ハンバーガー大国に異変 ~“肉なし”が急拡大~

ハンバーガー大国に異変 ~“肉なし”が急拡大~
パンがふっかふか。ブルーベリーソースがうまみを引き立てる。はたまたロボットが作る。本場アメリカではさまざまなハンバーガーが出回っていますが、香ばしくてジューシーな牛肉は不可欠です。

ところがことしに入って、異変が起きています。動物の肉ではない、植物由来の代替肉が一気に普及しているのです。本当のところおいしいのか?なぜ急速に広がっているのか?ハンバーガーが大好物で、年間60個以上は食べ歩いている記者が解説します。
(ロサンゼルス支局長 飯田香織)

ファストフードが続々採用

アメリカ第2のハンバーガーチェーンのバーガーキングが、新商品の投入の地に選んだのは中西部ミズーリ州のセントルイス。

新しもの好きが多いニューヨークやロサンゼルスなどの大都市ではなく、畜産が盛んで保守的な考えの消費者が多いとされる地域であえて代替肉に挑みました。
4月から59店舗で代替肉を使った「インポッシブル・ワッパー」を販売。日本円で600円余りと、従来のハンバーガーより100円ほど高く設定しましたが、売れ行きは好調で、年内には全米7200の店舗すべてで販売すると5月に明らかにしました。

これに先立つ1月、同じくハンバーガーチェーンのカールスジュニアも代替肉のハンバーガーを発売。
ほかにもファットバーガーハードロックカフェチーズケーキ・ファクトリーといった有名チェーンや、地域のハンバーガー専門店のメニューでも代替肉バーガーを見かけるようになりました。

ピザやタコスの専門店も具材に代替肉を使うようになり、大きなうねりとなっています。

素材はすべて植物

代替肉の開発メーカーはいくつもありますが、フロントランナーはシリコンバレーのインポッシブル・フーズとロサンゼルスのビヨンド・ミートの2社。両社にはマイクロソフトの創業者、ビル・ゲイツ氏が出資しています。

インポッシブル・フーズのパテは、大豆のたんぱく質を使っていて、脂身をココナツオイルで再現するなど、全て植物からできています。牛肉特有の風味をもたらすのは、大豆から採れる、真っ赤な「レグヘモグロビン」と呼ばれる成分です。
一方、ビヨンド・ミートのパテは、エンドウ豆のたんぱく質が主で、脂身の再現には菜種油やココナツオイルを使用。ロシア料理のボルシチに使われるビート(ビーツとも呼ばれる)という真っ赤な根菜の抽出液で色をつけ、やはりすべて植物由来です。

味は普通においしい

表面は、こんがりきつね色。内部は赤みを帯びていて香りまで肉のようです。食感も味も、言われなければ代替肉だと気づきません。
おととし、筆者が初めて食べた時はパサパサしていたので、ずいぶん改良が進みました。ハンバーガーとして普通においしいです。
しかし、ハンバーガーだとパテにはソースがかかり、トマトやレタス、チーズと一緒に食べることが一般的。パテ本来の味がわかりません。

そこで、近所のスーパーの食肉売り場で代替肉を購入し、自宅のフライパンでジュージューと焼いてみました。パテは1パックに2個入って約760円とやや割高ですが、まずまずの売れ行きの様子。
指示に従って強火で片面を3分焼き、何もつけずに口に入れたら豆の味がしました。ところが、不思議なことにかんでいると、どんどん肉の味に変化するのです。

肉市場の10%が代替肉に

2019年は「ビーガン(植物由来の食品)の年」と言われていて、代替肉(牛肉以外にも豚肉や鶏肉の代替)が一気に普及する見通しです。

大手金融機関バークレイズの予想によりますと、世界全体の代替肉市場は、主に若い人たちがけん引して10年後には今の10倍の1400億ドル(約15兆円)に達し、巨大な“肉市場”の10%を占めるほどになるということです。

また、バンクオブアメリカ・メリルリンチも「植物由来の“次世代の肉”は、リアル肉市場に破壊を起こすだろう」という見方を示しています。

健康・環境保護・動物愛護、それに…

代替肉バーガーを食べている人に、その理由を聞くと、3つの回答が返ってきました。

まずは健康のため。アメリカプロバスケットボール=NBAや大リーグには代替肉を好んで食べる選手が少なくありません。テニスの元世界女王、セリーナ・ウィリアムズ選手もそんなひとりです(5月にインポッシブル・フーズに出資)。
体を鍛えて筋肉むきむきの男性が「パワーが出るのに、肉を食べたあとに起きる胃もたれがなく、体が軽い感じ」と解説してくれました。
2つめは、環境保護のため。肉牛が摂取する穀物や水は大量で「地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出も多い」と懸念する消費者が大勢いました。
3つめは動物愛護のため。「動物を殺してまで肉を食べたくない」や「動物の肉を食べることに罪悪感を感じる」という若いアメリカ人が多いことに驚きました。
さらに「牛肉よりもおいしいから」と答える人も。これまで植物由来の食品と言えば、筋金入りの菜食主義者がターゲットでしたが、企業はいま、日ごろ普通に肉を食べているこうした人たちの取り込みを狙っています。

代替肉は肉か

一方、さらなる普及には課題もあります。

大手チェーンが代替肉のハンバーガーを「ワッパー」などと呼び、「ハンバーガー」と呼ばないのは、呼べないからです。

冒頭に紹介したミズーリ州は、畜産農家の働きかけを受けて「動物由来でないものは肉やハンバーガーと呼べない」という法律を制定。ミシシッピ州、サウスダコタ州、オクラホマ州でも同様の法律が成立したほか、多くの農業州の議会で法案が審議されています。代替肉は、スーパーでも動物の肉と隣り合わせで売られるようになり、畜産農家は危機感を持っているのです。

エンドウ豆は足りるか

また、エンドウ豆の確保も課題です。

大豆アレルギーのある消費者が多いことを踏まえて、ビヨンド・ミートなどは、エンドウ豆のたんぱく質を使っています。エンドウ豆のたんぱく質は、代替の卵などにも使われているため、代替肉や代替卵に使われるエンドウ豆の市場は2025年までに4倍に急拡大すると、業界関係者は予想しています。

エンドウ豆が好む冷涼な気候のカナダが生産を増やす見通しですが、ビヨンド・ミートのイーサン・ブラウンCEOは、玄米やカラシの種子、平豆のたんぱく質を使うなどして、原材料の多様化を図る考えを示しています。

最大手も動いた

この流れは止められない。そんな見方を決定づけたのは、アメリカの食肉最大手タイソン・フーズの発表です。代替肉を自社開発して、この夏、販売に乗り出すことを5月に明らかにしました。

ノエル・ホワイトCEOは、「ノウハウも流通網も持っており、一気に広げたい」と自信満々。動物特有の病原菌などに感染することがなく、価格が安定しているというのも魅力のようです。
そして、ハンバーガーチェーン最大手のマクドナルドも5月、ついに参入。と言ってもまずはドイツで、です。食品メーカー世界最大手のネスレの代替肉を使い、消費者の反応を探ります。

狙いは肉好き

ハンバーガー好きの筆者もことしに入って代替肉は“あり”だと思うにいたりました。普通の肉も食べるが、おいしければ代替肉でもよい。そう考える消費者は着実に増え、アメリカの国民食とも言えるハンバーガーの異変は一気に進んでいます。
ロサンゼルス支局長
飯田香織

1992年入局
京都局、経済部、ワシントン支局などをへて
2017年から現職