中高年のひきこもりは推計61万人余り 39歳以下を上回る

中高年のひきこもりは推計61万人余り 39歳以下を上回る
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長期間自宅に閉じこもる、いわゆる「ひきこもり」の人は、40歳から64歳までの年齢層の1.45%、推計で61万人余りに上ることが、内閣府の調査で明らかになりました。これは4年前の調査で推計された39歳以下の「ひきこもり」の人数より多くなっていて、対策が急がれます。
内閣府は「ひきこもり」の実態を把握するために、若者を対象に調査してきましたが、長期化する人が増えていることから、去年12月、40歳から64歳を対象とする初めての調査を行い、全国の男女5000人のうち3248人から回答を得ました。

調査で、「自室からほとんど出ない」や「趣味の用事の時だけ外出する」などの状態が半年以上続いている人を広い意味での「ひきこもり」と定義した結果、これにあたる人の割合は1.45%となりました。

これにより、40歳から64歳で「ひきこもり」の人は、推計で61万3000人に上り、4年前に15歳から39歳を対象にした調査で推計した54万1000人より多くなりました。

男女別では男性が4分の3以上を占めたほか、ひきこもりの期間が「5年以上」と答えた人は半数を超えていて、中には「30年以上」と答えた人もいて、対策が急がれます。

内閣府は「『ひきこもり』は若者だけでなく、中高年でも想像以上に多いことがわかった。支援対象を拡大するなど、効果的な施策を打ち出していきたい」としています。

53歳男性 身の回りの世話は90歳近い母が…

「90歳近い母親に今でも身の回りの世話をしてもらっています。親が死んだら生きていてもつらいだけ、自分もすぐ死んでもいいってずっと思ってきました」。

東京・品川区に住む山瀬健治さん(53)は、大学を中退したころから現在に至るまで、およそ30年間、断続的にひきこもりを繰り返してきました。

20代からIT企業などいくつかの会社に勤めましたが、仕事がうまくいかずにつらくなって辞めてはひきこもり、また働いては辞めるということを繰り返してきたといいます。

ひきこもっていた期間は合わせて10年以上になります。父親は9年前に亡くなり、現在は87歳になる母親と自宅で暮らしています。

発達障害があり片付けなどが苦手で、食事や洗濯、買い物など身の回りのことは母親に頼っていると言います。

生活費は、母親が持っている不動産の収入や蓄えなどでやりくりしています。現在、障害のある人の就職支援などを行う「就労移行支援事業所」に通い、サポートを受けながら仕事を再開したいと望んでいますが、見通しは立っていません。

山瀬さんは「社会から長い間孤立して仕事も長続きしないだけでなく、高齢の母親に身の回りの世話までさせて申し訳ないと感じています。幸い親はまだ元気ですが、もし介護が必要な状態になっても、世話をしたり、亡くなったときにいろいろな手続きをしたりということは、おそらく自分では何もできないと思います。今後のことを考えると不安やプレッシャーを感じます」と話していました。

介護の現場では…

東京町田市の地域包括支援センターで、介護に関する相談員を務めているケアマネージャーの安達聡子さんは高齢の親に対する支援のなかで、中高年の子どもがひきこもっている事例が数多く見つかると指摘します。

中には民生委員から90代の女性の様子がおかしいという連絡を受けて、訪問したところ、女性の認知症が進行していて、50代ぐらいの無職の息子が同居していた事例などがあったということです。

こうしたケースでは、親の年金だけを頼りに生活しているため、経済的に困窮していたり、子どもが自分や親に対する支援を拒否したりする場合も多く、対応が難しいといいます。

安達さんは「親が元気なうちはいいですが、認知症が進んだり、亡くなってしまった場合、子どもは生活することが難しくなってしまいます。こうしたケースは想像以上に多く、深刻な状況になっています。自分たちも何とか手を差し伸べようと、いろいろな支援制度を紹介したり、ほかの行政機関などに相談したりしていますが、本来業務だけでも手いっぱいで、十分な支援が届いていないのが現状です」と話していました。

