教えてイギリス人の本音! EU離脱したいの?したくないの?

教えてイギリス人の本音! EU離脱したいの?したくないの?
イギリスのEU=ヨーロッパ連合からの離脱が混迷しています。
もともと3月29日の離脱期日は4月12日に延期され、さらに10月末まで延期されることになりました。
「議会制民主主義、発祥の地」と言われるイギリスが、ここまで混乱するのはどうしてなのか。日本から見ていると、謎は深まるばかりです。

イギリスのことはイギリス人に聞くのがいちばん早い。そう思い立ってイギリスの公共放送BBCの東京支局に向かいました。(ネットワーク報道部記者 伊賀亮人/国際部記者 曽我太一)

BBC特派員に直撃

私たちが訪ねたBBCの東京支局。
実は渋谷のNHK放送センターの中にあります。
インタビューに応じてくれたのは、ルパート・ウィングフィールドヘイズさんです。ウィングフィールドヘイズさんは、2012年から特派員として東京で勤務しています。
最近は、日産自動車のゴーン前会長の事件取材に追われています。
中国やロシア、イスラエルの特派員も歴任し、2016年には北朝鮮で取材中に、現地当局に拘束されたこともあるそうです。
まずは、離脱の延期をどう受け止めているか、率直なところを聞いてみました。

英・EUとも「合意なき離脱 すべきではない」

Q:「合意なき離脱」という最悪の事態は避けられました。でも問題を先送りしただけのように見えますが?
A:ヨーロッパとイギリス中が安どしていると思います。EU側もイギリス政府も『合意なき離脱』はすべきではないと思っていることは、これではっきりしました。だからこそイギリスに時間が与えられたのです。
少なくとも10月末まで期限が延ばされたわけですが、多くの人はさらに時間がかかってもおかしくないと思っています。来年のこの時期までかかるかも知れません。
笑顔のトゥスクEU大統領(左)とメイ首相(中)(4月10日)
ちなみに、イギリスではこのとき、キリスト教の復活祭「イースター」の休暇を控えていました。
A:イギリス議会やヨーロッパ議会の議員、それに官僚たちは、離脱の延期が決まって、復活祭の休暇を取れると安心しているでしょうね。

<ちょっと復習~イギリスのEU離脱>

イギリスの3年前の国民投票で離脱が決まった。

移民や貿易などあらゆる政策がEU主導で決まり、イギリスの自主性が失われていると不満を持つ“離脱派”と、EUの一員にとどまっていたほうが経済的メリットは大きいと考える“残留派”で国内は真っ二つに割れた。

ただ、離脱によって、イギリスはEUの一員でなくなる。人や企業の自由な出入りが制限され、関税ゼロでの自由なモノのやり取りもできなくなる。
このため、あらかじめ離脱後の混乱を避けるため新たなルールを決めておく必要があった。メイ首相とEUの間で、離脱の「協定案」をまとめたが、イギリス議会が一向に賛成せず、何の合意もないまま離脱を迎えて、大混乱に陥るおそれが高まっていた。

イギリス国民の本音は?

Q:この決まらない状況をみていると、実はイギリスの人たちは離脱したくないのではと考えてしまいます。イギリス国民の本音はどこにあるのでしょうか?
A:何が起きているのか、日本の人たちが困惑していることは理解できます。なぜなら、イギリス人自身がとても困惑しているからです。
なぜこのような状況になっているかというと、国が深く、深く分裂してしまっているからです。
イギリス人が離脱したいのか、残留したいのかと言われると、答えは半々というところでしょうか。国全体が分裂し、政府も分裂し、議会も分裂する中、誰も解決のために妥協しようとしていないのが現状です。われわれは今、疑う余地なく、第2次世界大戦以降、政治的に最も深刻な危機にあるのです。
Q:最も深刻な危機と表現するほどの深い分裂が、なぜ今、起きているのでしょうか?
A:イギリスの北東部や北西部など、かつての工業地帯だった多くの地域では1980年代の産業の空洞化から立ち直れていません。こうした地域の住民は、ロンドンなどの地域でのこの20年間の経済的な繁栄から取り残されたと感じています。そしてロンドンの政治家たちも、(EU本部のある)ブリュッセルの政治家たちも、自分たちのことを気にもかけていないと感じているのです。
離脱推進派のデモ(ロンドン・3月29日)
この10年は多くの人にとって、賃金も上がらず非常につらい時期で、多くの怒りや憤りが生じています。それはイギリスだけではなく世界的な傾向で、怒りを抱えた人々が自分たちを置いてきぼりにした政治家たちに、ある意味で復しゅうしようとしているのだと思います。
どういう風に離脱派と残留派に割れているか、1つの傾向は、大学を卒業しているかどうかです。大卒者は広く残留を支持しています。大卒でない人は広く離脱支持です。それが国も、党内もまっぷたつに分断してしまっているのです。
Q:しかし、イギリスは「議会制民主主義、発祥の地」。数々の政治的な分裂を、議会の議論の末、乗り越えてきた経験もあるはず。議会制民主主義は機能を失ってしまったのでしょうか?
A:保守党と労働党ともに、Brexit(ブレグジット)については、党の中でも激しく対立しています。片方の党が離脱賛成で、片方の党が離脱反対に分かれているわけではないので、総選挙を行えば解決できるという状況ではないのです。

