私は“水増しインフルエンサー”

私は“水増しインフルエンサー”
“人生の価値は影響力だ!!”そんなキャッチコピーのついた来月発売の「人生ゲーム+令和版」はこれまでとうって変わって、お金ではなく「フォロワー」の数を競う。SNS全盛の今、人々が追い求め、新たな価値基準となっている「フォロワー数=影響力」。多くのフォロワーを持つインフルエンサーは、マスコミがこぞって取り上げ、企業から広告等の仕事が殺到している。しかし、そのブームの裏でひそかに「フォロワー」を売買する手法が広がっているという。いったいだれが、どうやって?
(「ネット広告の闇」取材班記者 田辺幹夫・田隈佑紀・藤目琴実、ディレクター 中松謙介)

広告はSNS口コミの時代!?

5月上旬、都内が一望できる40階建てのタワーマンションの一室で広告の撮影が行われていた。主婦と2人の幼い息子が食卓やソファーでくつろぐ日常の風景、その傍らにある暖房器具。

暖房器具の宣伝だが、ただの広告ではない。「インフルエンサー・マーケティング」という近年急速に増えている「口コミ広告」だ。

SNS上に多くのフォロワーを持ち、影響力のある「インフルエンサー」が商品の写真や動画を投稿。テレビなどマスコミのCMと異なり、リアルな使用感や評価とともに、狙ったターゲット層に拡散させることでさまざまなブームを生んでいる。
この日撮影していた主婦はフォロワー約3万人を持つインフルエンサー。大手電機メーカーの商品のPRなども手がけ、月10~20万円の収入を得ている。

「さまざまな商品を見られるし、楽しみながら収入になっている」という。ストーブは触っても熱くないストーブで、実際に「子どもが一緒に遊んでいても心配じゃない」という実感がこもったリアリティのある口コミを発信する企画だ。

広告の舞台がTVや雑誌などから、次第にネットやSNSに移っている中、このインフルエンサーを使った口コミ広告を利用する企業が増えている。化粧品、アパレル、飲料品など、大手企業が新商品を出す際にインフルエンサーを使って宣伝するのはいまや当たり前だ。中にはあえてTVCMを一切出さず、インフルエンサー・マーケティングで大ヒットした商品もある。

国内の広告主の115の企業を対象に去年行われたサンプル調査では回答のあった企業の半数以上がインフルエンサー・マーケティングを実践していると回答した。(サイバーエージェント調べ)
今回、宣伝を依頼した群馬県の暖房器具メーカー「アールシーエス」の宮下達也社長も口コミ宣伝の力に期待を寄せていた。
「企業側からの一方的な発信は売り込みが強くなってしまったり、ちょっとうそくさいと敬遠される場合がある。実際の声というのは説得力があるし、口コミは弊社も非常に重視している」
今回、暖房器具メーカーにインフルエンサーを紹介し、撮影を行った「Lim」の竹花貴騎代表取締役は「とにかく数多くの人に届けるという従来の広告は費用対効果の面で高すぎる。意味のあるターゲットを分析してそこに狙って、マーケティングをすることで最大限の効果を上げることができる」と話す。

私、フォロワー買いました ある『読モ』の場合

広告主の企業の期待や若者からの支持を集めているインフルエンサー。しかしその中にはひそかにフォロワーを水増しする手法が広がっているという。
実際にフォロワーを購入したという30代の女性インフルエンサーに話を聞くことができた。女性は有名女性ファッション雑誌で読者モデルをしていると話した。本業は別にあったが、憧れのキラキラした世界で情報発信ができ、少しでも生活費の足しになるならと、2年前、インスタグラムのアカウントを作り、インフルエンサーを目指して、企業にインフルエンサーを紹介する会社に登録して活動を始めた。

