誰も頼れないママへ

誰も頼れないママへ
子育てで誰も頼れない、孤立してしまった母親が、子どもを傷つけてしまう悲しい事件が後を絶ちません。

「うちでお母さんをケアしてあげられていたら」

ある助産師の女性は、事件のニュースを目にした時、こう思わずにはいられなかったそうです。いま、産後のお母さんの孤立を防ぎ、心身をケアする「産後ケア」が助産院などで広がっています。
その現場を取材すると、くつろいだ様子のお母さんたちの笑顔に出会えました。(ネットワーク報道部記者 岡田真理紗)

産後の自殺、うつを防ぐために

夫や実家は頼れない、自分が頑張るしかない。

子育て、”独り”で抱え込んでいませんか?

でも、それが行き詰まってしまうと、危険な場合もあります。国立成育医療研究センターが平成28年までの2年間のデータをもとに、産後1年未満の間に死亡した女性の死因を調べたところ、自殺が最も多く、92人が亡くなっていました。
その多くに産後うつが関係しているとみられます。
私自身も、産後はだっこが続いて体の痛みで眠れなくなり、夜も2~3時間おきに起こされる生活に疲れ果てて気持ちも落ち込みました。事件も、産後うつも、決してひとごとではないと感じます。

こうした現状を受けて、広がっているのが「産後ケア事業」。
国は、平成27年から、病院や助産院などで行われる産後ケアに、市町村を通じて補助金を交付する事業を本格的に始めました。いったいどんなケアが受けられるのか知りたくて、東京・中野区の助産院を訪ねました。

「寝顔がかわいい」「ゆっくり見たことなかった」

住宅地の中にある「しらさぎふれあい助産院」。

代表の助産師、木村恵子さんの自宅を改装した一軒家には、個室が2部屋と、カーテンを引いて相部屋として利用できる和室が1部屋あり、それぞれにベッドがあります。
デイケアのプログラムは、午前10時から。
赤ちゃんと一緒に訪れたお母さんは、育児相談や、母乳の指導などを受けます。その後、手作りのお昼ご飯を食べ(料金は別途500円)、20分程度のマッサージも受けられます。
午後3時まで、お母さんたちは、赤ちゃんを預けて部屋で眠ったり、悩み事などを相談したり、思い思いに過ごすことができます。
中野区では、平成27年10月から産後ケアへの補助を始めました。
赤ちゃんとお母さんが一緒に助産院などに宿泊できる「ショートステイ」、日帰りでケアを受けられる「デイケア」、自宅に訪問してサポートするケアの3種類のケアを提供しています。

このうち、「デイケア」は、区内6か所の助産院などがサービスを行っていて、昨年度は310人のお母さんが利用しました。
デイケアの利用料は1回1000円(非課税世帯は無料)で、赤ちゃんが生後6か月まで、最大で5回利用できます。
この日の利用者は2人。このうち、生後3か月になる女の子のお母さんは、妊娠中に区役所の面談でデイケアのことを知り、「たぶん使わないだろうな」と思っていたそうです。
でも、産後は育児が想像以上につらく、気持ちが落ち込むことも。夫にすすめられ、すでに3回利用しているといいます。

このお母さんがお昼ご飯を食べる間、赤ちゃんは助産師に見守られてすやすや。その寝顔を見ていたお母さんが、ぽつりと漏らしました。
「寝顔、かわいい。いつもは寝たらすぐ、家事をしなきゃと思ってしまうので、ゆっくり見たこともなかったです」
柔らかい表情から、育児で張り詰めていた気持ちが、緩んだのがよくわかりました。

