不登校 “IQ145”の生徒が選んだ居場所

不登校 “IQ145”の生徒が選んだ居場所
幼児ほどの知能しかなかった32歳の主人公が、手術によって高い知能を手に入れるSF小説「アルジャーノンに花束を」。変貌した主人公が、知識を得る喜びを知る一方で、周囲の人との関わりに苦しみ、孤独感を抱く物語です。この主人公に自分を投影する中学生がいます。彼もIQ=知能指数が高い一方で、周囲との意思疎通が苦手でした。学校という場にも違和感を持ち続けた彼は、不登校を選びました。(ネットワーク報道部記者 大石理恵)

本当に中学生?

和哉さんと記者
その中学生、和哉さん(13)と取材で最初に会った時、私はまるで大人と話しているような感覚に陥りました。質問にじっくり耳を傾け、ことばを選びながら的確に答えるのです。

自宅の本棚には、経済、歴史、宇宙、漢詩など、あらゆるジャンルの本が並んでいます。母親によりますと、幼いころから周囲には物知りで通っていたそうです。

苦手なのは、対人関係。人からからかわれると、そのことがいつまでも心に重くのしかかると言います。

小学生のときに、ウルトラマンの特撮ヒーローものが大好きでよく見ていました。それを友人に話すと、同級生たちはすでに特撮ものを卒業していたようで「まだ子ども向けの番組を見ているのか」「ダサい」と言われました。好きなものを侮辱されたようで、いやでたまりませんでした。
和哉さん
「僕は本当に気弱というかストレスに弱かったので、ほかから見ると、ただのからかいだったかもしれないけど、僕は重く受け止めていました」
会話もうまくできず、人から注意されました。違う話題で突然割り込んだり話の腰を折ったりするからです。

母親からも「今は別の話をしているから急に入ってくるのはやめて」「空気を読んで」とたびたび言われました。

IQ145

次第に小学校が苦痛となり、カウンセリングに通うようになりました。

小学3年生の時、カウンセラーからIQ検査(知能検査)を受けてみてはどうかと勧められました。周りと比べて知能のレベルに差があるのではないかと、言われたのです。

和哉さんは「自分の知能はみんなに比べてきっと下だろう」と思いました。しかし、結果は予想と大きく違っていました。

IQは145。周りのカウンセラーも「見たことがない」高い値でした。

IQとは、一体どういうものなのでしょうか。臨床心理学や発達心理学が専門の東京学芸大学の上野一彦名誉教授は、IQの定義はさまざまだとしたうえで、次のように説明してくれました。
東京学芸大学 上野一彦名誉教授
「IQは、新しい問題を解決する能力とか、学んだことを吸収する能力など、総合的な知的能力です。ただ、IQが高いからといって勉強ができるようになるとは限らず、あくまで学習の土台となる能力を指すことが多いんです。一般的には平均値を100として分布していて、130を超える人は上位2%程度とされています」
ただ、上野さんによると、中には、知能が高いがゆえに敏感で、いろんなことを感じとってしまう子も多く、周囲とうまくいかないケースがあるそうです。

募る不信感と孤独

和哉さんの場合、中学生になると身近な大人、先生への不信感を強く感じるようになりました。
「給食袋を忘れたクラスメイトに対して、担任が廊下に聞こえるくらい大きな声でどなりました。僕は『給食袋を忘れただけなのになんであんなに怒るのだろう』と思いました。その様子を見て、厳しさの使い分けができてない人だと感じました」
こんな出来事もあったと言います。化学の実験やパソコンのできる新しい部活を作りたいと学校に相談したものの、部費や顧問が必要だから難しいと言われました。

「サークルのような小さい活動でもいい」と食い下がったもののかないませんでした。自主性を重んじないと感じました。
でも、まわりの生徒はあまり疑問に感じていない様子だったため、相談する相手もなく孤立感だけが募りました。授業にも、興味が持てなくなってきました。小学校高学年から特に物理学が好きで、大人向けの科学雑誌もよく読んでいた和哉さんにとって、もの足りなく感じたのです。
「教科書を見てすでに知っている内容だと、『もういいや』と思ってしまうのが僕の性格なんです。周りからは授業態度が悪いと思われたかもしれません。とにかく学校では、体にどんよりした空気がまとわりついているような気分でした」

学校に行かなくていいんじゃない?

