「身寄り」がいない それだけで…

「身寄り」がいない それだけで…
「身寄りがいない」 そう聞いて想像するのは生まれてから親の顔も知らず、一人で生きてきた天涯孤独のような人でしょうか? いやいや、そんな特別な話だけではないんです。子どもが育って遠くに住んだり、パートナーに先立たれたり、きょうだいと疎遠になったり。あるいは家族はいるのに「高齢で頼れない」。そんな理由で誰でも「身寄りがない」とされてしまうおそれがあるんです。そうなったときどうなるか。あなたの未来かもしれない話です。(ネットワーク報道部記者 飯田耕太)

「身寄り」がないと何が困難?

「支援をしているお年寄りから『パンとお総菜とサラダ油を買ってきて』。そんな要望に応えたこともあります」

そう話すのは新潟市にある福祉の相談窓口、地域包括支援センターの須貝秀昭さんです。市から委託を受けて市内の高齢者などの相談・支援業務にあたっています。
2万6000人が暮らす担当の下町地区は市内で最も高齢化が進み、1人暮らしが増えているエリアです。とくに最近では「家族がいない」「いても関わりがない」という「身寄り」がない人からの相談が後を絶ちません。身寄りがないと支援が難しくなるケースがよくあると話します。
「足腰が悪くて表に出られない、家族や頼れる人もいないといった場合は状況に応じて買い物や公共料金の支払いの手伝い、病院の付き添いなどをすることがあります。ふつうに暮らしてきた人なのに、病気などが原因で人知れず自宅がゴミ屋敷化したり、亡くなったりするケースも見てきました。手遅れになる前に、誰かがこまめに連絡をとったり、様子を見に行ったりしなければなりません。そうした対応は急激に増えている気がします」(須貝さん)

最大の困難「身元保証人」

中でも、最も頭を悩ますのは命や暮らしに関わる大事な場面で訪れると言います。
新潟市に住む、92歳の安部志美さんです。福島県喜多方市で生まれ、若くして結婚するも夫を亡くします。
30歳を過ぎて新潟に来てからは、仲居やクリーニングなどの仕事をして65歳で定年退職するまで1人で生計を立ててきました。ところが、去年、認知症と診断され、長年続けてきた1人暮らしが難しくなりました。
そこで、サポートにあたった須貝さんは、安部さんが入れる介護施設を探しましたが、入所の申し込みの際に必要だと言われたのが「身元保証人」。
安部さんに、子どもはいませんでした。ただ、弟が関東地方にいることがわかり、須貝さんは電話をかけてみました。
「保証人になってほしいと頼みましたが、弟さんも『自分も高齢で協力したくてもできない』と言われたんです。結局施設には保証人になってくれる人は誰もいないと伝えると『難しいですね』と断られ、どこにも受け入れてもらえませんでした」(須貝さん)

保証人いなければ“門前払い”

なぜ保証人がいなければ施設に入れないのか。

センターには同じような相談が相次ぎ、問い合わせを重ねていますが、受け入れ先がすぐに見つかることはほとんどないそうです。
理由の多くが「緊急時に対応できる人がいてほしい」という施設側の強い要望でした。ときには「同じ市内に住んでいる」、それも「2人以上」など、より厳しい条件が付くこともあるそうです。
「保証人がいなければ申し込みの段階ではねられるケースがほとんどです。本来は医療機関も介護施設も、保証人がいないからといって断ってはいけないのが決まりですが、施設の費用に滞納があった場合、誰が補償してくれるのか。その人が体調を崩したら病院や手術に誰が付き添うか。亡くなったら葬儀や死後の手続きを誰が行うかなどさまざまな場面で施設側が困ることが多いんです」(須貝さん)
厚生労働省の研究班などが去年まとめた調査では、全国の医療機関の65%、介護施設の96%が「身元保証人」などを求めるとしています。

“保証人になって”支援機関の半数以上が経験

こうしたしわ寄せが、支援の現場に行っているという結果も明らかになりました。

昨年度、高齢者などの支援にあたる全国の自立相談支援機関と地域包括支援センターに、鹿児島市のNPO法人が調査した結果、「家族がいない」、「いても交流がない」など「身寄り」がないと支援が困難になると回答したのは86%。その多くが保証人の問題でした。
また、相談に来た高齢者などから支援機関の職員が「保証人」になるよう頼まれたことがあると答えたのは51.5%と全体の半数以上に上ることもわかりました。

中には、職員が保証人を引き受けたケースもありました。債務の肩代わりなどを求められるおそれもある一方、多くの現場でやむをえず対応している実態が浮き彫りになりました。

