“悪い世界に憧れていた”

“悪い世界に憧れていた”
「女性を“モノ”としか見ていなかったですね」――京都 祇園の元スカウトは当時の心境を尋ねる私の質問に淡々と答えました。街で声をかけた女性たちを風俗店にあっせんしていたとして、学生スカウトグループが摘発された事件。スカウトたちは女性の恋愛感情を利用し、半ば“洗脳”して彼女たちを夜の世界に送り込んでいました。取材で見えてきたのは学生スカウトたちの上昇志向と、“悪い世界への憧れ”でした。
(京都放送局記者 吉田篤二)

京都 祇園を舞台に学生が

ことし1月、京都 祇園で暗躍していた学生スカウトグループが警察に摘発されました。女性たちを風俗店にあっせんしたとして職業安定法違反の罪に問われ、現在進められている裁判では全員が起訴された内容を認めています。

警察によるとスカウトたちは若い女性たちに声をかけて拠点にしていた祇園のバーに誘い込み、高額な酒をツケで注文させていました。そして高額な借金を抱えた女性たちを大阪や滋賀など、関西各地の風俗店に紹介。被害にあった女性は去年11月までの1年余りに、延べ262人に上っていたということです。

“色恋”にかける

なぜ多くの女性たちがだまされてしまったのか。取材を進めたところ、このグループにかつて所属していた当時は学生だった元メンバーにたどりつき、匿名を条件に話を聞くことができました。
「女性の恋愛感情を利用するんです。恋は盲目というか、正しい判断ができなくなります。そうやって引っ掛ける手口を僕たちは“色恋”(いろこい)と呼んでいました。恋をしたことのない女の子とか、地方から出てきた大学生が多かったですね」
初めて会ったときの彼の印象はひとことで言えば“イケメン”。礼儀正しく、ハキハキと返事をする青年でした。

彼が語った内容や捜査関係者への取材などから、学生たちがやっているとは思えないようなこうかつな手口がわかってきました。
「基本的に毎日4時間くらい声をかけ続けていましたね。不思議なもので、意外とひっかかりますよ。その日のうちに電話して、そのあとも連絡を取って、そのままつきあう寸前まで持っていくんです」
ルックスがよく、有名大学に在籍する学生スカウトたち。京都の繁華街を訪れる若い女性たちにほぼ毎日、声をかけ続けていました。

ことば巧みに女性たちから連絡先を聞き出して頻繁に電話をかけ、一緒に出かけたり食事に行ったりして関係を深めていくといいます。そして女性が自分に好意を抱きはじめているのを確信すると、すかさず祇園にある自分たちのバーに誘い出すのです。

さながらホスト

「先輩たちからは、必ずバーの写真を女の子に見せるよう言われていました。『自分は祇園でこんなオシャレなバーをやってるんやけど、よかったら1回来てみない?』って。それで、バーに来たらスカウトどうし、助け合ってさらに落としていくんです」
バーでは開店前にスカウトたちが集まってミーティングが開かれます。その日、来店する女性の名前はもちろん、大学名や出身地、趣味、考え方など詳細な個人情報を共有するためです。
「バーはホストクラブのようにスカウトたちが順々に女性客を回る仕組みです。自分がターゲットの女の子に付いたときにはその女の子を連れてきた仲間のスカウトの話題を出します。『彼は君のことが好きなんじゃないかな』とか伝えるんです。第三者からの情報って入りやすいんですよ。あとはスカウト本人がウソの苦労話とかをしたあとに、夢を語るとかしたら、完全にほれさせられますね」
こうして女性を「色恋」にかけたスカウトたちは、次の段階へと移ります。
「『僕の顔を立てるためにシャンパンを入れてほしい』とか『本当に彼女ならシャンパンを頼んで』とか言って頼ませます。つきあっている状態になれば、定期的に入れさせてました」
スカウトたちは女性が後になって「聞いていない」と言い出さないよう、注文前に酒の金額は確認させていました。

しかし「色恋」にかければ注文させるのは容易で、女性たちのツケは膨らんでいったといいます。

高額な借金を負った女性たちにスカウトたちはさらに追い打ちをかけます。

“お金の教育”で 負のスパイラルへ

「“お金の教育”っていうのをやるんです。『お金を持ってみたら価値観も変わるし、人生が豊かになるよ』ということを毎日のように話して、常識を覆していく。そして夜の店に紹介するんです。そのころには、女の子たちは洗脳されて正しい判断ができなくなっています。『借金の返済もあるし、まあいいかな』って」
そして女性たちが抵抗なく働けるよう、順序を踏みます。
「風俗店はハードルの低い稼げない種類の店から紹介します。その後どんどんステージを上げていき、『俺のためにもっといい店で働いてほしい』とか、『本当はこんな店で働いてほしくないけど、○○万円稼ぐまで頑張ろう』とか言って“管理”するんですよ」
当初の予定どおり、風俗店での女性の収入は借金の返済に充てさせます。そしてさらにバーに来るよう誘い出して、また高額な酒を注文させるといいます。
「誕生日の時とかには1日で200万円のシャンパンが入ったり、『後輩が誕生日だから』とかでも50万円の酒を入れさせたりしていましたね」
際限ない借金のため、風俗店で働き続ける女性たち。底なしのらせんに落ちていく様子から名付けたバーの名前は「Spiral(らせん)」でした。
女性が落ちれば落ちるほど、スカウトたちが得る報酬は増えていきます。バーでの女性の飲食代の約40%(グループいわく「バーバック」)と、女性の風俗店での売り上げのうち約10%(同「スカウトバック」)を合わせ、月に200万円稼ぐ学生スカウトもいたといいます。
「女性を“モノ”として見ていました。どんな子でも引っ掛かるし、風俗で稼ぐ金額の目標を設定したら、それだけ自分にも入ってくる。稼いでいるスカウトは常に4、5人の“彼女”を回していましたね」

