推計61万人! 中高年のひきこもり

推計61万人! 中高年のひきこもり
40歳から64歳までの「ひきこもり」の人の数が、推計61万人に上ることが内閣府が初めて行った調査で明らかになりました。見えてきたのは、中高年のひきこもる子どもと年老いた親が、ともに社会的に孤立してしまう現実です。
(ネットワーク報道部記者 高橋大地 管野彰彦 岡山放送局ディレクター 福田元輝)

「親が病気になったら」40代ひきこもりの現実

「きょうも何もできないと落ち込んで、どんどん世間から離れていく。悪循環ですね。親が病気になったらと思うと不安だけれど、対策も立てられない…」
こう語るのは、およそ20年間にわたって断続的にひきこもった経験のある45歳の男性です。

大学卒業後、就職した会社になじめずに2年で退職。再就職を目指しますが、なかなか思うように行かず、引っ越しや倉庫作業など一日単位の派遣アルバイトなどを続けました。しかし、そうした仕事もやがてうまくいかなくなりました。
「これからどうしたらいいんだろう…」
今後のことを考えると不安で眠れず、明け方まで寝つけない。昼ごろに起きて、また夜は眠れないという、昼夜逆転の生活が続きました。40歳を超えて、親を頼りにせざるをえない日々に、自分を責め続けました。
「親のことを考えれば考えるほど、ひきこもりの状況から脱出できない自分のふがいなさが重くのしかかり、申し訳なく思ってばかりの日々でした」

若年層より多い!?

内閣府は、40歳から64歳までの中高年のひきこもりが、推計で61万人に上るという調査結果を、先月明らかにしました。前回の調査では15歳から39歳までの推計は54万人。中高年のひきこもりは、若年層よりも多いという衝撃の数字でした。

ひきこもりの状態になってからの期間を見ると、「3年から5年」がおよそ21%と最も多かった一方で、「5年以上」と答えた人が半数を超え、中には「30年以上」と答えた人もいるなど「長期化」の傾向もわかりました。

一方、初めてひきこもりの状態になった年齢は、30代の割合が若干低いものの、全年齢層にわたって大きな偏りはなく、どんな年代であっても、ある日突然、ひきこもりになりうることがうかがえます。

また、ひきこもりの状態になったきっかけは、39歳以下の調査で多かった「不登校」や「職場になじめなかったこと」とは異なり、「退職したこと」が、いちばん多く、「人間関係がうまくいかなくなったこと」「病気」が続いていました。

ひきこもりの問題に詳しい愛知教育大学の川北稔准教授はこう指摘します。
愛知教育大学 川北稔准教授
「今の40代を中心にした人たちは就職氷河期を経験した世代で、不本意な就職をして不安定な雇用状態のままで過ごしてきた人も多く、社会的に孤立するきっかけを多く持っている。また、ひきこもるきっかけは、学校や就職だけではなく何十年も働いてきたなかで途中でつまづいてしまったり親の介護のために仕事を辞めてしまったりした人などいろいろなタイプが含まれている」

募る親の不安

ひきこもる中高年の子どもをもつ親たちは、年を重ねるごとに不安を募らせています。

まもなく40歳を迎えるひきこもりの息子がいる75歳の男性は、「息子の今後を考えると不安だらけ。夜も眠れない」と話しています。

息子は勉強のプレッシャーなどから中学生の頃に不登校になりました。その後、アルバイトをしたこともありましたが、20歳をすぎてからはずっとひきこもったままです。生活費は、男性の仕事の収入に頼る状態が続いています。

今後、10年や15年先のことを考えるとどうですか、と聞くと…
「これからのことを考えると焦ってしまうんですが、親が焦っていると、息子もそれを敏感に感じ取るんです。だから焦らないようにしたいんですが…。私も若くないので本当に健康でいてあげないと、親子ともひきこもりになってしまう」

親子で孤立のおそれ

こうした年老いた親と、同居する中高年の子どもがひきこもっている事例が相次いで見つかっているのが、介護の現場です。高齢者の介護や医療について総合的な相談に応じている都内の地域包括支援センターを取材しました。

センターには、高齢者が暮らす住宅の近隣住民や地域を担当する民生委員などから、「近くに住むお年寄りの様子がおかしい」とか「最近、姿を見かけないので、心配だ」といった連絡が寄せられます。

こうした情報を受けて、センターの職員が訪問すると、高齢の親とともにひきこもりの子どもが生活していることがわかるケースが多いというのです。
相談員を務めるケアマネージャー 安達聡子さん
「予想以上にこうした家庭が多いことに驚いています。深刻なケースが多いのも実情です」
あるケースでは、90代の女性の元を訪ねたところ、ごみが散乱した家の中に50代の息子が生活していました。女性には認知症の症状があり、要介護3の認定を受けていました。生活は女性の年金だけが頼りで、経済的に厳しい状況でした。