“地域の善意”にものしかかる負担

「誰とも関わりがないので、できれば保証人を頼みたい」

須貝さんのセンターにも本人や医療機関などから依頼が舞い込むようになってきています。

以前こんなこともありました。白血病で入院が必要になった70代の女性には身寄りがいなかったため、地域の民生委員が本人から頼まれて仕方なく保証人になりました。ところが、その後、病院側から手術の際に同意書にサインを求められたり、亡くなった後の対応を事前に迫られたりしたため民生委員は困り果ててセンターに相談。センターは病院側を説得して、保証人なしで受け入れてもらい、事なきをえたということです。

それでも保証人をめぐる不安や困難は、いつもつきまとうと言います。
「安易に保証人を求められますが、債務や葬儀のことなど責任が常につきまとうのでそう簡単に引き受けることはできず、うちでは保証人の依頼は受けない決まりです。地域の善意にも頼らざるをえない状況はどうにかしないといけませんが…」(須貝さん)

チームで対応も…

安部さんは現在は高齢者が一時的に宿泊できる「お泊まりデイ」と呼ばれる介護施設のサービスを利用しています。須貝さんが見つけた保証人がいなくても入れる、緊急的な受け入れ先です。しかし、この施設は介護保険の対象にはならないため、いつまでも暮らすわけにはいきません。

この日は、ケアマネージャーなど関係者たちが集まり、安部さんが入れる介護施設について話し合いました。
安部さんの場合、本人に代わって契約などを行う「成年後見人」が最近ついたことで、受け入れに前向きな施設も出て来ていますが、それでも多くは「保証人」を求めているため、状況は打開できていません。

認知症の症状が悪化する前に、“ついの住みか”を。

その思いとは裏腹に、支援が実を結ばない状態が続いています。
取材中、須貝さんはこうこぼしました。
「安部さんは今は自分の意思をある程度伝えることができるけれど、この先、それができなくなったとき、望みや気持ちがわからなくなることがいちばん心配です。
保証人にね、サイン一つでなることは簡単なんですけど解決策ではないと思います。この問題が難しいのは、家族の代わりを誰が担えばいいのか。決定的な解決策がなくて関係者が集まって自分にできることは何かを絞り出していくしかないのかなって」

公共政策として対策検討を

身元保証の問題に詳しい淑徳大学の結城康博教授は、対応を支援の現場任せにせず、制度の見直しを急ぐべきだと指摘しています。
「介護保険や医療保険があったとしても、『身寄り』に代わる人を用意しないとサービスが使えないのが今の日本の社会保障制度と言えます。これまで保証人を担ってきた家族のあり方が、家族の希薄化や核家族化、1人暮らしの増加で急激に変わっているため家族に代わる公的な支援が必要なのに全く追いついていないのが現状です。保証人のいない人たちは今後ますます増える一方、困るのは当事者だけではないので、公共政策として問題の対策を考えていかなければいけない」(結城教授)

当事者どうしで支え合いも

一方、今回、支援機関への調査を行ったNPO法人のグループでは問題の解決へ、違ったアプローチをしています。それが「身寄り」がない人たちで支え合うグループ作りです。

家族のいない人たち60人ほどで互助会を作り、定期的に開く会合や花見などの催しの場でお互いの生活の困り事などを相談。高齢のメンバーの引っ越しを手伝ったり、足が悪ければ代わりに買い物に行ったりして課題を解決し合います。
毎日、携帯電話の無料通信アプリを通じて互いに安否確認も実施。中には仲間の入院の際に保証人になり、6時間に及ぶ手術に付き添ったという男性もいました。

NPOとしてそこまでのつながりは求めていませんが、それぞれが自発的に互いの困難を補うように支援を行っていると言います。
「『身寄り』のない人は家族による支援が受けられない人です。ならば抱える困難を、当事者どうしが支え合い、助け合う仕組みがあればと思い関係性をつくりましたが、日々結び付きは強くなっていて、自分たちでできる解決策として有効だと感じています。いざ『身寄り』がなくなって困難が立ちはだかる前に、自分のことをよく理解している人は誰か、何かあったとき助けになってくれるのは誰なのか。多くの人に日頃から考えてほしいです」(NPO法人「つながる鹿児島」芝田淳代表理事)

“長生きしたせいで” 言わせない世の中に

取材の最後、安部さんに施設が決まらない今の心境を尋ねると、耳を疑う答えが返ってきました。
みんなに迷惑や心配ばかりかけているから、申し訳ないなって。長生きするのもよしあし。早く逝きたいんだけどねぇ。こればっかりはどうしようもないね。
もうすぐ「平成」が終わり、新しい時代「令和」が始まります。お年寄りにこんなことを言わせない世の中こそ、目指すべき時代ではないでしょうか。