私、受け子でした 使い捨てにされた少年たちの告白

私、受け子でした 使い捨てにされた少年たちの告白
穏やかな日の光が差し込む少年院の一室で、彼は打ち明けました。
「すごくいい人、温かい人、そういう人たちを、僕はだましました」
少年は振り込め詐欺などの「特殊詐欺」に関わっていました。信頼できる先輩から紹介された「いい仕事」。それは高齢者から現金を受け取り、詐欺グループに渡す「受け子」でした。詐欺事件の犯人というにはあまりに普通に見える少年たち。外部の人間が立ち入れないこの場所で、特別に取材を認められた私は「なぜ」と問いかけずにはいられませんでした。
(大津放送局記者 松本弦)

増える“10代の受け子”

筆者
私は去年4月にNHKの記者になりました。滋賀県に配属されて警察担当になり、事件や事故の取材に追われています。

全く余裕のない毎日ですが、ある捜査関係者から聞いたひと言が、ずっと気になっていました。

「10代の”受け子”が増えている」

「受け子」というのは振り込め詐欺といった「特殊詐欺」を行うグループの末端にいるメンバーです。詐欺の手口を考えたり、高齢者に電話をかけてだましたりする中心的なメンバーから指示を受け、被害者から現金を受け取る役割を担います。

高校を出たばかりのような年齢の若者たちが、なぜ逮捕されるリスクの高い「受け子」になるのか? 実は彼らも「だまされる側」で、使い捨てにされているだけなのではないか? 私の疑問は膨らむばかりでした。

日々の取材の合間に捜査関係者、法曹関係者、教育関係者…思いつくかぎりに取材を試みました。

するとある人物が「本人が特定されないように」という条件つきで、詐欺事件で逮捕された「A少年」についての話を聞かせてくれました。
本当は直接話を聞きたいところですが、まずはその人物からA少年が受け子に仕立て上げられていく過程を聞くことができました。

先輩に誘われて…

A少年はおととし秋、「久しぶりに会おう」という高校時代の先輩の誘いに応じ、大阪の繁華街で待ち合わせました。
人混みを歩きながら、ふと先輩が「現金を運ぶだけで高い報酬がもらえる」と持ちかけてきました。
『そんな悪そうな仕事をしてもいいのかな?』
犯罪だと直感したA少年は少しだけちゅうちょしました。少年はすでに働いていて、それほど金に困っていたわけではありません。

しかし、後先のことをそれほど深く考えることもなく、誘惑に負けてしまいました。
『遊ぶお金がほしいし、良い服も着たい』
そして、こんな思いも持っていたそうです。
『断ると怖いし…』
それから数日後、顔も知らない人物から突然、電話がかかってきました。番号は非通知。「受け子」をやるよう指示する詐欺グループからの電話でした。

その一つ一つの手順も、具体的に指示されました。A少年は指示どおりにスーツを着て、大阪府内のターミナル駅の前に向かいました。
しばらく待っていると、やがて高齢の男性が現れ、重たいかばんを手渡されました。

かばんを受け取ると、すぐに近くの公衆トイレに向かいました。使用中の個室のドアの前に立ち、ノックしました。
「コン、コンコンコン、コンコンコン(1回、3回、3回)」

すると、中から…。

「コン、コン、コンコンコンコン(1回、1回、4回)」
中にいるのが誰かは知りませんでしたが、指示どおりの合図が返ってきたことから、A少年は高齢者から受け取ったかばんをドアの上から手渡ししました。お互い、顔を合わせることは一切ありませんでした。
次の日、先輩から報酬の5万円を受け取りました。わずかな時間と労力で大金を手にすることができ、高揚感が広がりました。

しかし、すぐに次の受け子の指示が詐欺グループからかかってきました。終わってもすぐに次の指示が出されることが続き、徐々に恐怖感が芽生えてきました。
『警察に捕まってしまうのではないか』
ただ、すでに詐欺に加担したという負い目や、先輩を怒らせたくないという思いから、途中で抜け出すことができませんでした。

そうした思いを持ちながら受け子をして現金を受け取ると、突然、周囲を取り囲まれました。受け子を始めて1週間。いわゆる「だまされたふり作戦」で警察に逮捕されました。
『もう、受け子をやらずに済む』
A少年はこう思うほど追い詰められていたといいます。

元受け子・B少年との対面

私はどうしても受け子だった少年の声を直接聞きたいと思い、さらに取材を進めました。
たどりついたのは兵庫県加古川市にある少年院でした。一定の条件のもとであれば、取材に協力してもよいという返事をもらえたのです。

2月下旬。私は冷たい風が吹き抜ける郊外の坂道をのぼって、少年院に向かいました。少年院に入るのは人生で初めてでした。想像していたような殺伐さはなく、開放的な雰囲気の施設でした。

用意された部屋でカメラをセッティングし、待機していると、やがてひとりの少年が現れました。まだ顔にあどけなさも残る「B少年」です。

まずは受け子になったきっかけから尋ねてみました。

記者「誰からどういう風に声かけがあったの?」

B少年「当時ある職場で働いていた時に、その職場の先輩からの紹介でやりました」

記者「その話に乗った動機は?」

B少年「犯罪ではないと先輩から伝えられていました。先輩のことを信用していたし、仕事面に関してもいい人だったので、本当に信用という面でやってしまったというのがあったり、またそういう甘い話につられてしまいました」