安達さんが受け持っている地域では、およそ1万人の高齢者がいますが、こうした事例は100件近くにのぼっているといいます。

「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が全国の地域包括支援センターにアンケートした結果、有効な回答があった全国263のうち220か所が、「無職の子どもと同居している高齢者を支援したことがある」と回答しました。このうち、6割に上る153例は、子どもがひきこもりの状態だったとみられています。
「外からでは家の中の状況がわからないので、判明するケースは実際は氷山の一角だと思います。センターとしてもほかの行政機関に連絡するなどしていますが、対応には限界があると感じています」(安達聡子さん)

親子が共倒れになるケースも

ひきこもりが長期化し、子どもが中高年になり、さらに年老いた親が働けなくなったり、年金などわずかな収入しかなかったりすることで、家庭が生活に困窮して、社会から孤立してしまう。

こうした家族は、なかなかみずから声を上げづらく、親子が共倒れになってからようやく知られることもあります。
遺体が見つかった札幌市のアパート
去年1月には、札幌市のアパートで、82歳の母親と、ひきこもりの状態にあった52歳の娘の遺体が発見されました。助けを周囲に求められず、先に亡くなった母親のそばで娘は亡くなるまで生活していたといいます。

このような問題は、80代の親が、50代のひきこもりの子どもの生活を支えるという意味で「8050(はちまるごーまる)問題」などと呼ばれ、今、全国で相次いで顕在化するようになっています。

地域ぐるみで支援

そうした問題を地域ぐるみで支援しようとしているのが、岡山県総社市です。市はおととしの4月、ひきこもり支援の専門の窓口を設けました。

地域の民生委員や、医師会、教育委員会などが連携、部署や機関が垣根をこえて支援を進めることで、これまでに180人余りのひきこもり当事者とつながりを持つことができました。
そして、そうした人たちの社会復帰を促すため去年、ひきこもりの人たちが集まることのできる居場所を設けました。居場所は、空き家だった平屋を市が借り上げたもので、平日の午後3時から5時まで、無料で利用することができます。

利用する当事者は、1日平均3人程度。市の専門の相談員がメールや電話、地道な訪問を重ね、来ることができるようになった人たちです。彼らを迎え入れ、話し相手になるのも、地域の住民。市の講習で、ひきこもりについて学んできた人たちです。

支援する住民「かぜなどひかなかったですか?」
ひきこもりの当事者「どうかなあ、ちょっとのどが痛い」

会話を強要することなく、茶飲み話を一緒に楽しみながら、利用者のひと言ひと言に耳を傾けていました。こうした支援に協力してくれる住民が総社市には現在60人います。

居場所を利用するひきこもりの当事者の男性は、「理解ある地域の人であれば何気ない話もしやすい」と話します。

利用者の通う回数は徐々に増えています。

支援に協力する住民は、「しんどさを分かってあげられる仲間のひとりになれたら」と話していました。

家族を孤立させない

市が借り上げた居場所ではひきこもる人たちの家族どうしが語り合う場も毎月開かれています。この日、心のうちを語ったのは、ひきこもる50代の息子がいる87歳の女性です。
「自分がへこたれて寝てしまったら終わりだなと思って…」
ひきこもる人たちの家族は、世間体や自責の念から、悩みや不安を誰にも相談できないことが多いといいます。
「他の人の話を聞いたり、自分でしゃべったりすると少し肩が軽くなる。やっぱり楽になります」
こうした総社市の支援の根幹には「ひきこもりへの偏見をなくす」ことが据えられています。

「地域の住民がひきこもりについて学ぶことや家族どうしが語り合うことで、“ひきこもりは誰にでも起こりうる”ということを感じてもらえれば、少しずつ偏見が減っていくと思う」
市の相談員のひとりはそう話していました。

ひきこもらされている

取材をしていた中で、印象に残った、ひきこもりの当事者のことばがあります。

「私たちも、社会に出たいんだけれど、そこからはじかれてしまっているんです。ひきこもっている、というよりも、ひきこもらされているんです」

そのひと言を聞いて、社会がひきこもりの人たちをどう見ているのか、それを当事者の人たちは、敏感に感じ取っているのだと思いました。

私たち一人一人の「ひきこもり」への意識が変わることが、彼らが少しずつでも声を上げられる環境作りにつながっていくことになるのだと思います。
ネットワーク報道部記者
高橋大地
ネットワーク報道部記者
管野彰彦
岡山放送局ディレクター
福田元輝