マニュアルも テストも

グループには街での声かけから風俗店あっせんまでの方法を指南するさまざまな形式の「マニュアル」が存在していました。
私たちは今回、その一部を入手することができました。マニュアルには、効率的な声のかけ方やバーへの誘い方、風俗への紹介方法などはもちろん、女性を容姿でランク分けする基準などが記されていました。

またグループ内では仕事の理解度を試すペーパーテストも定期的に行われていたといいます。
「女の子の愚痴を聞かないといけないし、仕事を続けさせるための“管理”の電話も、抱えている人数分しなきゃいけない。ほかにも、勉強もしなきゃいけないし、毎日遅くまでかかりましたね」

“お前らもこっちの世界に来い”

もとは「普通の学生」だったはずの彼らが、なぜグループに入ったのか。そのきっかけも女性たちと同じ、「声かけ」です。

グループは定期的に大学のキャンパス内や街中で、イケメンの男子学生たちに声をかけ、リクルートを行っていました。
「最初に開かれる体験会は、さながら部活動への勧誘みたいでした。楽しい雰囲気で、優しそうな先輩たちがいろんな話をするんです。プロモーションビデオも流されます。『レベルの高いやつの周りに行かないとレベルは上がらない。お前らもこっちに来い』みたいな」
学生スカウトたちは2つのチームに分けられ、別々に指導を受けていました。新人たちを先輩たちがサポートし、1人でも「契約」が取れると、“上司”にあたる幹部たちが豪勢にお祝い。給料日には高級な料理を食べたり、キャバクラで豪遊したりしていたといいます。
「数人でキャバクラに行って、高級なシャンパンを入れるから、どんどん女の子が付くんですよ。ほかのサラリーマンとかがちびちび飲んでいる中、ありえない経験をしてましたね。結果を出せば褒めてもらえるし、頑張れる環境が整っていました」
ただ、こうした飲み会の話からも、グループの、ある特徴が伺えました。
「飲食店とかに入るときには必ずドアを開けたり、のれんに手を添えたりは当たり前でしたね。とにかく『上司への敬い』は徹底されていました」
さらに厳しい一面も。
「色恋の管理がちゃんとできなかったらクビは当然でした。それ以外にも上司からのLINEの返信を1日以上放置したり、時間が守れないといったことが何度も続くとクビになりました」
あっせんする女性が全く確保できないなど、結果の出せない者には罰金が課せられ、ルールが守れないと、“上司”が厳しい罵声を浴びせることもあったそうです。

「成長できる環境」と信じて

3月から始まった元スカウトたちの裁判。全員が謝罪のことばを口にしています。

中には涙を流しながら「取り返しのつかないことをした」と話す場面もありました。

中でも私にとって印象的だったのは「違法性を認識していたにもかかわらず、なぜ仕事を続けたのか」と裁判官や検察官が問う場面でした。

ほとんどがまず「金が目的だった」と話したうえで、別の目的のほうが強いと主張するのです。

元幹部たちは
「(所属するスカウトたちには)普通の学生では経験できないようなことを経験し、起業や就職など次のステップへ進んでほしかった」
「組織が大きくなっていくのが見たかった」
と話しました。

これに応じるかのように元学生スカウトたちは
「普通のバイトでは経験できない、厳しい上下関係を学べると思った」
「社会に出ても礼儀作法は生かせると思っていた」
と答えました。

彼らの行いを考えると、かなり異様で軽いことばに聞こえてきます。

ただ取材に応じた元スカウトの話と重ね合わせると、彼らは本当にグループが“成長できる環境”だったと信じていたのだと感じました。

“悪に憧れていた”

警察によると、今のところスカウトグループと暴力団との関係性は、はっきりとは見えていないということです。

学生たちが大半を占め、夜の世界では重要な「後ろ盾がない」グループが勢力を拡大できた理由には、警察の取締り強化によって暴力団の力が弱まったことも背景にあるのかもしれません。

これまでの取材で、高額な報酬に加え、助け合える仲間、そして「みずからが成長できる環境」が彼らを動かしていたことは分かってきました。

ただそれだけでは普通の大学生が倫理的にも許されない違法行為のハードルを越えた理由として、納得することはできませんでした。

私は改めて、元スカウトに「夜の世界、普通なら怖いと思うところになぜ飛び込んだのか」と尋ねました。

彼は「グループが実際に暴力団とも争いになっていたと聞いたこともあって、怖いと思った」と話したうえで、それでもグループを辞めなかった理由については、こう述べました。
「単純に厳しい上下関係を経験したいなら、大学の体育会とかでいいのですが、大学入学までグレたり悪いことをしないで勉強ばかりしてきたし、ある種、こういう夜の世界とか悪い方向に憧れがあったのかもしれません」
今の時代、部活動に限らず、留学やインターン、起業など学生たちが何か新しいことに挑戦し、成長を実感できる機会は周りにあふれています。

しかし、「それでは満足しない」「もっと違う経験を積みたい」という学生たちの気持ちが、隠れていた「悪い世界」への憧れと重なり、このような集団が生まれたのではないかと感じました。

普通の大学生たちが京都 祇園で巻き起こした夜の世界の事件。取材を通して、法や倫理の感覚が抜け落ち、目的のためには手段を選ばない集団は、条件さえそろえば、どこにでも現れる可能性があると感じました。