高年齢化と長期化が問題

今回の内閣府の調査で改めて明らかになったのは、ひきこもりの「高齢化」と「長期化」の問題です。

「ひきこもり」をめぐっては、これまでは主に「若者がいじめや不登校などを理由に部屋に閉じこもる」問題と捉えられてきましたが、専門家や当事者などからは中高年のひきこもりが多数いるという指摘が以前からあり、今回、国による初めての全国的な調査で「高年齢化」が実際に裏付けられた形です。

今回の調査では、ひきこもりの期間は「3年から5年」が最も多かった一方で、「5年以上」と答えた人が半数を超え、中には「30年以上」と答えた人もいるなど「長期化」の傾向もみて取れます。

このような「高年齢化」と「長期化」を象徴するのが、80代の親が、50代のひきこもりの子どもの生活を支える、「8050問題」と呼ばれる問題です。

ひきこもりが長期化すると、子どもが高齢になる一方で、さらに高齢の親が働けなくなったり、年金などわずかな収入しかなくなったりすることで、家庭が生活に困窮して社会から孤立してしまう問題です。こうした家族は、なかなかみずから声を上げづらく、親子が共倒れになることでようやく知られることもあります。

去年1月には、札幌市のアパートで、82歳の母親とひきこもりの状態にあった52歳の娘の遺体が発見されました。助けを周囲に求められず、先に亡くなった母親のそばで娘は亡くなるまで生活していたといいます。

一方で、高齢の親への支援をきっかけに、同居する子どものひきこもりが明らかになる事例も相次いでいます。

ひきこもりの家族などで作る「KHJ全国ひきこもり家族会連合会」が、高齢者の介護の相談や支援を行っている全国の「地域包括支援センター」を対象に去年の末行った調査では、有効な回答のあった260余りのセンターのうち、6割近くが、相談を受けた高齢者の家庭に、ふだんは家にいてほとんど外出しない状態が半年以上続くひきこもりの子どもがいるケースがあったと回答しました。

中には、ともに認知症の70代の両親と同居していた50代の未婚の娘がひきこもっていた事例などがありました。

一方で、ひきこもりの子どもと面談できなかったり、親の支援が必要なくなったあと関係が途絶えるケースもあり、複数の行政機関や団体が連携して支援に当たる必要性が指摘されています。

調査を取りまとめた愛知教育大学の川北稔准教授は「地域包括支援センターはひきこもり支援の専門ではないので、気がついたからといってすぐに動くことが難しい面はあるが、ほかの機関とも連携しながら、問題が浅いうちにその家庭とつながりをつくって支援や見守りに生かしていくことが大切だ」と話しています。

専門家「多様な支援が必要」

ひきこもりの問題に詳しい愛知教育大学の川北稔准教授は「今の40代の人たちは第2次ベビーブームの時期と重なっていて、人数自体が多く、ある意味では予測された結果と言える。ひきこもりの人は若い人だけでなくどの年齢にもいるということが今回の調査ではっきりと裏付けられた」と話しています。

その要因については「今の40代を中心にした人たちは就職氷河期を経験した世代で、不本意な就職をして不安定な雇用状態のままで過ごしてきた人も多く、社会的に孤立するきっかけを多く持っている。また、ひきこもるきっかけは、学校や就職だけではなく何十年も働いてきた中で、途中でつまづいてしまったり、親の介護のために仕事を辞めてしまった人などいろいろなタイプが含まれている」と指摘します。

そのうえで、必要な支援について「これまで行政などの支援は若い人に絞られていたが、対象を年齢で限定せずに生活に困っている人全般の相談窓口を設けたり、就労の支援だけではなく、孤立している人の居場所をつくるといった多様な支援活動が必要になってくる」と話していました。