“キャプテン”の野望 ~欧州で自国第1主義のうねりを~

“キャプテン”の野望 ~欧州で自国第1主義のうねりを~
いま、ヨーロッパで最も注目されている政治家と言えばこの人、イタリアのマッテオ・サルビーニ氏(46)。去年6月に誕生したイタリアの連立政権で副首相と内相のポストに就任すると、瞬く間に人気を集めました。支持者からは「頼りになる」という意味も込めて、「カピターノ=キャプテン」と呼ばれています。誰とでも気さくに自撮りをし、メッセージはSNSで発信。イタリアの国益を最優先にという政策「PRIMA L’ITALIA!(プリーマ・リターリア)=イタリアを第1に」が多くの国民の共感を呼んでいます。今月行われたEU=ヨーロッパ連合の加盟国から議員を選ぶヨーロッパ議会選挙では、みずからが党首を務める右派政党「同盟」が大きく躍進しました。その勢いは他の国にも広がり、自国第1主義を掲げる各国の政党を結集させようとしています。サルビーニ氏はなぜヨーロッパで支持を得ているのでしょうか。(ヨーロッパ総局記者 小島晋)

“キャプテン”の大躍進

ヨーロッパ議会選挙の結果を受けてサルビーニ氏が真っ先にツイッターに投稿したのがこの写真。満面の笑みを浮かべ、手にした紙には「イタリアで第1党だ。ありがとう」と書かれています。

サルビーニ氏の「同盟」は今回の選挙で大幅に議席を増やしました。ヨーロッパ議会でイタリアに割りふられた議席数は73議席。前回5年前に「同盟」が獲得した議席はわずか5議席でしたが、今回は29議席を獲得して第1党になりました。
躍進の秘密は選挙戦にありました。ヨーロッパ議会選挙は比例代表で行われます。イタリアでは5つの選挙区で各政党が候補者の名簿を作りました。

「同盟」はどの選挙区も候補者名簿のトップはサルビーニ氏。現職の閣僚で上院議員でもあるサルビーニ氏にヨーロッパ議会議員になる気はありません。

当選しても辞退することが許されるルールを利用して、議席獲得のために「選挙の顔」として活動したのです。
集会に行くと支持者からの人気の高さが伺えました。サルビーニ氏が集会で必ず行うのが、支持者と肩を組んで記念撮影する「自撮りタイム」。ときには1時間近く続くこともあります。

ラジオのパーソナリティーを務めた経験もあり、気さくな人柄に、歯に衣着せぬ発言。そのサルビーニ氏が必ず投げかけるのは「私はあなたのために何ができますか?」という質問です。

「自分たちの立場に立ってくれる」、支持者にそんな印象を与えています。

広がる自国第1主義

人気のもう1つの理由は、「イタリアを第1に」という政策です。イタリアの国益を最優先するという単純明快な訴えで、その柱となっているのが反移民政策です。

中東やアフリカからの移民や難民の玄関口となってきたイタリア。移民政策を担当する内相に就任したサルビーニ氏が行ったのが「港の閉鎖」でした。

ヨーロッパを目指す途中、地中海で遭難し救助された人たちの上陸を拒否。難民申請者が一時的に滞在する施設の閉鎖などにも乗り出しました。

移民や難民の受け入れでイタリアは負担を負いすぎていると主張するサルビーニ氏。こうした強硬な政策も支持拡大の要因となっています。

人口800人の村でも

移民や難民が上陸する南部から遠く離れた北部の山あいにあるボッタ村。人口およそ800人の一見、移民政策と無縁の村でも、サルビーニ氏の政策に共感が広がっています。

長年、公務員として働き、いまは年金生活を送っているフェルーチョ・ペゼンティさん(74)。ペゼンティさんがサルビーニ氏の主張に強く共感するようになったのは、難民申請者の一時保護施設が村に出来たことがきっかけでした。
ボッタ村では現在、難民申請の結果を待つ人たち100人余りが暮らしています。

ペゼンティさんは、施設が出来てからバスが乗客であふれたり診療所で待たされたりするようになったと言います。公共サービスでは後回しにされ、施設の維持費も自分たちの税金が使われていると不満を募らせています。
「多額の税金を払ってきたのに、きのう、きょう、イタリアに船で着いた人たちが私が受けるべき処遇を受けているのは納得がいかない」
ペゼンティさんのように考える人は少なくありません。イタリアは長く経済の低迷が続き、暮らしはなかなか上向いていません。

先行きも不透明な中でサルビーニ氏の「イタリアを第1に」は人々の心に心地よく響いているのです。

内外から懸念も

一方で、こうした主張には国内外で懸念が強まっています。

ミラノで長年、人権問題に取り組んできた弁護士のアルベルト・グアリーゾさんは、サルビーニ氏が移民を敵視し、あらゆる問題を移民のせいにして単純化していると批判します。

そして、サルビーニ氏の発言に影響されて、移民に対する嫌がらせや差別が増えているというのです。行政の政策すら例外ではないと言います。

自治体の中には、必要な証明書類を増やすなど意図的に審査基準を厳しくして移民や難民が福祉手当や教育補助を受け取れないようにするなど、「敵視」が広がっていると言います。
今月中旬にはこうした排他的な風潮の広がりに対抗しようというデモ行進が、イタリアやドイツ、フランスなど13か国、50以上の都市で行われました。

参加者からは、「このままではヨーロッパがばらばらになり、ともに生きていくというEUの理想が失われてしまう」という強い懸念の声が聞かれました。

各国との連携の行方は

しかし、サルビーニ氏がこうした批判を気にかける様子はありません。

今月18日に地元ミラノで行った集会では、「我々は極右ではない。良識のある政治を進めている。過激なのはこれまでヨーロッパを牛耳っていた奴らだ」と演説。

これまでのEUの指導者たちこそ、EU統合や人道主義の名のもとに市民の声を無視してきたのであって、自分たちで決める権利をEUから取り戻すと訴えました。

集会には11か国から右派政党や極右政党の党首らも参加。自国第1主義の結集を呼びかけていました。

今回の選挙で自国第1主義などを掲げるEU懐疑派勢力は、イタリアに加えて、離脱を決めているイギリスや、フランスといった主要国で第1党になりました。
選挙後、サルビーニ氏は「ヨーロッパの有権者は変革を望んでいる」と話し、EUのあり方を変えていくことに意欲を示していました。

多くの犠牲と国土の荒廃をもたらした2つの世界大戦の反省を踏まえ、平和や多国間協調の理念のもとに設立されたEU。まだまだEUの価値を支持する市民の方が多いのは事実です。

しかし、サルビーニ氏の「イタリアを第1に」という、わかりやすい、シンプルなメッセージは着実に浸透していると感じます。

このメッセージにどう対抗していくのか。EUにとっては難題が待ち構えています。
ヨーロッパ総局記者
小島晋