楽しいはずの給食が…「完食強要」やめて

楽しいはずの給食が…「完食強要」やめて
楽しいはずの学校の給食の時間に苦しんでいる子どもたちがいます。先生から「残さず食べなさい」と言われ、無理に食べさせられたり、給食の時間が終わっているのにひとりポツンと教室に居残りをさせられたり…。こうしたいわば“完食指導”の行き過ぎで、体調不良や不登校になるケースが相次ぎ、中には、大人になっても苦しみが続く人がいることを知っていますか。(徳島放送局記者 岩本悦子)

給食を無理やり口に…

取材に応じてくれたのは、高知県の女子大学生(21)。
学校の給食が苦しみの時間に変わったのは、小学2年生の時でした。

おなかがいっぱいで残したチーズを担任の教員に無理やり口に押し込まれ、その場で吐いてしまいました。
「すごい怖かったし、給食に対する恐怖みたいなものを植え付けられた感じだった」と女性は当時を振り返ります。
もともと小食気味で、食べるのに時間がかかったという女性。この出来事がきっかけで教室に行くのが怖くなり、保健室に通う日々が続きました。
さらに、中学生になっても厳しい完食指導に直面します。
3年生のある日、給食を食べ切れなかった女性は、担任の教員に「これ以上食べられません」と訴えました。

しかし、聞き入れられず、女性はひとり教室に残され、泣きながら食べ物を口に詰め込んだといいます。

今も続く苦しみ

それ以来、女性は人と一緒にごはんを食べること自体が怖くなってしまいました。
「食べられなかったら何か言われるんじゃないかという不安や緊張がすごくある。この状態が一生続くのかな、どうにかならないかなと思う」と語った女性。
大人になった今も病院でカウンセリングを受けるなど、完食指導で負った心の傷は癒えていません。

国は“個に応じた指導を”

学校給食の指導の在り方はそもそもどのようになっているのか。

文部科学省は子どもの肥満やアレルギーなどの問題を背景に、平成19年に「食に関する指導の手引」を作っています。

この中では、「個に応じた指導」を掲げ、一人一人の体格や運動量などを考えて指導することを呼びかけていて、画一的に完食を指導するようなことは求めていないということです。

それでも相次ぐ完食指導

しかし、学校現場では完食指導の行き過ぎが後を絶ちません。

徳島県小松島市にある「徳島赤十字ひのみね総合療育センター」の心身症専門の小児科医、中津忠則医師のもとには、完食指導をきっかけに心と体の調子を崩した子どもが数か月に1人、新たに受診に訪れます。
カルテに書き込まれているのは、「登校していない」「一口も食べられない」「給食を恐れて発熱が続く」など、子どもたちの悲痛な訴え。
中には、食べ物を無理やり口に押し込まれたり、「クラス全員が完食したら宿題を減らす」と言われたりしてトラウマとなり、長期間の治療が必要になった子どももいるということです。
中津医師は、「『何でも食べられる子どもになってほしい』という先生の思いは間違ってはいないが、無理やり食べさせるというその方法論が非常に乱暴で、結果的に子どもを傷つけている」と指摘しています。

各地でトラブル表面化

給食の完食指導によるトラブル。この数年間だけでも各地で表面化しています。

岐阜市では、小学校の教員が、児童の口元に食べ物を運んで食べさせるなどして、2年間で5人をおう吐させたなどとして、おととし厳重注意処分になりました。
また静岡県では、小学校の教員から牛乳を飲むよう強制されてPTSDになったなどとして、子ども側が去年、町に対して慰謝料を求める訴えを起こしました。

このほか東京都や富山県でも教員が処分されたり、学校側が謝罪したりする事態が起きています。

個に応じた指導

こうした中、「個に応じた指導」を実践しようとする動きもあります。
徳島県三好市の辻小学校では、給食の時間は「ランチルーム」と呼ばれる部屋に教員と子どもが全員集まって一緒に食べます。
配膳の時、おかずやごはんの量を減らしたい子どもがいれば要望に応じますが、ただ減らすのではありません。
担任の教員が子ども一人一人の体調やふだん食べている量などを見極めながら調節するのです。
担任の教員は、「毎日一緒に食べていれば『この子だったらこのくらいは食べられるかな』というのが分かります。最初は無理のない量にして、毎日ちょっとずつでも量を増やしていけるよう努めています」と話していました。

校長先生の思い

こうした取り組みの土台になっているのが、内田公生校長の、ある反省の思いです。
内田校長も若い頃、完食指導にとらわれていた時期があったといいます。当時勤務していた学校でよく掲げられたのが「残飯ゼロ週間」という目標。

内田校長は、小食の子どもに無理に食べさせることはしませんでしたが、たくさん食べられる子どもに山盛りに配分して、クラス全体の残飯ゼロを達成していました。

でも、食育に関心を持って勉強を進めるうちに自分の誤りに気付いたといいます。いま最も大切にしているのは「子どもが食の楽しみを味わうこと」です。

食べる意欲を上げよう

その思いを実現するために、「食べる意欲を上げる環境づくり」にも取り組んでいます。

「いただきます」のあとの10分間、部屋に流れるのはオルゴールの心地よい音楽。この間はおしゃべりをしない決まりで、子どもたちは食べることに集中します。
音楽が終わると、はじけるように会話が飛び交い、みんな笑顔でさらに給食を食べ進めます。

「食べる時と会話を楽しむ時間にメリハリがつきました」と話す担当の教員。
食が細かったり苦手な食べ物があったりする子どもが少しでも食べていれば、気持ちを込めて褒めていました。

小学5年生の女の子は「野菜が苦手だったけど、いまは時間内に食べられるようになった。先生の励ましはすごくうれしくて、もっとがんばれる気がする」と語ってくれました。

楽しく完食を

こうした取り組みを2年前から続けてきた辻小学校。
保護者にも給食の様子を伝えるなどして連携を深めた結果、今ではほとんどの子どもが給食を完食できるようになったといいます。
内田校長は「生きる力の源ともなる“食”の楽しさを伝えるというのが食育の基本。子どもが食べたい気になって食べる。われわれはその気にさせることが最も大事だと思っています」と話していました。

完食強要をなくそう

冒頭の高知県の女性に、インタビューの最後、「当時の担任の先生に何を言いたいですか」と尋ねました。

女性はしばらく考え込み、こう答えました。
「『わがままで言っているんじゃない。本当に食べられないんだ、おなかいっぱいなんだ』と言いたい。もっと一人一人を見てほしかったし、わかってほしかった」
子どもの成長を支え、食べる楽しさを学ぶ場でもある学校の給食。栄養バランスがとれた、適切な量の食事を完食するのはもちろんいいことなのですが、そのやり方が問題なのです。
完食を目指す熱意が子どもを逆に追い詰めることになっていないか、いま一度見つめ直す必要があると感じました。
徳島放送局記者
岩本悦子