厳しい“キラキラ”の現実

最初の仕事は化粧品や日用品の宣伝。商品はもらえたが、金銭の報酬はゼロだった。

インフルエンサーの世界では「フォロワー数が1万人」というのが一つの目安で、1万人を超えればそれなりに仕事が来るという。

女性は最初、自分に興味を持ってくれそうな人の投稿に「いいね」をつけたり、コメントを書いたりして、地道にファンを増やそうとした。

しかしどれだけ頑張っても、思うようにフォロワーは伸びず、増えても月に100人ほど。1000人を超えるのがやっとだった。フォロワーが1万を超えるには果てしない時間がかかるように思えた。

「ネットで買えるよ」

そんな時、親しくしていた読者モデルが「フォロワーはネットで買えるよ」と話しているのを偶然、耳にした。

驚いて、フォロワーの多い先輩読モのアカウントを見ると、外国人のフォロワーが目立つ。何人か見てみたが、みな、似たような状況だったという。

ためらいはあったが、「みんなやっている」と自分に言い聞かせた。

販売サイトの名前と買い方を友人に教えてもらうと、フォロワーは簡単に購入できた。1万人で6000円。ついたフォロワーは先輩と同じく、外国人ばかりだった。

インスタグラムは自分のアカウントであれば、どの国のフォロワーが多いか、見ることができる。この女性の場合、ブラジルが4割で、その次にインドとインドネシアがそれぞれ1割強。日本人はわずか4%しかなかった。そして男性が目立って多かった。
「知り合いに買ったことがバレてしまったらちょっと怖いなというのはあったんですけど、フォロワーが1万人以上じゃないと受けられない案件が多いので、購入したフォロワーさんは、1万人以上をキープするための存在です」

仕事が次々と

年に数えるほどしかなかった仕事がフォロワー購入を境に、月に何件も舞い込むようになった。化粧品やサプリメント、これまでになかったファッションの仕事も来るようになった。

企業のイベントにも呼んでもらえるようになり、報酬は写真を1回投稿して数千円から1万円になった。大手化粧品会社から1万円を超える商品をもらえることもあった。

中には「商品を『もらった』とは書かないで投稿してほしい」とステマ(「ステルス・マーケティング」=広告費をもらっているのに宣伝とは明記しないで商品やサービスの宣伝になる情報発信を行うこと)を求めてくる企業もあったが、言うとおりに従った。

フォロワーを購入した“効果”をたずねると、女性はこう答えた。
「お仕事が増えたのはすごくうれしいので、もう少しフォロワーを増やそうと思っています。最初は企業さんにもちょっと後ろめたくてちゅうちょしましたけど、インフルエンサーは生活費を稼ぐための手段だと割り切っています」

フォロワー購入は「登録料」

この読モ女性の現在のフォロワー数は約3万人。フォロワーを販売していた業者のサイトには「3か月保証」と書かれていたが、実際には徐々に減っていくのでキープするために定期的にフォロワーを購入しているという。
「登録料みたいな感覚ですね、仕事をもらうための。月数千円の登録料だと思っています。十分に元は取れていると思います。いくら購入しても私に人気がでるとは思っていませんが、仕事は来ると思います」

まん延する“水増しインフルエンサー”

こうした“水増しインフルエンサー”はどのくらいいるのか。

広告主の企業とインフルエンサーをマッチングするサービス「Woomy」を運営する「エイジオン」は専用のツールを開発して、あやしいアカウントを見破ろうと試みている。
画面にずらりと並ぶ、「極大」の赤文字。このツールの分析で、フォロワーを買った疑いがあると判断したアカウントだ。

化粧品やファッションの宣伝をするインフルエンサー、美容師やインストラクターなどの客商売、ファッションブランドの営業用アカウントもある。

実際にフォロワーの販売業者から購入した際に付く偽フォロワーとの一致率を測ることなどで判定しているという。

さらにフォロワー数や“いいね”の数の推移に、不自然な変化がないかも確認する。
写真のフォロワーの推移を示したグラフでは、フォロワーの数があるタイミングで急激に増え、その後は平行か、下降線をたどっている。あやしい動きだ。