記者「ふだんから怒ったら怖い先輩では?」

B少年「そうではなく、本当にすごく信頼できる先輩でした」
B少年
その後、B少年はA少年と同じく、会ったこともない詐欺グループの人物からの電話で受け子を指示されました。

B少年「内容を聞いてしまった時にはもう取り返しがつかないようになっていました。おかしい話なんですけど、僕もだまされました。殺し屋を雇っているから、『もしここで逃げてしまったらどうなるかわかるよね?』と言われ、どうしたらいいのかわからなくなりました。相手に自分の名前も知られてるし、家族にはこんな話を相談できないし、周りの友達にも相談できませんでした」

記者「なぜ途中でやめられなかったの?」

B少年「何度もやめたいと思いました。電話がかかってきた時に、指示役の人に『もう帰らせてください、やりたくないです』と言い続けました。そうしたら、『もう帰らされへんから』みたいに言われてしまいました。指示どおりに受け子をしないと危険だと思いました」

こんな質問もしてみました。

記者「受け子をしていて自分の祖父母のことが頭に浮かんだことはある?」

B少年「はい、現金を受け取ったときにそういう思いがありました。実際に被害者と会ってみると、すごくいい人で、温かい人で…。そういう人を僕はだましたと思うと、本当に今でもつらいです」

逮捕されたとき、何を思ったのか、B少年にも聞いてみました。

B少年「逮捕されてすごくスッキリしました。“僕は犯罪者だ”というのが頭の中にあったし、そういうことを考えながら生活していたら胸を張って歩けないし、怖い思いをしたし…。本当に、受け子をしている間は生きているか死んでいるかわからない感覚だったので」

少年は受け子になることの代償の大きさを後になって自覚したようでした。狭い人間関係の中で「楽に大金を稼げる」と誘われたことが、彼らを惑わせていたのです。

“受け子はなくならない”

今回の取材では、さらにC少年が取材に応じてくれました。

C少年「知り合いから、『楽に金がもらえるいい仕事があるぞ』と誘われました。普通に、人から大事な書類などを受け取りに行く仕事だと言われました。楽な仕事でそこそこお金もらえるんだったら、しんどい仕事をするよりもそっちのほうがいいかなと思ってやりました。実際にめっちゃ楽で、お金もけっこうもらえました」

C少年も電話で指示を出されていました。

C少年「現金を受け取る直前に、『まずどこに行け』と住所を言われて、『自分を尋ねてきた人がいたら自分の名前を名乗って』と言われました。受け取ったものは、コインロッカーとか、自動販売機の下とか、ゴミ箱の裏とか、置き場所をいろいろ指示されました」

記者「現金を受け取れ、という明確な指示はなかった?」

C少年「無かったです。捕まってから、警察の人に『なんぼ入ってた?』と言われたので、その時に、あ、お金だったんだと知りました」

記者「自分もある意味では詐欺グループからだまされていたと思う?」

C少年「だまされたと思う気持ちも多少あるんですけど、それより自分も同じことをしていたという気持ちが大きい」

最後に、この質問をぶつけてみました。

記者「受け子はなくなると思う?」

C少年「なくならないと思います」

記者「どうして?」

C少年「僕らみたいなお金に困っている子は絶対にいると思うので…なくなることはないかなって思います」

“受け子にさせない”

去年、特殊詐欺に関わったとして検挙された少年や少女の数は全国で754人と、前の年の1.5倍に急増しています。このうち、4人に3人(575人)が「受け子」でした。

今回、私が取材を認められたのは気付かないうちに犯罪の片棒を担がされる若者を少しでも減らしたいという、関係者の強い思いがあったからです。
取材した少年たちは、受け子は被害者にうその電話をかけることがないため、「人をだましている」という意識がそれほどないと話していました。これが、受け子になることへの抵抗感が少ない理由の1つかもしれません。

しかし受け子になるのは犯罪者になるということです。それも罪の重い、詐欺という犯罪です。

彼らはお年寄りをターゲットにした特殊詐欺の中でも、実際に現金を回収するという極めて重要な役割を果たしています。その罪を見逃すことはできません。
ただ最も許せないのは、まだ社会での経験が乏しく、収入も多くない若者たちをことば巧みに誘い出し、逮捕されるリスクを押しつけている詐欺グループです。

受け子になってしまう若者を減らすためにはこうしたグループそのものを徹底的に摘発しなければなりません。

しかし受け子を捕まえることはできても、グループの中心メンバーに捜査を進めるのは至難の業です。受け子への指示はすべて電話。さらに金の受け渡しでも受け子には顔を一切見せないなど、姿を隠すことを徹底しているからです。

C少年が「受け子はなくならない」というとおり、金のために危険を冒す子どもはなくならないのかも知れません。

ただA少年の「もう受け子をやらずに済む」ということばに、何かヒントがあるような気がしています。

「リスクに見合った報酬すらもらえず、徹底的にこき使われ、逮捕されると見捨てられる」

受け子とは、結局この程度のものであることを若い人たちにしっかりと知ってもらいたいと思います。

「5万円払うから、荷物受け取りに行ってくれない?」

こんな誘いを受けたら、「周りと相談する勇気」「甘い誘いを断る勇気」を持ってほしい。取材に協力してくれた多くの人たちの思いを伝えるためにも、さらに取材を進めたいと思います。