“見えない”子どもたち

“見えない”子どもたち
「6歳から10歳の子どもたちが小学校に通わず、保育園にとどまり続けている」

この話を聞いて、私は耳を疑いました。本当にそんなことがあるのだろうか?
取材をしてみると、実際にそういう子どもたちが存在しました。
それも1人、2人ではありませんでした。どうして子どもたちは保育園にとどまり続けているのでしょうか。その保育園を取材すると、見えてきたのは…。(ネットワーク報道部記者 和田麻子 三宅明香)

6歳から10歳の子 なぜ保育園に?

その保育園は、静岡県浜松市にありました。

ここに通う子どもたちは、ブラジルやペルー、フィリピンなどから来日したおよそ40人。日本人はいません。全員、外国籍の子どもたちです。保育園の運営者や職員も全員ブラジル人。園内で使われていることばもポルトガル語です。
ここは、外国人向けの無認可保育園だといいます。
よく見ると、ほかの保育園と違う、気になる光景がーー。

ベビーベッドのそばで遊ぶ子どもたちのなかに、少しだけ身長の高い男の子が混じっていました。職員に聞くと、その子の年齢は10歳。詳しく聞くと、去年12月時点で、ここには本来なら小学校に通ってるはずの6歳から10歳の合わせて6人が、保育園にとどまっているというのです。

保育園の1日は

ここはいったい、どういう保育園なんだろう…。

子どもたちの1日を取材させてもらいました。
朝8時ごろ、職員の送迎バスに乗って通園したあと、朝食をとり、簡単な体操をします。

午前9時、6人の子どもたちは、机といす、それにホワイトボードがある、教室のような部屋に移りました。ブラジルの小学校で使うという教材を使って、英語や算数などの教科を勉強します。
勉強は自習スタイルで、わからないことがあると職員に質問をします。
職員のなかには、ブラジルの教員免許を持つ人もいるということですが、教えていた職員はブラジルの大学卒業の資格を持つものの教員免許は持っていません。ここでの勉強はあくまでも学習支援で、学校の授業とは違います。

その後、昼食をはさんで、午後4時ごろまで勉強。
そして、職員が送迎バスで子どもたちを自宅に送り届けます。

職員が送迎を終え、保育園に戻ったのは午後8時半。
「親の依頼があれば、夕飯や風呂の世話をして送り届けることもたびたびあります。また、子どもの体調が悪くなれば、医療機関に連れていくこともあります。共働きの両親が多く、送迎のサービスや長時間の保育が人気です」(保育園のブラジル人スタッフ)

派遣の両親「長く働きたい」保育園が頼り

なぜ、保育園にとどまり続けているのか。保護者と子どもにも直接、話しを聞かせてもらいました。
7歳のブラジル国籍のマリアさん。
おととしの11月、ブラジルから家族4人で来日して以来、弟のエンリケ君(4)と保育園に通い続けています。

20代の両親は、派遣社員として自動車部品の工場で働いています。派遣会社から「ブラジルから来た家族を支援してくれる」と、保育園を紹介されたといいます。
父親は週5日、午前6時に自宅を出て、愛知県豊橋市の工場で朝7時から夜7時まで勤務。母親も朝から夕方まで働いています。

父親は保育園について次のように話しています。
「残業を多くして収入を上げ、生活を安定させたい。保育園は頼りになる存在です」

学校に行かせたくても…

実は父親は当初、マリアさんを公立小学校に通わせようとしました。

でも、知人のブラジル人から聞いたのは、ことばや文化、習慣が違いすぎて、子どもが学校になじめなかったという話です。
例えば、給食の時間。
ふだん家庭では口にしない、みそ汁や納豆など苦手な食事が出ても、全部食べるよう指導されるなど、ブラジルの学校ではなじみのない、日本独特のルールがあることを知り、不安になったといいます。

特に、父親が心配しているのが「いじめ」や「差別」の問題です。

学校になじめない外国人の子どもたちが「いじめ」にあったり、「差別」的なあつかいを受けたりするという話しをよく聞くのだといいます。実際、私たちの取材でも、こうした経験のある子どもたちは少なくありません。

