中古車王国ミャンマーで新車シェアトップ! スズキの戦略とは

中古車王国ミャンマーで新車シェアトップ! スズキの戦略とは
市場規模は日本の260分の1以下、隣国タイと比べても50分の1ほど。しかし、伸び率は2年連続で倍増という急成長の自動車市場がアジアにあります。人口5000万を超え、「アジア最後のフロンティア」と呼ばれるミャンマーの新車市場です。

ミャンマーでは、インドに強いスズキが先行し、韓国や中国をはじめ各国の有力メーカーがあとを追おうとしていますが…。
(アジア総局記者 岩間宏毅)

中古車王国で異変?

「中古車は遅かれ早かれ壊れるから新車のほうが安心だよ」と話す男性。長く日本の中古車が大人気だったミャンマーですが、人々の意識は変わり始めています。
自動車の業界団体のまとめによると、去年の新車販売は過去最高の1万7500台余り。販売台数を公表していないメーカーを加えても2万台程度とみられ、まだまだ小さな市場ではありますが、それでも2倍に増えています。しかも2年連続です。
ことし1月には、初めての国際モーターショーも華やかに開かれ、日本やアメリカ、中国などの6つの自動車メーカーが出展しました。

とはいえ、今でも通りを走る車のほとんどは、右ハンドルの日本車です。日本語で「低排出ガス車」と書かれたステッカーが貼られたままの車もよく見かけます。しかし2年前から、この「中古車王国」には異変が起きていて、新車販売に追い風が吹いているのです。

右ハンドルは“危険”?

そのきっかけは、ミャンマー政府が2年前から始めた中古車の輸入制限です。特に、右ハンドルの日本車は、安全性を理由に新たな輸入ができなくなっています。
ミャンマーは、日本とは逆の右側通行。「運転席が右側だと、左側にある反対車線が見にくい」というのです。試しに運転している人に聞いてみると「慣れているので平気」という声もあれば、「中古車しか買えないから右ハンドルだけど、できれば左ハンドルのほうが安心」という声もありました。

いずれにしても、この規制を機にミャンマーでも新車が脚光を浴びるようになったのです。

独走するのはスズキ

このミャンマーの新車市場で、50%以上ものシェアを握っているのが、スズキです。

ミャンマー進出は実は21年前、翌年には現地の工場で生産を始めました。スズキと言えば、今や世界4位の新車市場にまで成長したインドでの成功が有名ですが、ミャンマーにも早くから進出しました。
政府の規制のもと、決められた台数しか生産できなかったり、合弁先との契約が切れて生産を中断したりしたこともありましたが、それでも地道に市場を切り開いてきました。今では、50近くにのぼる販売店網も整えて、他社を圧倒しています。去年4月には、2つ目の工場でも生産を開始しました。

また、地元の銀行と提携して、独自の自動車ローンのサービスも展開しています。返済期間が他社より長い7年のローンも用意して、販売拡大を目指しています。

政府は自動車産業を育てたい

スズキが好調な理由は、中古車の規制だけではありません。自国の自動車産業を育成したいミャンマー政府は、国内の工場で組み立てられた“国産車”を税制面で優遇しています。
輸入車には、車両価格などに応じて、数十%の税金が上乗せされますが、国産車は課税の対象外です。現地で生産していないメーカーの車は、新車であっても不利な立場です。

ほかにも、新車需要の多くを占める最大都市・ヤンゴンでの強力な優遇策があります。ヤンゴンでは車が増えすぎて、渋滞が深刻な問題となっており、3年前からナンバープレートの発給は厳しく制限されています。しかし、ミャンマー国内で組み立てられた“国産車”なら、もれなくナンバープレートをもらえるのです。
スズキの現地法人の浅野圭一社長は「自動車産業としてはスタートを切ったばかりのまさにれい明期だが、それだけに、やりようによっては、いくらでも販売台数やシェアを伸ばせる。隣国・タイの新車市場が100万台あることを考えれば、時間はかかるかもしれないが、ミャンマーも決して達成できない数字ではないと思う。ミャンマー=スズキと言われるよう頑張りたい」と話しています。

ライバルメーカーも動く

これに対し、韓国のヒョンデ自動車も、ことし2月から現地工場での生産を開始。インド市場でも、トップのスズキを追ってシェア2位につけているヒョンデ自動車は、ヤンゴンでナンバープレートをもらえることもアピールし、スズキを追いかけています。
ヒョンデ自動車の進出で、ミャンマーで現地生産を行うメーカーは、スズキ、日産自動車、アメリカのフォード、韓国のキア自動車のあわせて5社となりました。

また、トヨタ自動車は、現地生産はしていないにもかかわらず、高所得者を中心に根強い人気で販売シェアは2位。世界の有力メーカーが虎視たんたんと成長市場に食い込もうとしています。

先んずれば制す?

スズキの現地法人の浅野社長は、「日本の中古車が好きなミャンマーの人たちに、新車のよさを伝えるのは大変でした」と話しつつも、新車の人気が徐々に浸透していることに手応えも感じ始めているようでした。
世界の有力市場を見渡せば、インドでのスズキや、今や世界最大の自動車市場となった中国におけるドイツのフォルクスワーゲンなど、先んじて進出したメーカーが、その後、大きな成果を得ている例は少なくありません。

政府の政策変更など新興国ならではのリスクに備えながら、有望な市場を見いだして世界のライバルに先んじる。国内市場の縮小に直面する中で、日本企業が成長を続けるには海外市場の開拓が欠かせないと長く言われてきました。日本企業が成果をあげる例が増えていくことを期待しながら、その過程や課題を、ここアジアで取材していきたいと思います。
アジア総局
岩間 宏毅

平成12年入局
経済部で自動車、金融・証券 経産省などを取材