投稿が話題を呼ぶなどしてフォロワーが増える“正しい”上昇の場合、すぐに上昇が止まることはなく、なだらかに増え続ける傾向があり、違いは明らかだ。

購入していったん増えた後に下降線をたどるのは、購入した時に付くフォロワーの多くが、人為的に作られた実態のないアカウントで、インスタグラム側に削除されるためという。

起用する企業は

こうした水増しインフルエンサーを起用してしまう企業。フォロワーは実態のないアカウントである場合が多く、企業が期待するほどの広告効果は出ず、企業は広告費を“だまし取られた”ことになる。

実際にこのキャスティング会社が成約した案件を調べたところ、4万人のフォロワーを持つインフルエンサ―の女性が化粧品の投稿をして4万円の報酬を受け取ったが、本来広告主がターゲットとする「日本人女性」がフォロワーの中に「400人程度」しか含まれておらず、期待した広告効果が出ていない事例があることもわかった。
「多くの企業が単純に『フォロワー数』だけを見てインフルエンサーを選ぶ実態がある。フォロワーの中身を詳しく見ればわかるケースも多いが、企業は多い時は一度に数十人ものインフルエンサーに案件を依頼することがあるので、中身を精査する余裕がないことも多い。水増しインフルエンサーの存在はインフルエンサー・マーケティング自体が『効果が無い』とみられてしまい、市場全体にとってもよくない」

完全には見抜けない

注意しなければならないのは、フォロワーは本人でなくても第三者が購入して水増しすることもできるため、怪しいフォロワーが付いているからといって本人が購入しているとは断定はできず、専用ツールの分析結果はあくまで参考情報にしかならないということだ。

「購入したかどうかは最終的には本人にしかわからないこと。完全に見抜くのは不可能」と話す。

実際にこの会社に登録しているインフルエンサーの中にもフォロワー購入の疑われる人が複数存在すると明かした。
「購入を断定できない以上、除名などはできない。このインフルエンサーは“購入が疑われる”という情報も含めて企業側に伝えることで、企業側に見抜いてもらうしかない」

お仕事があるかぎり続ける

インフルエンサーとして活動し、フォロワー数を水増ししている読者モデルの女性。「フォロワーを買っていることは企業にもとっくにバレバレだと思っています」と話す。

フォロワー購入の実態は、最近は広告主の企業や紹介会社も把握しはじめ、「女性フォロワーが多い人」や「女性からの『いいね』がいくつ以上」といった条件を求める企業も出始めた。企業からフォロワーの男女比のデータやフォロワーの国別のデータの提出を求められることも多くなったと言う。

この女性もフォロワーの男女比を提出した企業からは仕事が来なくなった。せっかく手に入れた憧れの「インフルエンサー」という立場。今後の活動について、女性はこう話した。
「企業からお仕事がある限りは続けていきます。ファッションやコスメは大好きで、商品がいただけたり、報酬をいただけるのはありがたいですし」

インスタ運営会社は“水増し”を明確に禁止

インスタグラムを運営するフェイスブック社は「コミュニティガイドライン」の中で、フォロワーの売買を禁止し、これに従わない利用者に対してはアカウントの停止などの対象になるとしている。

人工知能なども活用して、不正にフォロワーの獲得をしているアカウントを特定、不正なフォロワーの削除やアカウント停止などの対策を進めているとしている。

フォロワーの数は人生を決めるのか

インフルエンサーのフォロワー購入は楽に報酬を増やしたり、多くの仕事を受けたいという思いで行われていた。その裏には、企業側が「フォロワー数」を仕事の依頼の基準や報酬の目安にしている実態があった。

また今回の取材の中で、インフルエンサー以外にもフォロワーを購入している人が数多くいると見られることもわかった。芸能人やスポーツ選手のファンが応援のために増やしたり、学生が就職活動のために購入する事例もあるという証言も得た。

モデルのオーディションでは一定数のフォロワーがないと足切りにあい、一定のフォロワーがいないと参加できない就職イベントもあると言う。まさにフォロワーの数で人生が大きく左右されてしまう実態がある。

そうした社会の風潮を少しでも見直していく、フォロワー数に踊らされない社会を考えていく必要があるように感じた。