中国EVベンチャーの実力は ~接近する日本企業~

中国EVベンチャーの実力は ~接近する日本企業~
世界最大の自動車市場の中国で、アメリカの「テスラ」のような新興のEVメーカーが続々と誕生している。国をあげて投資を続ける中国で進むEVシフト、車のIT化に、日本企業はどう対応しようとしているのか。4月に開かれた上海モーターショーに合わせ、日本の部品メーカーのトップを追った。(経済部記者 野上大輔)

上海に乗り込んで

4月16日に開幕した上海モーターショー。次世代の通信技術の「5G」時代を見据え、各国メーカーがしのぎを削っていたのは、「電動化」と人工知能(AI)を活用した「自動運転」だ。

このうねりに乗り遅れまいと、多くの日本の部品メーカーも上海に入っていた。

その1人が三重県鈴鹿市に本社がある「トピア」の佐々木英樹社長。トピアは、自動車メーカーが新型車を開発する際のボディの試作品を手がける。従業員は1000人余り。独立系でホンダや日産、トヨタグループなど日本メーカー関連の仕事が売り上げの大半を占めている。
その佐々木社長が、朝一番に訪ねたのは、中国の新興EVメーカー「小鵬自動車」の創業者の1人、夏総裁。国際担当の役員とともに、小鵬自動車のVIPルームで商談し、トピアがEV向けとして新素材の加工を手がけていることをアピール。総裁からは、その場で新しい車種のボディの試作品の将来にわたる取り引きを依頼された。

トピアにとって小鵬は、取り引き実績も少なく、分からない点も多かったが、佐々木社長が感心したのはそのスピードと実行力だ。
「5GもEVも中国はすごく流れが早い国だ。小鵬の創業者もそうだが話を早く聞いてくれるし、日本国内のメーカーよりも壁がない。まだ引き合いがあるのでEVを中心にますます話をいただけると確信している」(佐々木社長)

EVベンチャーの実力は

「小鵬自動車」とはどんなメーカーなのか。私は本社がある広州を訪ねた。

この会社はIT分野からEVに参入したベンチャーの1つ。中国にはこうしたEVベンチャーが60社ほどあるという。その中でも小鵬には、ジャック・マー氏が率いるITの巨人「アリババ」が多額の投資。豊富な資金をもとに、創業からわずか4年で、EVの量販車の開発に成功した。
本社前の駐車場で、そのEVを実際に見せてもらった。AIを搭載し、ドライバーがいなくても駐車スペースをみずから探し出して、自分で停車する。一連の動作はとてもスムーズだった。車は常にインターネットとつながり、車内でゲームやカラオケなどを楽しめる。
本社で働く社員の平均年齢は29歳。3000人の社員のおよそ7割はソフトウェアなどのエンジニアだ。

IT企業から次々と人材を引き抜き、ことし1年だけでさらに5000人を採用する方針だ。社内を見渡すとTシャツ姿の若者の姿が目立つ。

広報担当の林さんが教えてくれたのは「996」という働き方。この3ケタの数字は、朝9時から夜9時まで働き、それを週6日行うというもので、中国のベンチャーの間では当たり前の働き方のようだった。
開発しているのは、自動運転のAIやEVの制御システム。モーターやボディーといった自動車の基幹部品は他のメーカーから調達するということで、ここが従来の自動車メーカーと大きく異なる特徴だ。

このため、日本企業を含め世界中のサプライヤーと広く取り引きする方針で、従来からの取り引きを重視しがちな日本の自動車メーカーの調達方針とは一線を画している。
「われわれはインターネットの会社から自動車の会社になった。ITの新しい技術と自動車の融合は大きな変化を生む。大量の計算力や大量のセンサーによって、次世代の“スマートカー”は、すぐにスマートフォンのように利用者が爆発的に増えるだろう」。

中国シフトを加速

トピアは、すでに中国に工場を持っている。上海から車で2時間ほどの江蘇省常熟市。驚いたのはその広大な敷地だ。

中国市場向けの供給を増やすため、5月から工場を増設し、生産能力を2倍にする計画だ。現地で中国人の従業員も積極的に雇って研修を行うなど、中国シフトを加速させていた。すでに、EVベンチャーとの取り引きを始めていて、多くの引き合いがあると佐々木社長は話す。

中国メーカーが注目するのはトピアの高い技術力。自動車の設計から金属加工、それに車のボディーの接合まで一気通貫で1社で手がけることができる。

従来の車体はほとんどに鉄が使われていたが、EVでは軽量化のため、新しい素材が使われる。このため、会社ではアルミやカーボンといった新素材の加工や接合に力を入れている。
「EVなど新エネルギー車の開発が中国は増えてくるので戦略上、最重要ポイントだ。無人の自動運転が可能な電気自動車を作りたいとか、その辺りは日本とかヨーロッパは盛んではない。勝ち組にわれわれはついていかないといけないし、相手もしっかりと見極めたうえでやっていきたい」

トヨタグループも

伝統的な「系列」の部品メーカーも、中国市場に飛び込んでいる。トヨタグループで運転席の内装やエアバッグなどを手がける「豊田合成」も、上海モーターショーに出展していた。

自動運転時代を見据えて、運転席のダッシュボードやEVの電池を収納するバッテリーケースなどEV向けの新製品の開発に力を入れているという。これまでの取引先だけではなく、新たに登場した中国メーカーとの取り引きを目指している。
「EVは自動車というよりも新しい産業。すごい勢いで各社が進歩している。この進歩に負けないように、新しい会社といえども、しっかり見極めて商売をしていきたい」

どうする日本企業

中国で進むEVシフト、車のIT化に、日本企業はどう対応すればいいのか。中国の自動車産業に詳しいみずほ銀行・法人推進部の湯進主任研究員は、日本の部品メーカーにとって、最新技術の投入スピードが早く、成長性の高い中国市場に目を向けることは生き残りに不可欠だと話す。
「中国の大手IT企業、通称「BAT」と言われる、アリババ、テンセント、バイドゥ、この3社が豊かな資金で新興メーカーを支援することが、今後のEVマーケットの拡大につながるのではないか。これから多くの日本のサプライヤーが、新興メーカーのスマートカーを研究して、新たなビジネスを検討していくと思う。この数年間で、中国シフトの傾向がますます見えてくるだろう」
EVはエンジンが要らなくなり、代わりにモーターや電池が重要となる。これまで「機械」だった自動車は、「走るスマホ」と言われるようなものに変化し、部品も減少する。

部品メーカーの中には直接中国メーカーと手を組む所も出てきているが、これは電動化や自動化へのスピードが速い中国で勝負しないと、新時代に生き残れないことを象徴している。

なによりそこで主役になるのは、自動車メーカーではなく、IT分野から参入してきた、新たなプレイヤーとなる可能性があることを、今回の中国訪問で強く感じた。
経済部
野上大輔

平成22年入局
金沢局をへて
現在、経済部で情報通信業界を担当