“転勤族のママ”を支えたい 即戦力を企業に

“転勤族のママ”を支えたい 即戦力を企業に
この春、転勤のため家族で引っ越したという人も多いのではないでしょうか。

この転勤、同行する配偶者にとっても周りの環境が大きく変わります。縁もゆかりもなく、知り合いもいない土地。中には子育てしながら新しい仕事を探さなければならないなど大きな負担を強いられるケースもあります。

こうした中、“転勤族のママたち”をサポートしようという取り組みが注目されています。(富山放送局記者 松下周平)

“転勤族のママ”の社交場

平日の昼下がり。和やかな雰囲気のなか、電気製品の検品やこん包の作業に取り組む子ども連れの女性たち。彼女たちにはある共通点があります。
「主人の転勤で引っ越してきました」(参加した女性)
彼女たちの会の名前は「TENKIN NOTE(転勤ノオト)」

この日は、夫の転勤で富山県内に引っ越してきた女性10人ほどが参加しました。彼女たちは、会とつきあいのある企業から紹介された仕事に家事や子育ての空いた時間を使って取り組んでいます。

ふだんは自宅で作業していますが、月に1度、メンバーたちが顔を合わせます。子育ての相談に加えて、離れて暮らす親の介護など、話題は尽きません。
「転勤したばかりだと友達もいないので、ありがたいです」(参加した女性)

手放した仕事、転勤先の孤独

会の代表を務め、富山市に住む松田悠さんは、大学卒業後、大手流通企業に就職しました。将来は海外で社会貢献活動を行う部署で働きたいと仕事に打ち込んできました。

そして全国転勤のある会社に勤める夫と結婚。
悩んだ末、会社を退職し、その後は夫について東京や愛知を転々としました。
子どもの出産後、企業の社会貢献事業をサポートする仕事を自分で始めた松田さん。行動力を生かして“ママ友”の団体を作り、同じ転勤族の母親たちと知り合いました。

その中には、仕事を辞めるなどして家族以外との関わりが減り、さらに子育てのプレッシャーもあって、孤立を感じている人もいました。
「転勤族のママは、地元のコミュニティーになかなか入っていけない。それで鬱になってしまっているケースも多く見られます」(松田さん)
松田さんは、こうした女性たちを支援したいと、おととし6月、夫の転職で戻ってきた地元の富山県で会を立ち上げました。

そして、ことし2月と3月に、会の活動などで出会った“転勤族のママ”100人余りにアンケート調査を実施。
すると、7割余りの人から「仕事をしないことで社会的孤立を感じる」、半数以上から「暮らしと両立できる、外での仕事を希望する」という答えが返ってきたのです。
松田さんは、子育て中の女性が転勤先で孤立しないために、欠かせないものの1つが「仕事」だと考えています。しかし、見知らぬ土地で仕事を見つけ、子育てと両立させるのはたやすいことではありません。
「転勤族のママは、地域とつながり、自分のキャリアをきちんと描きたいんです。それに加え仕事があることで家庭ではない自己肯定感を得られると思います」(松田さん)
女性と企業をつなぎたい。
松田さんは、地元のネットワークを生かして企業と交渉し、仕事を紹介できるようになりました。
2年前に夫の転勤で富山市に引っ越してきた伊藤亜希さんは、松田さんから紹介された職場で2月から働き始めています。

3歳と1歳の子どもがいる伊藤さん。出産を機に辞めていた仕事にそろそろ復帰したいと考えていました。ところが子どもの世話を頼める親や親戚が近くにおらず、保育園に預けられたとしても、子どもの急病時は対応できません。
条件に合う会社はなかなか見つかりませんでしたが、紹介してもらった富山県滑川市の農業系のIT企業に、事務作業の即戦力として迎え入れられました。この会社は、希望すれば子どもと一緒に出勤し、自分の目の届くところで面倒を見ることもできます。
「家にこもっているよりも、外で仕事をすることで自己肯定感が得られる」(伊藤さん)

企業の側にもメリットが

採用したIT企業にとっても、今は深刻な人手不足の時代。

パソコンの資格を持ち、事務作業の経験豊富な伊藤さんは貴重な人材です。この会社は、子育て中の女性やリモートワーク制度で県外に住む人を採用するなど、もともと柔軟な働き方を進めていました。
“転勤族のママ”は今回が初めての採用で、次の転勤でいずれは辞めてしまう可能性はありますが、今後も積極的に受け入れる方針で、4月には2人目も採用しました。
「転勤族のママさんはほかの県を回っていろんな業種や業態を経験しているところに期待している(IT企業「笑農和」下村豪徳 社長)」

“転勤族のママ”と企業をつなぐ

女性たちの支援のため、企業を結ぶ取り組み。松田さんが今計画しているのが、インターネットに“転勤族のママ”向けの企業の求人情報を載せてマッチングする事業です。

これまでの取り組みは無償で行っていましたが、事業化することで企業から掲載料などの収入も得られます。このビジネスプランは、県が主催する起業家のコンテストで最優秀賞に選ばれ、注目されています。

また、松田さんは、仕事を紹介するだけでなく、転勤族の母親たちに街に溶け込んでもらう仕掛けづくりにも取り組んでいます。
去年11月には、富山市の中心市街地を回る街歩きのイベントを県と共同で開催。20代から40代の女性、約10人が参加し、おしゃれな雑貨を扱う店や、富山市が運営する産後ケア施設を見学しました。

転勤による負担 減らす努力を

日本の多くの企業が採用している転勤制度。

松田さんは「転勤による社員や家族の心身の負担のサポートに取り組んでいる企業はほとんどない」と指摘します。

私も転勤族ですが、転勤で悩む人たちが1人でも少なくなってほしいと思います。そして、深刻な人手不足の時代、若い世代をはじめとする働き手を確保するためにも、企業側も、転勤による社員の負担をなるべく減らす努力が求められているのではないかと感じました。
富山放送局記者
松下周平
平成26年入局
警察担当などをへて
現在、県政を担当