次第に学校を休むようになった和哉さん。母親も当初は「悪い方向にしか行かない」と悩んでいました。朝、「和哉さんが登校していない」という学校からの連絡も頻繁に来るようになりました。

学校に行きたくない本人、心配する先生、その間で悩む親。その悪循環を断ち切るきっかけとなったのは、不登校の親の会などへの参加でした。

いろんな成長の形があることを知ると、学校の決められたやり方でなくても、好きな分野を見つけて学ぶことはできると思うようになりました。中学1年生の夏休み明け、母親は思い切って、和哉さんにこう言いました。

「もう、学校行かなくてもいいんじゃない?」

和哉さんは、不登校を選びました。

つながる感覚が楽しい

和哉さんのパソコン
学校に行かなくなった和哉さんは、あることに夢中になります。中学進学と同時にお年玉で購入したパソコンで動画を編集し、投稿サイトに出すことです。

睡眠不足などを心配して最初は時間を制限していた母親も、動画の出来だけでなく、複雑な動画編集ソフトのインストールや設定を和哉さんが自分で調べてやっていたことに熱意を感じ、制限するのをやめたそうです。

投稿された動画は徐々に人気を呼び、今では月に数十万回近く再生される作品もあります。
「ここでは、自分の好きな作品を作り上げて、それをいいと言ってくれる人がいる。コミュニティとつながる感覚が楽しい。人に認められる経験がこれまでなかなかなかったので、今になってそれに飢えているんです」(和哉さん)
でも、動画を記事で紹介することは「作者が特定されると嫌なので止めてほしい」とのことでした。

自分らしく学べるかもしれない

黒板がないN中等部(パンフレットより)
家以外でも新たな居場所を見つけつつあります。既存の学校に違和感を持つ個性的な子ども向けに、ことし4月に都内などに設立された「N中等部」です。出版や動画配信などを手がける会社が母体となった学校法人が運営しています。

ある日、母親が持ってきた資料を見た和哉さんが、まず感じたのは「教室に黒板がない」こと。パソコンの前で会話する生徒たちが写っていました。
「ここなら、自分らしく学べるかもしれない」
中学2年になったこの春から通うようになり、国語・数学・英語、それにプログラミングなどの授業を受けています。ただし、学校教育法上の学校ではないため、もとの中学校に籍を置いたままです。

学費は、通う日数によって違いますが、1か月当たり3万円から6万円、入学金10万円も必要です。

友達は常にほしいと思っていた

N中等部で学ぶ和哉さん(右)
和哉さんが特に気に入っているのが、意外にもワークショップを通じてチームワークなどを学ぶ授業だそうです。落ち着ける空間で、仲間の意見に耳を傾けたり、協力しあったりすることは、ずっと追い求めてきたことでした。

実は、中学校に入る前に転校した小学校では、友達どうしでテストの点数比べをしたり、読んだ本の情報交換をしたりして、楽しく過ごした記憶があるのです。

「友達は常にほしいと思っていた」と語る和哉さん。今は週3日通いながら、家では動画を制作する日々を送っています。

立ち遅れている不登校対策

専門家は、和哉さんのように知能が高いものの、社会になじみづらい子どもたちの不登校対策について、日本は立ち遅れていると指摘します。
不登校に詳しい東京理科大学 八並光俊教授
「これまでの日本の不登校施策では、IQの高い子どもについては注視されてきませんでした。支援が十分でないため、当事者である子どもと保護者の社会的、経済的負担も大きいのが現状です。ずば抜けた力があるにもかかわらず、その力が生かされない。それどころか、社会のけん引役となりうる子どもたちが不登校で不利益を受けて、活躍の場を失うことは大きな社会的損失だと思います」
教育現場はどうあるべきなのか、1年間密着取材した模索する学校をもとに考えるNHKスペシャル「“不登校”44万人の衝撃」を5月30日(木)午後10時から放送します。

番組では「#学校ムリかも」で現場の声を集めている日本財団とも連携します。あなたの意見をつぶやいてください。
ネットワーク報道部記者
大石理恵