「共創」と「体験」 ものづくりのこれから(後編)

「共創」と「体験」 ものづくりのこれから(後編)
グローバル競争の激化でコモディティ化が加速する電機業界。これからの時代に競争力を保つ上で欠かせないカギはどこにあるのだろうか。そのヒントを、2つの動きから探った。(経済部記者 井田崚太)

知恵を、持ち寄る

東京・品川にあるソニー本社。ここで最近、一風変わった光景が見られる。電子部品大手、京セラの社員が職場を移し、ソニーの社員と共に、日々、新商品の開発にあたっているのだ。

取材に訪れた日も、両社の担当者が活発な意見を交わしていた。双方の強みを持ち寄って、ほかにない競争力を持った製品を生み出そうという、「オープンイノベーション(開かれた技術革新)」の現場だ。

スピードを、上げる

ここで活用されているのは、ソニーが平成26年に社内向けに設けた新規事業の育成制度「SSAP(=ソニー・スタートアップ・アクセラレーション・プログラム)」。社内に眠る斬新なアイデアを公募で集め、事業化を支援する取り組みだ。

重視するのは「スピード感」。アイデア段階で製品をウェブサイト上に公開し、クラウドファンディングを通じて需要を測りながらいち早く商品化を目指す手法が取り入れられている。デジタル製品ならではのコモディティ化の速さに対応を図る、新たなものづくりのモデルだ。
これまでに14の事業を実現。このうち、この春、海外で発売されたスマートウォッチ「ウェナリスト」は、ベルト部分に通信技術を埋め込むことで、スマートウォッチの機能を備えつつ時計盤を自由に替えられる特徴を持たせた。もとになったのは新入社員のアイデアで、わずか1年余りで商品化を実現したと言う。

垣根を、越える

ソニーは、去年、この育成制度を他の大企業や大学などに本格的に開放した。斬新なアイデアやユニークな素材を社外にも求めたのだ。「共創」に真っ先に名乗りを上げたのが、京セラ。振動によって音楽が流れる厚さ1ミリほどのセラミック部品を持ち込み、一般向けの電化製品に応用しようとソニーとともに取り組んでいる。
ソニーの責任者 小田島伸至さん
「新規事業を育成するためには、たくさんのアイデアと人材が重要だ。会社の垣根を越えることで、新しい価値をどんどんつくっていけるようになる」
京セラ 稲垣智裕さん
「従来ではありえないスピード感で開発を進めることができている。ソニーの力を最大限借りて商品化を実現したい」

“体験”を、売る

新たなものづくりの試みは、大企業だけでなく、ベンチャー企業でも始まっている。平成15年に社員3人で設立されたバルミューダ。調理家電などを手がけている。会社が掲げるテーマは、消費者に“体験を売る”ことだ。
たとえばトースター。価格は2万円を超え、決して安いとは言えないが、販売台数が50万台にのぼるヒット商品となっている。トースターの上部にある給水口から水を注いで蒸気で加熱。表面をしっかりと焼きつつ水分は残すと言う。これによって、焼きたてのような食感が自宅で“体験”できる。それが支持を得ているというのだ。

発想を、変える

寺尾社長の次のことばは、日本のものづくりのこれまでとこれからを考える上で、示唆に富む。
バルミューダ 寺尾玄社長
「会社を設立したのが21世紀に入ってからということもあって、“ものをつくれば、売れる”という時代を自分たちは知らない。大切にしているのは、もの自体よりも、そのあとにくる“うれしさ”や“楽しさ”。どのような“体験”を消費者に提供できるかが最も重要だと考えている」
バルミューダの売り上げは、去年、初めて100億円を超えた。同社の製品は海外でも受け入れられつつあり、売り上げの4割は韓国など海外だと言う。会社は、近い将来、アメリカなどにも販路を広げて、海外比率を7割にまで高めたいと意気込む。

既成概念を、捨てる

これからの時代は、あらゆるものがインターネットにつながり、人工知能の活用がさらに進んでいく。電化製品に限らず、自動車などでも、環境変化は加速している。単に「よいもの」を開発するだけでなく、製品を取り巻くサービスを含めて、消費者に価値を実感してもらえる努力を尽くさなければ、環境変化についていくことはできない。「ものづくり」ということばそのものの意味を根本から問い直すことが、新たな時代の出発点として重要なのではないかと感じる。
経済部記者
井田崚太
平成25年入局
京都局をへて
現在、電機業界を担当