“育休がとれない” 守られない臨時保育士

“育休がとれない” 守られない臨時保育士
「妊娠したら仕事を切られた」
「子どもを産むことがすごく悪いことだと感じた」
そう話すのは首都圏の自治体で保育士として働いていた女性です。子どもが大好きで幼い時から憧れていた保育士になったはずだったのになんで…。取材を進めると法律でも育児休業の取得が認められていないことがわかってきました。その理由は非正規雇用の臨時職員だから。たとえ何年働き続けても関係ないといいます。待機児童を減らすために全国の自治体で増加した「臨時保育士」。苦しんでいる多くの人の声を知ってほしいと思い取材を進めました。
(ネットワーク報道部記者 岡田真理紗・國仲真一郎)

“妊娠したら雇用継続できない”

埼玉県ふじみ野市の公立保育園で臨時職員として働いていた高野麻美さん(39)は去年6月、2人目の子どもを妊娠しました。

契約は半年ごとの更新。この保育園で働き始めてからおよそ2年がたち職場の雰囲気にも慣れてやりがいも感じていました。出産後もこのまま仕事を続けたい。育児休業を取得したいと職場の上司に相談しました。

しかしその後、ふじみ野市からかかってきた電話は思ってもみない内容だったといいます。
「出産予定日に合わせて仕事を切り上げたらいかがでしょうか。臨時職員の育休制度はありません」
この話を聞いた高野さんは出産前6週間・出産後8週間の産休を終えた後ですぐに職場に戻りたいという気持ちを伝えました。

40歳を目前にした出産。出産後の体調は大丈夫なのか、不安はありましたが、夫の収入だけでは生活が苦しいこともあり仕方がないと考えました。

しかし市からは「産休の途中で契約が切れてしまうので、そこから先は契約を継続できない」と言われたといいます。
「『妊娠したから雇用継続できないということでしょうか?』と聞いたら、はっきり『はいそうです』と言われました。こういうことが本当にあるんだとすごくショックでした。妊娠したことがすごく悪いことなのかなと感じてしまい…」(高野さん)

公務員だから大丈夫だと…

高野さんは以前は埼玉県内にある公立病院で正規職員の看護師として働き、4年前に長男を出産した時には産休と育休を取得し、職場に復帰しました。

その後自宅に近いふじみ野市内で働きたいと2016年5月から保育園の臨時職員として働き始めました。

保育園では酸素吸入が必要な子どもや、ダウン症の子のケアを担当。勤務は午前8時半から午後5時、週に5日。採用された時にも育休についての説明はありませんでしたが、公務員だから女性が働きやすい環境だと思い、育休もとれるものだと考えていました。

労働局は指導できない

高野さんは埼玉労働局に相談しました。しかし直面したのは“公務員の壁”でした。

労働局の担当者からは「この勤務条件なら産休も育休も十分に取れるはずだが、公務員の場合、労働局は指導に入れない。自分で交渉してください」と言われたといいます。
総務省の行政相談からの高野さんへの回答文
弁護士や総務省の相談窓口などに相談しましたが、去年12月に保育士をやめざるをえませんでした。
「民間企業で働く友人が同じようなことがあって相談して解決していたので、何とかなると思っていました。なぜ、自治体の臨時職員だけが法律で守られない状態にあるのでしょうか。他にも悩んでいる人は多くいると思います」(高野さん)
高野さんはことし1月に無事、女の子を出産。しかし、保育士の仕事を失ったことで、4歳の長男は3月末で保育園を退所することになってしまいました。正規の職員であれば、育休を取得できれば給料の7割程度にあたる「育児休業手当金」を受けることができましたが、高野さんはそれもないため貯金を取り崩すしかないといいます。

ふじみ野市に取材したところ、書面で回答がありました。
臨時職員を雇用している理由については「時々刻々と変化する保育所入所児童人数や成育の状況に応じた保育の必要量に柔軟かつ早急に対応するため、臨時職員を雇用することで、配置基準を順守した体制を整えています」としています。

また育休制度をもうけていない理由は「民間労働者の関係法が適用除外とされておりますことから、育休制度を設けておりません。ただし、地方公務員の育休制度については国、他の地方公共団体の職員との均衡を失しないよう配慮を払わなければならないとされておりますので、今後においてもこうした関係法令等の趣旨を踏まえ対応していきたい」としています。

法律の枠組みから外れた臨時職員

全国の自治体で臨時や非常勤として働く「非正規公務員」の数は増加していますが、中でも急激に非正規化が進んでいるのが保育の現場です。

総務省が2016年4月1日の時点で行った調査によると、全国の市町村と東京23区で働く保育士のうち、非正規が占める割合は43%にのぼっています。

以前は正規職員の保育士をサポートする仕事がメインでしたが、待機児童をなくすために保育士不足は年々深刻に。そうした中で非正規保育士はその数がどんどん増えて正規職員と仕事の内容や責任がほぼ同じだというケースも増えているといいます。
しかし待遇面では大きな差があるのが現状です。それは賃金やボーナスだけではないのです。

総務省の調査では「臨時保育士」が働いている全国の延べ969自治体のうち、半数以上に当たる497自治体で臨時保育士が育休を取得できる制度がありませんでした。取材を進めるとその背景には地方公務員の育休について定めた法律がありました。

この法律では
▽自治体で働く正規職員には子どもが3歳になるまで
▽一般職の非常勤職員は少なくとも1歳になるまで
は育休を取得できる権利を認めています。

ただし、この法律は臨時職員には適用されません。なぜなのか。

その理由を総務省の担当者に取材すると、「もともと臨時職員は1年を超えない任用(雇用)を前提にした制度です。公務員が育休を取得できるのは『同じ職に在籍した期間が1年以上である』ことが条件です。この条件は民間企業も同じです。制度上、働く期間が1年を超えない臨時職員はこの条件を満たさないから法律では育休を取得できる権利を認めていません」と話していました。