<ちょっと復習~イギリス議会の状況は>

メイ首相とEUがまとめた離脱の協定案を採択できるか、不透明な状況が続いている。

ことしに入り1月15日、3月12日、そして3月29日と議会で3度採決が行われたが、いずれも否決された。メイ首相は、与党の保守党内で離脱協定案はEU寄りで、なまぬるいと強硬に反対する議員の説得は難しいと考え、最大野党の労働党に協力を求め妥協案の模索を始めた。

議会の長い歴史の中でも、あまり例のない、なりふりかまわない対応で、離脱協定案の採択を目指しているが、先行きは不透明だ。

もう一度国民投票はできないのか?

Q:3年前の国民投票は、離脱が52%、残留が48%と大接戦でした。先月、ロンドンでは再度の国民投票の実施を求める大規模なデモが行われました。
もう一度国民投票を行うことはできないのでしょうか?
A:再び行うことは可能です。
イギリス政府が再度国民投票を行ってはいけないという法的な理由はありません。しかし、私は国民投票は、ほかのすべてが失敗に終わった後の、最後の選択肢だと思います。
2度目の国民投票を求める集会(ロンドン・3月23日)
すでに投票を行ったにもかかわらず、政府と議会が望まない結果だったからといって、それを覆すための投票を行えば多くの怒りが渦巻くでしょう。そして議員たちは次の選挙でその罰を受けることになるので、議席を失うことが目に見えているのです。
Q:そもそもの離脱の期限は3月29日でした。何度も延期を繰り返して平気なのでしょうか。期日や締め切り、約束を重視する日本人的な感覚からすると、ちょっと理解できないのですが…。
A:壊れたレコードのように同じことを繰り返し言っているように聞こえるかも知れませんが、イギリス国民は分裂しています。政治家は支持者の意図に反することを恐れています。
期限が延期されて1年後もまだ妥協点が見いだせていないとすると、その時こそ政府は、もう一度国民投票を行おうとするかも知れませんが、まだそこまでの距離は遠いと思います。

企業の懸念 どう応える?

とはいえ、事態がどう収束するのか見えないと、国内の企業は困ってしまいます。
イギリスには1000社を超える日本企業が進出していますが、先行き不透明なイギリスから他のヨーロッパの国に拠点を移す動きが広がっています。
Q:もっと多くの企業がイギリスを離れる可能性があると思いますが、いいんでしょうか?
A:それはイギリス政府も経済界も懸念していると思います。
すでにイギリスへの投資に対して多くの損害があったことは明らかですし。ただ、この数週間に起きたことで企業にとって一つ明るい点があるとすれば、イギリス政府と議会は『合意なき離脱』は許容しないという姿勢を明確にしたことです。
ただ、最終的に決着するまでには不透明感は続きます。最悪の事態は起きない、というメッセージだと思えばそうかも知れませんけど、明るい点といえるのか…。

今後の見通しは?

Q:では、最終的にこの問題は、どういう形で決着するんでしょう。深い深い分裂を克服することはできるのでしょうか?
A:おそらく最も可能性があるのは、イギリスはEUを離脱するけれども、経済的には強く結び付いたままという、泥沼の妥協だと思います。
イギリスは、EUの単一市場に残るか、関税同盟にとどまる一方で、政治的にはEUから離脱するというものです。これに対して多くの人は意味がないと言うでしょう。だってEUのすべてのルールを受け入れる一方で、政治的な影響力はEU内から全くなくなるからです。それはまっとうな指摘です。
そして、その妥協策は本質的には誰も満足させることはできないでしょう。
離脱派も残留派も全員の気を悪くし誰も幸せにできないが、おそらくそれが合意の着地点だと思います。
Q:次の期限である10月末までどこを注目すべきでしょうか?
A:今後もゴタゴタは続くと思います。
メイ首相は労働党との妥協を模索していますが、簡単ではありません。彼女が所属する保守党内から、メイ首相を辞任させようという声もでています。今後数週間、数か月内に首相交代を図る動きがあるか注目です。10月には、全く別のアプローチを取る人が首相になっている可能性もあると思います。
混乱、ゴタゴタ、カオスが続くでしょう。
しかし、何かしら離脱への合意はできると思います。
EU離脱派(右)と残留派が街中で討論
必ず合意はできるーー。
でも、それは、どちらにとっても不満が残る形になるだろう。ウィングフィールドヘイズさんの解説は、そういうことかなと思います。

それが議論と妥協によって着地点を見いだすイギリスの議会制民主主義であり、今の激しく分断した国内の溝を埋める代償ということなのでしょうか。今後、どんな動きになるかは、かなり不透明なのは間違いなさそうです。
ネットワーク報道部記者
伊賀亮人
国際部記者
曽我太一