“無給医よ、甘えるな” 真意は…

“無給医よ、甘えるな” 真意は…
大学病院などで無給で働く医師の問題を取材してきた私たちに、先月、こんな一文が書かれたメールが寄せられました。「無給医は甘えている」ショックを受けた私。早速、メールの送り主に連絡をとりました。(社会部記者 小林さやか)

ベテラン医師からのメール

メールの文面
送り主は、首都圏の病院に勤務する佐藤医師(仮名・50代)。

そこには、
▼過酷な勤務が無給であっても、医師のキャリアを形成するのには必要な経験。
▼全くの無給医は問題だが、大学院生はあくまで学生だから一線を画すべき。

こうした内容がつづられていました。

真意は?!医師に取材

正直、メールを読んで、ショックを受けました。これまで話を聞いてきた無給医の過酷な環境を思うと私には甘えているとは感じられなかったからです。この医師のメールには、電話番号が記されていたので、早速、面会を申し込むと、「いいですよ」と応じていただけました。

無給医への違和感とは…

待ち合わせした勤務する病院の一室に現れた白衣姿の佐藤医師。まだ勤務途中なんだと優しく声をかけてくれました。少し力が抜けた私ですが、気を取り直し、いちばんメールで引っかかった「無給医は甘えている」という言葉の真意を問いました。すると、佐藤医師は次のように答えました。
「無給医の多くは大学院生など若手の医師です。まだまだ学びの時期です。医師にとって、若い時に様々な種類の症例を経験することは、一生の財産になります。それなのに、今の若い医師たちが貴重な勉強の機会を『苦役』とばかりに否定的に捉えることに違和感を覚えたからです」
確かに医師には、診療の要請があった場合、正当な事由なく断れない「応召義務」というものがあります。医師とはそれほどの重責を担う仕事だからこそ、若いうちは無給であっても多くの経験を積むべきだと佐藤医師はいうのです。

若い頃は無給医だった…

でも、本人が若手の頃はどうだったのか。そう聞くと、事も無げに「私も無給医でしたから」という答えが返ってきました。そして、こう続けました。
「私も無給医を経験しましたし、月100時間以上の時間外労働をすることもありました。でも、辛いと感じたことはありませんでした。医師として経験を積むことが楽しかったんです。それにほかの病院でアルバイトすれば報酬は高額なので、生活には困りません。また、人生の一時期、経済的に厳しかったとしても、生涯賃金としては、世間一般からすれば恵まれています」
佐藤医師がいうように、無給の医師が生活できるのは、ほかの病院で当直などのアルバイトをするからです。その額も決して少なくはありません。私も少し考えてしまいました。

“白い巨塔”の医局

ここで、男性医師も経験したという「無給医」について少し整理したいと思います。勤務医が働く病院は大きく「大学病院」と「市中病院」と呼ばれる一般の病院に分けられます。通常、大学病院が教育・研究と臨床をあわせて行っているのに対して市中病院は臨床がメインです。
ドラマで有名な「白い巨塔」の舞台となっている医局は、大学病院に特有の組織です。医局は教授の医師を頂点として、准教授、講師、助教といういわばピラミッド構造になっています。その底辺にいるのが、大学院生や若手の医局員です。
これらの中に無給医がいますが、その存在が取り上げられることは長くありませんでした。それはなぜか。複数の無給医たちに聞くと、医局において、上司の医師の指示は絶対で、将来の昇進などを考えると、異議を口にすることなどできないということでした。

医局を選んだ自己責任か

今回、取材に応じた佐藤医師が異を唱えたのもこの点でした。
「大学医局に所属することを選んだのは、あくまでも本人です。誰かに強制されたわけではありません。医学博士の肩書きがほしい、ブランド病院で働いていたという実績がほしいなど理由は様々でしょうが、勤務の条件を分かったうえで、自ら大学病院で働くことを選んでいます」
つまり、無給であっても医局にとどまっているのは本人の意志であり、不満があるなら一般の病院で働いたらどうかと指摘したのです。さらに、大学病院でないと、高度な臨床経験が積めないという意見にも賛同できないと主張しました。
「若い医師は『希少な疾患』を経験したいと主張し、『よくある一般的な疾患』を軽視する傾向があると思います。しかし、一般的な疾患を診察する中で、異変に気付くのが本当に優れた医師です。『川崎病』は一般病院の医師が日々の診療の中で見つけました。全ての患者は宝であり、貴重な経験をさせてもらっています。今、私が勤務している病院は、医局の関連病院でなくても、地域医療の中核を担っている自負はあります。魅力を維持できない医局はいずれ淘汰されるのではないでしょうか」

変わるべきは古い医局の体質

取材した医師は、確かに無給医たちに厳しい目を向けていました。しかし、よく話を伺うと、本当の矛先は古い体質が残る医局そのものに向かっていたのだと思います。取材したほかの医師たちも、何十年も変わらない医局の体質を問題視していました。

私は、今回取材した医師の話を聞いても、たとえ若手であっても、患者の命を預かる医師が無給で働くのはおかしいと思います。しかし、こうした状況を、若手医師らがもし黙ってやり過ごそうとしてしまうと、今回取材した医師が指摘したように、消極的にであれ、古い組織の維持に加担していると見られてもしかたがないのかもしれません。

この記事をご覧頂いた医師の方、または、患者の立場になりうる皆さんはどのように考えますか?「無給医問題」と書いて、こちらのアドレスまでそれぞれの経験や考えを教えてください。
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/