“さつまいも王”に俺はなる!

“さつまいも王”に俺はなる!
「さつまいも王になるー」

冒険マンガの主人公のような夢を真顔で語るのは宮崎県のベンチャー企業の社長です。この企業、アジアへのさつまいも輸出で急成長。家族4人でスタートした会社を5年で年間売り上げ9億円にまで拡大させました。

なぜ、そんなことが可能になったのでしょうか。(宮崎放送局記者 橋本知之/ドバイ支局長 吉永智哉)

ドバイに乗り込んだ宮崎のいも

日本から7000キロ以上離れた中東の商業都市、ドバイ。
ことし2月、世界最大級の食品見本市「ガルフード」が開かれました。
アフリカや南米、ヨーロッパなどから約120もの国々が参加したこのイベント。
その一角に並んだのが、宮崎県のさつまいもです。世界各国から集まったバイヤーたちに試食してもらうと…。
「甘くてデザートにいいと思う」
「みんな気に入るはず。チョコレートがいらなくなるんじゃない」

次々と好反応を得ていました。

アジアでは小さいいもが人気

このさつまいもを出品したのは、宮崎県の南端、串間市にある農業ベンチャー。
社長の池田誠さん(48)は、23歳の時に父親の後を継ぎ、細々と農業を営んでいましたが、15年以上たったある日、驚きの事実を耳にしました。地元の農協に、自分が50円(500グラム)で出荷したさつまいもが、海外のスーパーでは800円で売られているというのです。

池田さんは「自分ならもっと『消費者には安く、生産者の手取りは高く』売れるのではないか」と40歳の時に一念発起。みずから、さつまいもの輸出に乗り出しました。

どうすれば海外市場で勝負できるのか。模索を続ける中で、意外なことに気付きました。
香港や台湾では、国内でよく見る大きさのさつまいもより、一回り小さいいもが人気だったのです。その理由は調理方法にありました。たとえば香港では、さつまいもは炊飯器で調理するため、小ぶりなほうがニーズが高いのです。
国内では値段がつかず廃棄されていたような小さいいも、“小いも”が使える!

池田さんは、近所の農家から“小いも”を集めて輸出するようになりました。しかし、輸出が軌道に乗ってくると、いもが足りなくなります。そこで池田さんはあえて“小いも”をつくろうと、苗を密集させて植えるという栽培方法も開発しました。

“さつまいも王”になる!

その後も、徹底したマーケティングや、長時間の輸送に耐える包装の開発などに取り組みました。

すると、会社設立から5年余りで輸出先はアジアの5つの国や地域に拡大。年間売り上げは、当初の20倍以上の9億4000万円余りにまで急成長しました(2018年7月期決算)。
日本から海外に輸出されるさつまいもの36%、実に3分の1以上をこの会社が占めているということです。

2年前には10億円を投じて最新の設備を導入。さらなる事業の拡大を目指しています。
「私は『さつまいも王になる』と、ことあるごとに言っています。さつまいもにおける世界一の企業を目指す。それは、うちの会社しかなれないと思っていますし、うちの会社がなるべきだと思っています」(池田社長)

アジアの次は“中東”

アジアで一定の成果を上げた池田社長が次に目指すのは「中東市場」です。
中東の商業の中心都市、ドバイへの輸出が成功すれば、その先にヨーロッパやアフリカへの輸出の展望も開けると考えました。
「さつまいも王」への重要な一歩、それが「ガルフード」への出品でした。
戦略を任されたのは堀内翔斗さん(33)。
大手商社でニューヨークに赴任するなど長く海外営業に携わってきた実績を池田さんに買われました。

とはいえ、日本から輸出の実績がほとんどない場所で、日本のさつまいもが受け入れられるかどうかは未知数です。ドバイには地元産だけではなくオーストラリア産も「スイートポテト」として流通しているとの情報も。

すでに先行者がいる市場を切り開くには「違い」を理解してもらうことが欠かせないと考えた堀内さん。
そこで展示会では、日本のさつまいもと現地で流通するいもを食べ比べてもらうことにしました。結果は、冒頭でご紹介したように上々の反応。
「他国産よりも絶対日本産のほうが甘い。食べてもらえれば違いはわかってもらえると自信が深まりました」(堀内さん)

イモは甘くても、ビジネスは甘くはない!?

「甘さ」では勝った宮崎のいも。ただ、それが実際に売れるのかは別問題です。実際、見本市でのやり取りでは…。
「これは焼き芋ですが、あなたの国では、いもをどうやって食べますか?」(堀内さん)

「ゆでて食べます」(インド出身の担当者)
「ガルフード」に参加したバイヤーたちの国籍はさまざまです。現地のUAEだけでなく南アジア、欧州まで、多種多様な食文化を背景にしています。堀内さんが話したバイヤーの人たちの出身国では、日本の「焼き芋」という調理法になじみがありませんでした。

商機を見いだすには、単にいもを売るのではなく、「食べ方」も含めて輸出する必要があると感じたと言います。
「調理のしかたなど、日本のさつまいもの特長を丁寧に説明しながらプッシュし続けていけば、チャンスはあると思いました。さつまいもの世界企業になるという目標の実現も、その先に見えてくると思います」(堀内さん)

夢を持ち、挑戦する

会社はいま、地元の宮崎大学とタッグを組んで、さつまいもの新しい品種の開発を始めました。

甘みが強いもの、日持ちするもの、紫いものような珍しい色のものなど、これまでにないさつまいもの開発を目指しています。品種開発には費用も時間もかかりますが、輸出の拡大や他社には無いブランド強化のために欠かせない投資だといいます。

「宮崎から世界一を目指す」と熱く語る池田社長や堀内さん。その姿からは「夢をかなえる人は、夢をあきらめない人だ」という言葉が思い浮かびました。

世界一への道のりは今はまだ道半ばですが、そこに向けて着実に歩みを進めています。
宮崎放送局記者
橋本知之
平成15年入局
青森局、盛岡局、
経済部をへて
現在は宮崎の経済・県政を担当
ドバイ支局長
吉永智哉
平成18年入局
大阪局、青森・三沢報道室、国際部をへて
現在は湾岸諸国の取材を担当