会社を3か月休んでみた。サバティカル休暇って?

会社を3か月休んでみた。サバティカル休暇って?
いま企業が、社員に3か月や半年間の長期休暇を与える「サバティカル休暇」という制度が注目され始めています。「そんなのウチの会社には無理」と、多くの人がひと事に感じるかもしれませんが、この長期休暇を導入した企業や社員を取材すると、意外な効果が生まれていることが見えてきました。(経済部記者 吉武洋輔)

勤続10年以上で

サバティカル休暇は、旧約聖書の安息日(sabbaticus)が由来ですが、長く勤めた人に与える長期休暇制度として、ヨーロッパを中心に企業が導入しています。

日本でも、この4月、信販会社の「オリコ=オリエントコーポレーション」が最長6か月のサバティカル休暇の導入を発表するなど徐々に知られてきていますが、6年前にいち早く導入したのが「ヤフー」です。

会社が設けたサバティカル休暇は最長3か月。勤続10年以上の社員が対象で、3か月の休暇のうち、1か月は給与を支給。残りの2か月は無給ですが、有給休暇を充てることもできます。
気になるのは、長期休暇の過ごし方です。インドに赴任する夫のもとに遊びに行った社員もいれば、オーストリアでテニス大会に挑戦した社員も。ガラパゴス諸島で環境保護のボランティア活動に取り組んだ社員、海外留学する社員も多くいます。長期の休暇ならではの特別な経験をしている人がほとんどで、写真の表情からもその充実ぶりが伝わってきます。

ヤフーによると、5年間で158人がこの休暇を取得。まだ権利を持っていない社員たちからも「10年この会社にいたら取ってみたい」という声が聞かれ、出入りの多い業界で優秀な人材をキープする手段にもなっていると感じました。

バカンスだけではない スキルアップ

実際に取得した社員たちに話を聞いてみると、いわゆるバカンス目的だけではないことがわかってきました。
ネット通販サイトの販売促進を担当する依田眞沙子さん(42)は、入社14年目の去年10月から3か月間のサバティカル休暇を取得しました。依田さんが休暇を取ることを決めたいちばんの理由は、スキルアップでした。

依田さんは、出品事業者に売り上げアップ術を教えるWEBページを担当していますが、ページ作成のための記号が深く理解できなかったり、色彩のアイデアがあまり浮かばなかったりと、自分自身にもの足りなさを感じていました。

しかし、2人の小学生の母親である依田さんは、仕事と家庭に忙殺され、勉強する時間は作れないと諦めていました。この状況を何とかしたいと、思い切ってサバティカル休暇の利用を申し出たのです。
期間中、週3日のペースでスクールに通い、デザインなどをみっちり勉強しました。休暇のあと、仕事に戻った依田さんは「自信を持って仕事ができている」と話していました。

絵本の制作も

これからサバティカル休暇を取得するという入社15年目の中村悟さん(40)にも話を聞くことができました。1週間は家族でハワイ旅行にでかけるということですが、3か月の休暇の大半を費やすのは絵本の制作です。

社員の育成を担当する中村さんは、3分間めい想して自分の仕事などを見つめ直す「マインドフルネス」と呼ばれるリラックス法の導入を進めてきました。

中村さんはこの経験を生かして、休暇中にマインドフルネス用の絵本をつくるというのです。会社は副業を認めているため、中村さんは絵本の出版を計画し、すでに出版社との打ち合わせを進めています。

会社の外の世界に触れて経験値を上げ、会社に戻ってまた貢献する。休暇はそんな効果も生みそうです。

そのとき上司は

ただ、3か月もの休み。上司は嫌な顔をしなかったのでしょうか。

旅行サイト「エクスペディア」が行った有給休暇の調査では、日本は「上司が取得に協力的」と回答した割合が43%と、12の国と地域の中で、最低になったというデータがあります。そこで、依田さんの上司を直撃しました。
堀野亜紀マネージャーは「最初に相談を受けたとき心の中では『きたかー』と思った」ということですが、以前にも部下が休暇を取った経験があり、依田さんにも充実した時間を過ごしてほしいと快く受け入れたそうです。

同僚の負担、大丈夫?

企業が長期休暇に消極的になる理由があるとすれば、ひとりが長く抜けてしまうと仕事が回らなくなるという心配があるからではないでしょうか。その結果、チームのほかのメンバーの残業が増えてしまうようなことになれば働き方改革に逆行します。

堀野マネージャーにその点を尋ねると、チームの社員に負担が及ばないように、依田さんが休暇に入る4か月前から“業務量の見直し”を行ったと教えてくれました。
簡単に言えば、休暇を取得する社員が出た時に、職場全体の仕事内容と効果をもう一度見直して、優先度が低いものは削るというものです。

依田さんの部署では、作業時間がかかるわりに閲覧数が伸び悩んでいた出品事業者向けの情報提供サイトの一部を縮小。そのかわりに、消費者のトレンドが分かりやすいように、WEBの検索ワードランキングを毎週提供するようにしました。

その結果、逆に事業者からのページ閲覧が増え、チームの負担を増やさずにサービスの質が高まるという、思わぬ効果があったと言います。

休暇が企業を強くする

今回の取材で印象的なことばがありました。

「いったん立ち止まりたかった」

依田さんのことばです。40歳を超え、自分はこの先何をしていきたいのか。自分の強みや足りないものは何か。人生をいったん見つめ直して次に向かいたかったという本音です。依田さんは休暇の間、その答えを少し見つけられたようです。

仕事を始めて15年がたった39歳の私にとって、考えさせられることばでした。
「サバティカル休暇を取得した人は目をきらきらさせて職場に戻ってくる」
休暇はリフレッシュだけでなく、社員を成長させ、仕事のパフォーマンスが上がり、会社にとってもメリットがある。そんな好循環が生み出されているとのこと。

一方でヤフーは、パフォーマンスしだいで毎年給与が変わる仕組みを導入しているため、長期休暇から戻ってきた後に成果を発揮できなければ、給与が下がるリスクもあります。むだな時間の拘束はしない。休むのも自由。すべては自己責任。そんな厳しい側面もあるのかもしれません。

働き方改革関連法が施行され、4月から、すべての企業に対し「最低でも年間5日の有給休暇の取得」が義務づけられました。

いきなりサバティカル休暇の導入とまではいかなくても、休暇を取りやすい環境をどうやって作っていくのか。日本の経営者も、休暇に対する考え方を大胆に変えていく必要がありそうです。
経済部記者
吉武洋輔
平成16年入局
名古屋局をへて経済部
金融や自動車業界など取材
現在、情報通信業界を担当