「実家を頼れない母親」の、実家代わりに

木村さんが、このデイケアを始めたのは去年。

「初めて来たときは青白い顔で思い詰めていたママが、2回、3回と来るにつれて『また来ます』と笑顔で帰って行くのを見て、必要とされていると実感しています」と話します。
「ここに来て話しているうちに、うわっと泣き出してしまうお母さんもいます。気付かないうちに我慢していて、体も心も疲れ切っている。両方をケアしてくれるところが求められていると思います」(木村さん)
なぜいま、育児をつらく感じる母親がこんなにいるのでしょうか。木村さんは、社会の変化によって子育てが孤立化していると感じています。
「昔は、出産したら、実家や夫の家族に頼るのが当たり前でした。でも今は、親が仕事を続けていたり、祖父母の介護に追われていたりして、育児を手伝えないというケースが増えています。さらに、高齢出産の方の場合、親も高齢で、とても育児を手伝ってもらえないということもあるのです。社会の変化が、すべて“育児を手伝ってくれる人がいない”という方向に向かっています」(木村さん)
実際に、この日利用していたお母さんも、実家は東京で、両親は健在。でも、母親は中学校の教師をしていて、日常的に子育てを手伝ってもらえる余裕はないといいます。疲れ切っていたのか、お昼を食べたあと、個室で2時間眠ったといいます。
「家だと子どもが寝たら、家事をやらなきゃって思っちゃうんですけど、ここに来るときは休むと割り切れる。睡眠不足が続いても、この日は絶対眠れる、この日まで頑張ろう、と励みにして頑張ってます」(利用していた母親)
もう1人の利用者のお母さんは、実家が大阪。産後すぐの時期は実家でサポートを受けられましたが、2か月目からは東京に戻り、日中は赤ちゃんと二人きり。東京に戻るとき、付き添って上京してくれた母親が帰ってしまい、自宅のドアが閉まった瞬間、心細くて涙が出たといいます。このお母さんも「ここに来るといろんなお母さんと話せて悩みが軽くなります」と話していました。

最後は、2人とも笑顔で帰って行きました。
木村さんは「実家を頼れない人が増えているいま、“実家のようなところ”になっていきたいし、そういう場所がもっと増えていかないといけない」と話していました。

広がる産後ケア でも地域差が…

厚生労働省によりますと、国の制度に基づいて産後ケア事業を行う自治体は平成27年度は61市町村でしたが、昨年度には667と10倍以上に急増しました。
現在は全国1741の市町村の38%で実施されていることになります。

しかし、産後ケアが受けられるかどうかは地域によって大きくばらつきがあります。
都道府県別でみると、富山県や福島県では90%以上の市町村で産後ケアが受けられますが、秋田県では1か所、大分県と沖縄県では2か所の自治体しか実施していません。(※詳しくは文末の別表)
厚生労働省によりますと、「産後ケア事業を実施したいがしていない」という市町村には、財政が厳しく予算がつけられなかったり、保健師や助産師などが人手不足だったりといった事情があるようです。

担当者は「出生数が非常に少ない自治体も含まれているので、必ずしもすべての市町村で実施する必要はありませんが、できるだけ必要とされている方が利用できる状況を作っていきたい」と話していました。お住まいの市町村で産後ケアが受けられるかどうかは、「市町村名+産後ケア」などで検索すると、市町村のウェブサイトなどで情報が掲載されている場合があります。

もし情報がすぐに見つからなくても、事業を行っている場合もあるかもしれません。詳しくはそれぞれの自治体の窓口にお問い合わせください。

お母さん、頑張りすぎないで

今回、取材してみて、つらいとき、赤ちゃんを預けてゆっくり休める場所があることの安心感を感じました。
「育児、頑張りすぎないで」ということばを聞きますが、そのためには母親が休むためのサポートが必要です。
悲しい事件を防ぐためにも、のぞめば誰もが産後ケアが受けられる状況を作っていってほしいと思います。

特設サイトを立ち上げました

NHKは、「孤立している」と感じながら子育てをしているお母さん、お父さんに読んでほしい情報を伝えていくため、「NHK NEWSWEB」に特設サイト、「“孤育て”ひとりで悩まないで」を立ち上げました。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/kosodate/
取材にあたるのは、主に、子育てをしながら働く記者たちです。自分たちの経験も踏まえながら取材を進めていきますが、皆さんからの体験談やご意見も募集しています。子育てが苦しいものにならないように、一つ一つ解決策を考えていきたいと思っています。