ただ、取材の中で臨時職員という契約でありながらも実際には何年も働き続けている臨時職員が少なくないことがわかりました。普通に考えると1年以上、働いている職員と何ら変わりはないと感じます。

臨時職員のもともとの前提が変わっているのであれば、働き方にあわせて育休の取得を認めることができないのか。

そう尋ねると総務省の担当者はことばに詰まりながら「今の法律では難しいのが現状だと思います」と話していました。

さらにふじみ野市の臨時職員だった高野さんのように妊娠・出産で雇い止めにあったと相談しても労働局は改善に向けた指導ができないのが現状です。

労働問題に詳しい圷由美子弁護士によると育児介護休業法には「公務員に関する特例」が定められ、国や自治体で働く公務員の場合は労働局も改善に向けた指導や勧告をすることができないとされているといいます。
「臨時職員はどの法律からもこぼれ落ちている。制度のはざまに落ちてしまっている状態だと思います。本当の意味で臨時的な仕事だったら育休も必要ないかもしれませんが、何年も同じ仕事で働いている場合、本来であれば、臨時職員として雇用すること自体がおかしいと言わざるをえません」(圷由美子弁護士)

保育士になるのが夢だった

首都圏のある自治体で臨時保育士として働いていた佐藤由香さん(30代)(仮名)も、育休がとれなかったため仕事をやめざるをえませんでした。

小学1年生の時の「大きくなったら何になりたい」という文集に「保育園の先生」と将来の夢を書いていた佐藤さん。専門学校を卒業する時に正規職員の保育士の採用試験を受けましたが落ちてしまいました。

しかしずっと夢だった保育士になりたい。ほかに正規職員の空きがなかったため非正規雇用でしたが、公立保育園の「臨時保育士」として働き始めました。
「自分が通っていた保育園の先生がすごくいい先生でその人のようになりたいってずっと思っていました。夢がかなった時は本当にうれしくて。子どもの頃から憧れていた先生のようになるのはどうしたらいいんだろうと毎日考えながら働いていました」(佐藤さん)

臨時保育士として10年間勤務

1年契約の更新を繰り返し、10年間、臨時保育士として働き続けてきました。勤務時間は午前8時半から午後5時まで、週5回のフルタイムで、担任を受け持ったり、保護者との面談をしたりと、正規職員と同じ仕事をしてきたといいます。

正規職員の保育士になりたいという思いはありましたが、働きながら勉強を続けることは難しく臨時職員でも仕事のやりがいは感じることができるのでそのまま、働き続けました。

“出産後8週間で復帰するか、退職するか選べ”

佐藤さんは去年の夏、初めての子どもを妊娠しました。産休に入る時期などを決めようと自治体の担当者に相談したところ「8週間で復帰するか、そのまま退職するか」のどちらかを選ぶよう告げられました。

この自治体でも臨時保育士に育休は認められておらず、出産前6週間、出産後8週間の産休しか取得することができなかったのです。
「生まれてまだ8週間の、首も据わらない、なんとか生きているような子どもを置いて仕事に行くのは、子どもにとっても自分にとっても、到底できることではないと思います。建て前では選べるようになっていても、結局は『辞めなさい』って言われているのだと、その時に思いました」(佐藤さん)

正規職員のうれしそうな表情が忘れられない

さらに彼女が私たちに打ち明けてくれたのが、同僚の正規職員が妊娠したときのことでした。

この自治体では、臨時保育士には認められていない育児休暇が正規職員には1年以上認められているといいます。休みに入ることを職場で報告したときの、正規職員のうれしそうな表情が忘れられないといいます。
「正規職員の保育士の先生は妊娠しても長い休みの間の給料もあって、復帰できる場所も用意されています。でも自分たち臨時保育士は退職しなきゃいけなくて、将来への不安だらけで休みに入らなければいけないです。10年間、臨時職員として働き続け、正規職員の同じ仕事をしてきたはずなのになぜここまで違うのだろう」(佐藤さん)
佐藤さんはことしに入ってから保育士の仕事をやめました。そしてこの春に出産を予定しています。子育てが落ち着いたら再び保育の現場に戻りたいと考えています。ただ、一度退職した以上、復帰できる保証はどこにもなく、これまでと同じように働けるのか、不安を抱えています。
「夢だった保育士として10年間働いてきたのに。せっかく夢をかなえたけれど、1回夢が途絶えるという気持ちです。誰でも夢をみてもいいしかなえてもいいはずなのに出産で仕事をやめなくてはいけないというのはやっぱりおかしいんじゃないのかなと思います。つらいですし、さみしいです」(佐藤さん)

新たな「非正規公務員」の制度

総務省は2020年度から地方公務員の新たな人事制度として「会計年度任用職員」と呼ばれる制度を導入することにしています。新たな制度では、「特別職非常勤」や「臨時的任用」の要件を厳しくし、多くの「非正規公務員」を「会計年度任用職員」という枠組みに移行するとともに、ボーナスの支給を可能にするなど、これまで認められてこなかった待遇面の改善ができるとしています。

一方で専門家や労働組合などからは、新たな制度も形骸化するのではないかといった懸念や、賃金面などでは依然として正規職員と非正規職員の間に差が残されたままだという批判も出されています。

この「非正規公務員」の問題。私たちはこれからも取材を続けていきたいと考えています。読んでいただいた皆様からの情報提供をお待ちしています。寄せられた声を取材して記事にしていきたいと考えております。

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