ディズニーCEO 次の一手は?

ディズニーCEO 次の一手は?
ディズニーと聞いて、思い浮かべるものは? ミッキーマウス? それとも“アナ雪”? 確かに「ウォルト・ディズニー」という会社は、アニメやテーマパークを手がけている。しかし、それだけではこの企業の今の姿を捉え切れているとは言えない。ディズニーの実像は、多くの映画会社、テレビ局、ネットでの動画配信会社などを傘下に置く“複合メディア企業”だ。その立て役者といえるCEO=最高経営責任者のロバート・アイガー氏が来日。相次いで大型買収を手がけ、その動向が世界中から注目されるアイガーCEOに「次の一手」を聞いた。(経済部記者 菅谷史緒)

トップみずから起工式に出席

5月21日の早朝、その人の姿は千葉県浦安市の「東京ディズニーリゾート」にあった。この日はディズニーシーの拡張工事を始める起工式が行われるのだ。運営会社「オリエンタルランド」の関係者とともにアイガー氏は、くわ入れなどの神事に臨み、今回のプロジェクトに寄せるアイガー氏の期待の高さを感じさせた。
新エリアのイメージ図
今回のパーク拡張では、ディズニーシーに隣接する駐車場の敷地およそ10万平方メートルを新たなエリアとして開発。総工費は2500億円余りで、ディズニーシーの開園以来、最大規模となる。「アナと雪の女王」や「塔の上のラプンツェル」などを題材にした4つのアトラクションや、ホテルなどが建設され、開業は2022年度の予定だ。まずは、そのねらいを尋ねた。
「東京ディズニーランドは開園36年、何回も拡充を繰り返してきました。その中でも、今回は最大規模で、最もエキサイティングなものになります。拡張の目的は、映画などのメディアで語った物語を、そこで語るということ。例えば、大ヒットしたアニメ映画『アナと雪の女王』が今回の計画には含まれていて、アニメで親しんだ物語を実体験という形でファンに楽しんでもらいたいのです。われわれが最も力を入れているのは、物語を作ることで、その物語をできるだけ多くの場所で、そしていろいろな形で語りたいと思っています。その延長線上にテーマパークがあるのです」

相次ぐ買収で、一大メディア企業へ

買収した「ピクサー」の関係者とアイガーCEO(右)
アイガー氏は、2005年にディズニーのCEOに就任。以来、「ピクサー」や「マーベル」、「ルーカスフィルム」、そして「21世紀フォックス」などを総額9兆円規模の資金を投じて次々と買収した。このほか、アメリカ3大テレビ局の一つ「ABC」、スポーツ専門チャンネルの「ESPN」、ドキュメンタリー専門の「ナショナルジオグラフィック」も傘下にあり、ディズニーはまさに“複合メディア企業”になった。
「2005年は、新しいテクノロジーによって、世界中でメディアが大きく変わり始めた年でした。それまでの仕組みが激変し、物語を伝える形が一気に拡大したのです。テクノロジーによって、より多くの物語を作ることができるようになったばかりか、それをより多くの方法でより多くの人に届けることが可能になりました。ディズニーも物語を語る手段を増やすべきと考えました。『ピクサー』は『トイ・ストーリー』など独創性に富む作品を生み出していましたし、『マーベル』はスーパーヒーローの宝庫でした。ジョージ・ルーカスが『スター・ウォーズ』を発表したのは1977年でしたが、20世紀で最も優れたファンタジー物語だと思います。『21世紀フォックス』もテレビと映画で優れた作品を多数持っていました。買収のねらいは、より多くの物語を届けたいということなんです。創業者のウォルトが生きていれば、同じことをやったはずです」

動画配信“熾烈な競争”

相次ぐ買収で、コンテンツづくりを強化してきたディズニー。その一方で、アイガー氏が指摘するようなテクノロジーの変化により、新たなライバルも登場した。ネットを舞台に存在感を高めた「ネットフリックス」や「アマゾン・プライム・ビデオ」だ。ネットを経由した動画配信サービスで多くの利用者を獲得しているだけでなく、多額の費用を投じてオリジナルの映像コンテンツも制作するようになり、強力な競争相手になっている。
「テクノロジーがメディアとエンターテインメントの枠組みを根底から覆したことを示す典型的な例だと思います。この流れを止めることはできません。会社としては、その流れに乗るか乗らないかの2つに1つなのです。流れに乗らなければ窮地に陥るでしょう」
そう語るアイガー氏が来日前の週に打ち出した一手が、この分野でネットフリックスと競う「Hulu」の経営権の完全取得だった。この秋からはディズニー独自の動画配信サービスをアメリカで開始し、世界各国に広げていく方針だ。つまり、自分たちのコンテンツをみずからのサービスを使って配信できるようになるというわけで、逆にほかの事業者からすればディズニーの人気作品の数々を失うことにつながり、この分野の勢力図を書き換えることになるかもしれない。
「私たちは彼らが成し遂げてきたことをみずからもやる必要があります。動画配信で、消費者に直接コンテンツを届け、消費者と直接つながらなければならない。テクノロジーの進歩をビジネスに取り込んでいく方針です。そうすることで、時代に合った形で、私たちの物語を消費者に届けられる。これは熾烈(しれつ)な競争です」

“変えないことが正しい”

みずから「熾烈」と表現する競争だが、アイガー氏は会社が長年大事にしてきた「核心」を変えないことこそ、価値を高めるカギだという。
「ディズニーの物語には、今も変わらず受け継がれている特徴があります。感動、冒険、家族、愛、友情、善と悪、前向きな物語です。創業者の時代から50年たって世の中は大きく変わりました。激変した世の中で生き残るにはブランド価値を変えるのがベストだという考え方もあります。しかし、私はその逆のやり方が正しいと信じています。核心となる価値観を守り続けることで、価値がさらに高まるという考えです」
静かな語り口ながらも、ひと言ひと言自信を持って受け答えする姿勢が印象的だったアイガー氏。その任期は2021年12月までとされているが、それまで立ち止まっているとはとても考えられない。いったいどんな手を繰り出すのか、目が離せない。
経済部記者
菅谷史緒
平成14年入局
ニューデリー支局、イスラマバード支局をへて
現在、流通業界を担当