一方で、文化や習慣、ことばの心配が少ない外国人学校に行かせたくても、今の収入では学費を払えないといいます。日本の学校への不安、それに経済的な理由で、子どもを保育園に、とどまらせざるを得ないのだといいます。
「通っている保育園が、教育機関でないことは知っています。できるだけ、子どもにいい教育を受けさせたい。でも、今すぐ子どもを外国人学校に入れる経済的な余裕はありません。子どもたちは保育園が好きだし、当面は保育園に入れておきたい」(マリアさんの父親)

外国人 義務教育の対象ならず

マリアさんのように、子どもを学校に行かせていないことに、法律上の問題はないのか。

国や専門家に取材したところ、「問題はない」とのことでした。
実は、外国人は義務教育の対象にはなっていません。

憲法は「国民」に対して、子どもに小中学校の教育を受けさせる義務を課しています。しかし、外国籍の保護者は「国民」にはあたらず、対象外としているからです。
ただ、国際人権規約を踏まえて、国は子どもを学校で受け入れるよう通知していますが、その最終的な判断は自治体にゆだねられています。

就学を阻む壁 自治体も苦悩

こうした状況に、頭を悩ませている自治体もあります。
外国人労働者が多く住む浜松市では、十分な教育を受けられずに、進学や就職の壁にぶつかる外国籍の若者が少なくありません。
このため、市は、外国籍の「不就学」の子どもを訪問調査などで捜し出し、早いうちに学校につなげるという取り組みを行っています。

市は、マリアさんの存在を把握し、両親に学校に通わせることを勧めてきました。
しかし、親の理解が得られず、学校につなげることはできていません。

浜松市の担当者は次のように話しています。
「就学の義務がなければ、いくら両親を説得しても、望まないかぎり子どもを学校に入れることはできません。子どもには、年齢に応じた学びがあります。小中学校や外国人学校などの教育機関で、教育を受けてほしい。日本で住み続ける場合、将来子どもが安定した収入を得るために高校卒業程度の資格は必要で、学校に行くことがどれだけ大事か知ってほしい」

外国籍の子ども 「不就学」推計8400人超

外国人の子どもの問題の取材をしていると、各地で学校に行っていない子どもの話しを聞きます。その事情はさまざまです。
しかし、国もほとんどの自治体も、その数を把握しておらず、こうした子どもがどのくらいいるのかわかっていません。
そこで今回、専門家と一緒に国のデータを分析し、試算してみました。
具体的には、去年時点で義務教育の年齢に相当する6歳から14歳までの外国人の数から、小・中学校や外国人学校などに通う外国籍の児童・生徒の数を引き、その数を推計しました。
すると、6歳から14歳までの外国人の子ども12万人余りのうち、およそ8400人が「不就学」のおそれがあることがわかりました。

このなかには、認可されていない外国人学校に通う子どもや、届けを出さないまま帰国や転居したケースも相当数あるとみられます。
しかし、統計などをもとに、私たちが出せる数字は、これが限界でした。

4月から外国人材の受け入れが広がるのに伴って、文部科学省も、ようやく重い腰をあげ、初めての全国調査を行うとしています。

分析にあたった、外国人の子どもの実情に詳しい愛知淑徳大学の小島祥美准教授はーー。
「日本でこれだけ多くの子どもたちが学校に行けず学べていない現実を、どう受け止めるのか、大きな課題だと思います。これからますます外国人が増加しようという状況のなかで、この子どもたちを放っておくことが、日本の将来、また、地域社会にどんな影響を及ぼすのか考える必要があるのではないでしょうか」

“夢は医者 両親のために”

取材の終わりにマリアさんに将来の夢を聞きました。するとこう答えてくれました。
「医者になりたいです。そして、たくさん働いている両親の面倒をみたい」
国籍にかかわらず、誰もが安心して教育を受けられ、育った国で夢をかなえられるようになってほしい。そう願わずにはいられませんでした。