いいね!で課税? デジタル課税交渉の行方は…

いいね!で課税? デジタル課税交渉の行方は…
友人とつながるために利用するSNS。毎日のように使うネットショッピング。こうしたサービスは、今や私たちの生活に深く入りこみ、「GAFA」に代表される巨大IT企業を生み出しました。同時に、世界各国は、こうした企業が巨額の利益を上げれば上げるほど「十分に課税できていない」と不満を募らせています。課税のルールが、新しいビジネスモデルに追いついていないためです。こうした現状を変えようと、巨大IT企業にどう課税するかが、今、国際的な議論となっていて、日本が議長国となって6月に開くG20=主要20か国の会合でも、重要な議題となる見通しです。各国の課税権の取り合いとも言える、その難しい交渉のキーマンが、今回、取材に応じました。(経済部記者 山田奈々 影圭太)

交渉のキーマン、語る

「交渉ごとはやってみないとわからない。6月のG20までにどこまで具体的な話が詰まるかどうか…なかなか難しい面がある」
こう話し始めたのは、財務省の浅川雅嗣財務官。財務官と言えば国際金融担当のトップで、時に、その発言が世界の為替市場にも大きな影響を及ぼすこともあり、「通貨マフィア」の1人とも呼ばれます。

在任期間が、歴代最長の3年9か月におよび、数々の国際交渉をこなしてきた浅川財務官が、6月に福岡で開かれるG20=主要20か国の財務大臣会合に向けて奔走しているのが「デジタル課税」です。

デジタル企業が飛び越えたのは

「アマゾン」や「アップル」といった巨大IT企業への課税が焦点となっているのは、多くの国が、こうした企業への課税が十分できていないと感じているからです。

これまでの国際課税の基本的な考え方は、「恒久的な施設なくして課税なし」と言われるように、企業の支店や工場が、どれだけの利益を稼いでいるかに着目し課税する、というものでした。
しかし、巨大IT企業の中には、こうした物理的な拠点を置かず、国境を越えたサービスやデータのやり取りで利益を上げているビジネスモデルもあります。巨額の利益が、いったいどこの国で稼いだものなのか把握しづらく、結果として課税もしづらくなっているのです。
「まさか会社や工場などの施設を持たずに、利益が上がる取り引き業態というのは認識していなかった。それが今や至るところで出始めていて、さまざまな業態に広がりつつあるのでこれは放っておけない。このままでは、じれた国が勝手にルールを作り各国が課税を始めてしまう。税率が各国ばらばらになり、結果として企業の負担が大きい状況になりかねず、それは避けたい」(浅川財務官)
各国からは「課税ルールを変えるべきだ」という意見が噴出し、今まではおよそ130か国を巻き込んで議論が進められています。新しい国際課税のルールは2020年までの合意を目指していて、ことし6月に福岡で開かれるG20財務大臣会合は、合意に向けてどこまで方向性を示せるか、議長国を務める日本にとっても正念場となります。

焦点は「新たな課税基準」

議論の大きな焦点は、「何を基準に課税するか」です。各国の税収にも直結するだけに、それぞれの国が案を提示し、今、議論は白熱しています。
【イギリス案】
イギリスが提案しているのが、その国に、巨大IT企業のサービスの参加者がどれだけいるかを基準に課税する案です。

例えばSNSでの「いいね!」の数などが基準になると考えられていて、この場合は課税対象は、巨大IT企業に絞られる可能性が高くなります。
【アメリカ案】
アメリカが主張するのは、その国で、巨大企業が、どれだけのマーケティングを行っているかなどを基準に課税する案です。

例えば、膨大な顧客リストや、ブランド力を高めるための広告費などを基準にしようというものです。IT企業にとどまらず、幅広い分野の企業も対象になる可能性があります。
イギリス案では、アメリカに本社を置く「GAFA」に代表される巨大IT企業への課税が強化される可能性が高いのに対し、アメリカ案では、ヨーロッパにもある伝統的な製造業や世界的な有名ブランドなどへの課税も強化される可能性があります。

さらには、この議論をきっかけにデジタル課税の枠にとどまらないさらに広い国際ルールを変更してはどうだという提案も出ています。

「タックスヘイブン」と呼ばれる、税率を低く設定する国に企業が逃げていることを問題視し、各国共通の実効税率の下限を定めようというものです。立場が違う各国の思惑がそれぞれの提案に見え隠れし、議論の方向性を定めるだけでも大変な労力が必要だと言います。
「国際課税の議論は、課税権の奪い合いという意味があるので白熱する。最後は、もうみんな納得する形で決めるしかないのだが」(浅川財務官)

問われる日本の手腕

では日本は、どのようなスタンスなのでしょうか。経団連は、製造業など幅広い業種が含まれる可能性があるアメリカ案に懸念を示しています。グローバルに展開する大手自動車メーカーや大手電機メーカーなどにとって、課税強化につながるおそれがあるからです。

これに対して、議論のまとめ役を担う浅川財務官は、日本企業の意見にも耳を傾けながら、イギリス案とアメリカ案を、うまくまとめた案を導き出していく考えです。
「イギリス案では、すべての電子商取引業者をカバーするのは難しい。一方でアメリカ案では、製造業などほかの業種も含むので範囲が広すぎるかもしれない。アメリカ案も取り入れながら、でも、イギリス案の言っていることも分かるので、お互いにうまくまとめていく道があればいい」
「議論はだんだん広がりを見せていて、反対意見も多いが中身のある議論ができている。合意のためには、妥協や譲歩が必要で、議長国として各国に呼びかけてできるだけ意見の集約をみたいと思っている」
今回議論される課税ルールは、さらなるデジタル経済の拡大をも見据えた重要なものになります。各国から妥協や譲歩を引き出し、議論をまとめることができるのか、日本の交渉力が問われることになります。
経済部記者
山田奈々

平成21年入局
長崎局、千葉局を経て
現在、財務省を担当
経済部記者
影圭太

平成17年入局
山形局、仙台局を経て
現在、財務省を担当