子どもが座っちゃダメですか?

子どもが座っちゃダメですか?
今月2日の日曜日ーー

4歳の娘と外出先から帰宅する途中、新宿駅始発の電車に乗ったときのことです。
優先席が空いていたので娘を座らせ、私はその前に立ちました。
ほどなく発車の合図とともに電車が動き出すと、「ガタン」という反動で、椅子に座っていてもの体が進行方向と逆側に倒れそうになりました。

娘は4歳になったばかり。まだ不安定な体を気遣っての行動ではありましたが、その後、家族や同僚と議論になりました。

幼い子どもを優先席に座らせることは許されるのでしょうか。調べてみることにしました。(ネットワーク報道部記者 伊藤竜也 大窪奈緒子 玉木香代子)

優先席に座らせたのは…

そのとき車内は、すべての座席に人が座り、ドア付近にカップルや家族連れが立つ程度の混み具合でした。

電車は、次の駅に停車。そのとき、お年寄りの女性が乗ってきて、優先席の私の隣に立ちました。

《あなたは娘に席を譲らせないのですか?》
女性が明らかに強い視線で訴えてきます。

女性からのアピールはしだいに強まりましたが、次の駅で降りるまで娘に席を譲るように言いませんでした。

なぜ言わなかったのか。
娘はふだん立つこと歩くことに支障はありません。
ただ、電車やバスの中だと動き出すときや、減速するときのブレーキなどの反動でバランスを崩して倒れることがあります。
手をつないで立っていても大人がふらつけば、つられて倒れたり、周りにぶつかったりします。電車やバスの中だと、3歳から4歳ぐらいまでの子どもは、お年寄りと同じで足元が不安定です。

転倒しやすいという点で優先席を使うことが許されると考えました。

優先席で良かったの? 知らなかった…

帰宅後、そして翌朝、職場でこの話をすると、熱い議論に。

「子どものほうが元気なんだからお年寄りに譲るべき」
「優先席ではなく一般席側で譲ってもらう方がまだよかったんじゃないか」
「不安定な子どもの足元のこと、あんまり知らなかった」


批判も含めて、さまざまな意見が出て考えさせられました。同時に疑問もわいてきます。

体力的にうまくバランスをとれるのは、いつごろなのか?ーー

赤ちゃんであればどうすべきかはわかるけど、抱っこひもを卒業した“3歳から4歳ぐらい”の子どもの成長を考えたときにどうすればよかったのでしょうか。

“電車遠足”に取り組む幼稚園に聞いてみた

30年近くにわたって電車を使った遠足を続ける、千葉県柏市の柏幼稚園の新谷明美園長に疑問について話を聞きました。
「個人差はありますが周りを理解する力のほか、足でふんばる体力がついてくるのは、おおむね4歳半ば以降でしょう。その頃から電車の乗り方やマナーを楽しみながら学んでもらう遠足を行っています」(新谷園長)
この園では、3歳から4歳になったばかりだと、まだ足元がおぼつかないため、電車での遠足は控えているといいます。

参加できる時期は、4歳の秋以降。それからようやく、地元で短時間電車に乗る練習を積んだ上で30分ほどの“電車の旅”、遠足本番に臨むといいます。

電車での約束

さらには、電車内での“約束ごと”も習います。
優先席には座らない。元気な子どもはお年寄りや体の不自由な人がいたときは席を譲る。立っているときは手すりにつかまる。座るときは座席に背中がつくまで深く腰掛け、リュックサックはひざの上にのせる。本番前に、園内だけでなく、家庭でも話しあってもらうそうです。

一方で、子どもの目線にたつと、電車の中でつかまることができる手すりは限られます。できるだけ子どもが手すりにつかまれるよう5人から8人ほどのグループに分けて乗車させます。

「子どもは吊革が使えないので立っているときは、周りの大人が見守る気遣いが大切です。まだ足元がふらつく子どもの場合は大人が座って、ひざの上にのせたり隣に座って支えてあげることも必要でしょう」(新谷園長)

鉄道会社「できるだけ座って」

鉄道会社はどう考えているのでしょうか。

小田急電鉄の広報担当者に聞いてみました。

優先席はお年寄りや身体が不自由な人、妊婦や乳幼児、乳幼児を連れている人等が対象ですが、“譲り合い”の基本方針のもと、子どもの年齢についてははっきり決めてはいません。

一方で電車は時速100キロほどのスピードで走り、急ブレーキをかけることもあるので、「足元のおぼつかない幼児にはできるだけ座席に座ってもらいたい」とのことでした。

子どもも安全に乗るために

子どもが立って乗ることを考えた安全策もとられてきました。

ドア付近の手すりを改良し、小さい子どもでもつかまりやすいよう、今は床からの高さを80センチから40センチに引き下げています。
近年リニューアルした車両や新型車両には座席部分に新たに手すりを設けました。4人掛けだと1か所、7人掛けでは2か所あります。
もともとは、お年寄りなどが立ち上がる動作を助けるのが狙いですが、子どもがつかまることも想定して設計したといいます。

小田急電鉄広報担当者は「子どもがつかまれる手すりや座席は数に限りがあります。親御さんが気をつけるほかに、周りの人のサポートがあると助かります」と話していました。

お年寄りが転倒すると危険

一方で、心にとめておきたいことがあります。

足のクリニックの院長の桑原靖医師に聞くと、先日の横浜市のシーサイドラインのような事故が起きた場合、重症になるのは子どもより高齢者であり、お年寄りが優先して座ったほうがよいと指摘します。
子どもは多少変な転び方をしても、頭から落ちても、体が軽く柔軟性も高いため軽症で済むことが多いのに対し、高齢者は転倒すると、かなりの確率で大腿骨や手の骨を折ることがあるため危険だといいます。

優先席は“理由”があって座る席

しつけや教育的な観点からは、どうなのでしょうか。

教育学が専門で、鉄道と育児・教育との関係についての著書がある福山市立大学の弘田陽介准教授は、優先席について「現状では子ども1人の使用はあまり想定されておらず、基本的に幼児を座らせるべきではないでしょう」と判断しています。

ただし「乗っているときに転倒する危険があるときや、長時間の移動、それまでの活動で疲れている場合には利用するべき」とも指摘します。
「どうしても疲れていて、しんどい。危ないということを子どもといっしょに確認しながら優先席を使用するのはよいことです。理由があって使用する席だということを3歳から5歳ぐらいから、ことばのレベルできちんと諭しながら使用することが親子のよいコミュニケーションにもつながります」
「高齢者が増え、優先席に必ず座れるわけではないのが実情です。以心伝心の日本社会はなくなりつつあり、高齢だからといって相手が忖度(そんたく)する世の中ではなく若くても事情があって優先席を使う人もいます。優先席に座っている人には、それぞれ事情があるということをみんなが理解し、寛容さを持っておくことが無用のストレスをためない社会生活上のコツではないでしょうか」

コミュニケーションを大切に

利用にあたっての明確な決まりがないだけに、互いの事情にかたくなにならず、思いやりと寛容さを持っておくことが大切なのかも知れません。

今後は娘と一緒のときは、はなから優先席を使うのではなく、ほかに必要としている人がいないか? 本当に座りたいのか? コミュニケーションを取りながら、成長する娘と電車の旅を楽しみたいと思いました。