して、積み上げたうえでの結論でした。しかし、その判決が確定しなかったことで、それに対するモヤモヤが残っていて、今も釈然としません。プロの裁判官に話を聞かせてほしいという思いもあります」

「永山基準」は変わらない?

2審が裁判員裁判の死刑判決を覆すことに対しては市民感覚を無視しているという批判が少なからずあります。これまで破棄された5件のケースで2審はいずれも、過去の判例と照らし合わせると死刑は重すぎて公平性を欠くという判断を示しています。

裁判員裁判の導入は日本の刑事司法を激変させました。一方で、裁判員制度の導入から10年たっても変わらないものの1つに、死刑かどうかを判断する際に検討されるいわゆる「永山基準」があります。

「永山基準」とは、昭和58年に最高裁が死刑を適用するかどうかを判断する基準として示し、現在も死刑判断では必ず検討されます。殺害された被害者の人数や、犯行の悪質さ、犯行の動機など、9つの項目があげられ、これらを考慮したうえでやむをえない場合に死刑の選択が許されるとされています。

今回のシリーズの1回目で取材した東京地方裁判所のあるベテランの裁判長に、裁判員の市民感覚によって永山基準が変わることはないのか尋ねたところ、変わっていくべきだという意見を持っていました。

この裁判長は「裁判員の発想によって永山判決に書かれている要素以外のことをちゃんと考え、死刑方向になるのか、死刑回避の方向になるのか、どちらかはわからないが、重点を変えた判決がそのうち出てくるはずだと思っているし、そうあるべきだと思っている。法律家は永山基準がすべてだというミスリードはやめたほうがいい。過去に決まったルールがすべて支配するようでは、裁判員裁判を何のためにやっているか分からなくなる。裁判員の方には、永山基準とは別の要素でもっと重要だと思う要素があれば、ぜひ意見をお願いしたいと思う」と話していました。

今後、裁判員の意見によって永山基準が変わったといえる判決が出る日がくるかもしれません。

議論は高まらず

裁判員が死刑判断に加わることの是非について考える際に、もう1点、重要なポイントがあります。日本では死刑制度が支持されていることです。
NHKがことし4月に実施した裁判員制度に関する世論調査では死刑制度の存続の是非について、「存続させたほうがよい」と「どちらかといえば存続させたほうがよい」と答えた人が合わせて74%で、「廃止したほうがよい」「どちらかといえば廃止した方がよい」と答えた18%を大きく上回っています。

また裁判員が死刑の判断をすることについて、「妥当だ」と「どちらかといえば妥当だ」と答えた人が合わせて52%で、「妥当ではない」と「どちらかといえば妥当ではない」を合わせた38%を上回っています。

実際に死刑が求刑された事件で裁判員を務めた14人にも死刑制度の存続の是非を尋ねました。
「存続させたほうがよい」と答えた人が8人
「廃止したほうがよい」と答えたのは2人
「わからない」と答えたのは4人
裁判員として死刑判断と向き合う経験をしたうえで、死刑制度の存続を支持する人が多い結果となりました。

「存続させたほうがよい」と答えた裁判員経験者は「被害者や遺族にとって必要だ」と答えた人がほとんどでした。

一方で「廃止したほうがよい」と答えた人からは「職業裁判官であっても判決に関わる人の負担が大きい」などという意見が聞かれました。
裁判員制度の導入からこの10年間、死刑制度の存続の是非について、大きな議論にはなっていません。また、裁判員が死刑判断に加わることについても、何も変わらないまま、今後も裁判員に選ばれた市民が重い判断と向き合うことになります。

最高裁は裁判員制度10年にあたって制度を検証する報告書を公表しましたが、そこにも裁判員が死刑判断に加わることについては触れられていませんでした。

こうした状況について國學院大學の四宮教授は「死刑が求刑される裁判に裁判員に入ってもらうのであれば、死刑が執行される人と執行されない人はどのように区別されるのかなど、死刑に関する情報をもっと開示すべきだ」と指摘し、死刑制度について裁判員によく理解してもらったうえで判断してもらうべきだとしています。

そのうえで、議論が高まらない原因の1つとして、四宮教授は「死刑という重大な刑罰を科すそういう仕事をしてきた裁判員経験者が体験を語っていないということがあげられる。どんな点に悩んだのか、どうやったらよかったのかということを、もし経験者が語ってくれれば、いろいろな変化が生まれてきていたのではないか」として、裁判員に課せられる守秘義務も改善が必要だと指摘しています。

法務省が裁判員制度10年にあたることし1月から検討会を設けました。今後、裁判員の負担の軽減や、守秘義務の在り方、それに2審や最高裁が1審の死刑判決をどう扱うべきかなどについて議論される見通しです。また四宮教授も指摘しているように、裁判員を務めた人たちの体験が社会に共有されていないことも大きな課題でしょう。

死刑制度がこれからも存続する以上、裁判員が死刑判断に加わることの是非についても幅広い議論が必要な時期にきているのではないでしょうか。
裁判員制度の導入は“人質司法”と批判されてきた保釈制度の運用にも大きな影響を与え、この10年で保釈率が倍増しています。

6月18日(火)午後10時からのクローズアップ現代+で激変する保釈の現場を詳しくお伝えします。