官僚の妻・夫の叫び ~子どもが持てない、残業代がでない

官僚の妻・夫の叫び ~子どもが持てない、残業代がでない
夫「きょうも帰りはタクシーだ」
妻「(スタンプ泣き顔…)」

深夜に夫婦が交わしたLINEの会話。

“本当は会って話したい。でも仕方ないんです。夫は官僚だから…”

(“霞が関のリアル”取材班記者 荒川真帆)

聞いてほしい…

このLINEを見せてくれた伊藤さやかさん(仮名・30代)。夫は30代、霞が関の官僚です。

先日、私たちが『眠らない官僚』の特集記事を掲載したところ、多くの意見を寄せていただきました。中でも私たちが驚いたのが伊藤さんと同じ、官僚の家族からの声でした。
「夫と顔を合わせるのは出勤前の朝だけ。夫はいつも寝不足で体調が心配です。子どもはまだ1歳で、家族の時間を大事にしたいけど一緒にいられません」(伊藤さん)
伊藤さん(仮名)
伊藤さんは妻の立場から官僚がいかに世間から誤解されているか私に切々と訴えました。そんななか、語気を強めたのが「残業代」に話が及んだ時でした。
「実際につく残業手当は3~4割ほどです。こんなに身を粉にして働いているのに理不尽に感じてしまいます」(伊藤さん)
いったいどういうことでしょうか?最近の給与明細を見せてもらいました。
夫は係長級職員で、国会対応などがかさみ、残業は158時間に上っていました。ところが、給与明細に記された残業時間は「50時間」。実労働時間の3割ほどになっていました。

残業代には「天井」が

これってサービス残業では?他の官僚や省庁に取材しました。

すると、「国家公務員の給与は国の予算で上限が決められているからだ」という回答が返ってきました。つまり、実労働時間にあわせて、すべて残業代を支払うだけの予算がないため、少なく見積もられるのが暗黙の了解だというのです。

こうした見積もりをしているのは各課の庶務担当。本人はどのくらいの残業代がもらえるか、給料日になるまで分かりません。

さらに、予算は忙しさの度合いによって、部局に振り分けられているため、同じ省内でも残業代が付きやすいところと、付きにくいところがあるのだそうです。

本当に「高給取り」?

伊藤さんの夫の月額給与はおよそ40万円。年収は600万円ほど。額面の給与は決して少ないとは思わないといいますが、実際の残業時間を考えると、やるせないといいます。

伊藤さんは「周りからは『安定した仕事だからいいじゃない』と言われます。しかし、あの過酷な勤務を見ているととてもそうは思えません」とつぶやきました。
稲継裕昭教授
官僚というと、高給取りのイメージもありますが、実際はどうなのか。国家公務員の給与に詳しい早稲田大学の稲継裕昭教授に聞いてみると、「官僚の場合、30代は年収600万円から700万円程度。局長や事務次官に上り詰めれば年収2000万円近くになります。一部の人は確かに高給取りですが、決して稼げる仕事ではないと思いますね」と言い切りました。
さらに、稲継教授はこう続けました。
「東大をはじめ、官僚は有名大学を卒業している人がほとんど。学生時代の同期はコンサル業や商社、銀行など大手企業に就職している人が多い。同窓会に行って、官僚がみじめな思いをするという話もよく聞きます。ハードな仕事をしているのに、割にあわないと感じている官僚の人たちは多いと思いますね」
なるほど確かに、トップクラスの大学を出て、高い理想を持って入省するものの質量ともに過酷な勤務をしてその待遇…。いわゆる「高給取り」とは異なる印象を持ちます。

電話の最後に伊藤さんは私にこんな言葉を口にしました。
「残業代すべてを支払うのが無理なことは理解していますが、そうであるなら、せめて人間らしい生活ができるように働き方を見直してもらいたいです」

子どもが持てない…

もう1人、別の官僚の配偶者の声を紹介します。それは、官僚の妻を持つ夫、吉岡健人さん(仮名・30歳)です。いま一番の悩みは、なかなか子どもを持てないことだといいます。

以下は吉岡さんの話です。
「一番ひどかったとき、妻は週の半分が深夜のタクシー帰り。早朝から夜中まで働いて、精神的にも体力的にも苦しそうでした。子どもが欲しいのですが、こんな状況でそもそも妊娠できるのか、できたとして、無事に産めるのか…。本当に、本当に心配でなりません」
自身も仕事をしている吉岡さんですが、料理をしたり、お弁当を作ったりと、妻の健康に気をつけてきました。

さらに、「2人で話し合い、不妊治療のクリニックに通ったんです」ーーーこう切り出した吉岡さん。しかし治療は半年で断念したといいます。

その理由をおそるおそる尋ねると「病院から平日の予約を指定されることが多かった。でも、妻が仕事を休むことはできませんでした。お互い泣きながらけんかになってしまうこともありましたので」とゆっくり、はき出すように話してくれました。

そして、こう続けました。
「妻も30代前半で、いろいろ不安を抱えています。彼女につらい思いをさせたくない。こんな働き方認められますか?国は女性活躍や働き方改善を掲げているのだから、どうにかして見直してほしいです」

“霞が関のリアル”を教えて下さい

「霞が関の現実をもっと知ってほしい」と寄せてくれた声は、官僚の家族だけでなく、一般職の方からもありました。本当にありがとうございます。

最後に今回取り上げられなかった声の一部を紹介します。

「転職してほしい」

「夫に何度も転職を薦めましたが、多くの人たちの生活を守る仕事がしたいといい辞めません。これでは『やりがい搾取』ではないでしょうか」(30歳・妻)

「常識が、非常識」

「民間で働いた経験もありましたが、霞が関の常識はどこまでいっても非常識。今でも官僚たちが過酷な生活を送っていると思うと、悲しい気持ちにしかなりません」(32歳男性・元官僚)

「私も分かります」

「記事を読んで、あぁ分かるとため息がでました。私の場合もタクシー帰りの日々で、嘔吐や生理が止まるなどの症状そしてある日突然、眠れなくなりました」(20代女性・官僚)

「これから不安…」

「4月から国家公務員の一般職として地方で働きます。いずれ本省で勤務すると聞いているので、ここまで地獄のスケジュールなのかと驚きました。憧れの仕事だけど不安です…」(22歳男性)
相次ぐ不祥事で、厳しい目が向けられている霞が関。しかし今回の取材で、「なぜ、優秀な人たちが、これだけ身を粉に働いているのに、問題が起きるのはどうしてだろう」と改めて感じています。

私たちは引き続き、“霞が関”のリアルな実態や、そこで何が起きているのか、取材を続けたいと思っています。さまざまなエピソード、さらに、そこで働く人たちの(総合職・一般職問わずです)訴えたいことでも結構です。

こちらのアドレスまで、「霞が関のリアル」と書いて、お寄せ下さい。
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/