虐待 “一時保護所”の苦悩

虐待 “一時保護所”の苦悩
虐待を受けた子どもたちが入る「一時保護所」って知っていますか?保護された子どもが真っ先に行くことになる施設です。去年6月の時点で全国に137か所あり、年間延べ2万人の子どもが虐待を理由に預けられています。子どもを親から引き離し命を守るためのこの施設は、プライバシーが厳重に管理され内部はおろか場所すら非公開。しかし今回、特別に撮影が許可されました。知られざる「一時保護所」。その実態をお伝えします。(社会部記者 本多ひろみ 村堀等)

ひっそりたたずむその建物は…

私たちが向かったのは岡山市。
秘密の施設は、意外にも街中にありました。建物は大人の背丈以上ある塀に囲まれ入り口には監視カメラ。
表札もなく、中で子どもを保護しているとは誰も思わないような建物。それが今回の舞台、「一時保護所」です。

一時保護所って?

取材のきっかけは増え続ける子どもの虐待事件でした。

虐待の対応件数は毎年「過去最多」を更新。千葉県野田市で小学4年生の女の子が「お父さんにぼう力を受けています」とSOSを発しながら誰にも助けられずに死亡するなど深刻な事件が相次いでいます。

こうした事態に政府は「躊躇(ちゅうちょ)なき保護」を推し進めています。でも、無事に保護できたとして、その先、子どもたちはどうなるんでしょうか。
昨年度、虐待を理由に一時保護された子どもは延べ2万1000人余り。その6割は一時保護所に入っていました。

過ごす期間は原則2か月まで。児童相談所が親への指導や調査を行い、子どもを家庭に戻すか、里親や養護施設に預けるかを決めるまでのいわば仮住まいです。

今回、岡山市が子どもの匿名性を守り場所が特定されないという条件で撮影を許可してくれました。

鍵、鍵、鍵…

ここでは2歳から18歳までの最大25人を受け入れています。
職員の案内で施設に入ってまず驚いたのが徹底的な施錠です。建物の出入り口はもちろん、廊下も空間を仕切るように、ところどころ鍵付きのドアが設けられていました。
子どもたちには一人一人に六畳一間の個室が与えられます。ただ窓は10センチ程度しか開きません。
学校の教室のような部屋もありました。
施設にいる間は通学ができなくなるため、勉強する場所が必要です。午前中だけが学習の時間にあてられ、1つの教室に小学生から高校生が集まってドリルなどを使って自習をします。

教員のOBたちが勉強を教えに来ますが、学校と比べると、十分な学習環境とは思えませんでした。

なぜこれほどまでに行動が制限されるのか。
案内してくれた岡山市こども総合相談所の佐藤靖啓さんは、「子どもの安全を守るためにやむを得ない面がある」と言います。
虐待のケースでは、保護に反発する親が子どもを無理やり連れ戻そうとする危険があります。
また、一時保護所には、暴力などの問題行動を抱えた子どもも保護されています。子どもの安全を守りトラブルを避けるため、徹底した管理が行われているのです。

窮屈な生活

屋外にはフットサルができるくらいの小さなグラウンドがあります。塀に囲まれた中で子どもたちが、夢中になってサッカーボールを追いかけていました。
決められた日課に沿って過ごし、規則正しい生活によって落ち着きを取り戻す子もいるといいます。それでも子どもたちが窮屈な生活を送っていることも確かです。

岡山市の一時保護所が今回取材に応じたのは、こうした事実も広く知ってもらいたいという思いがあったからだということです。
佐藤さんは「子どもたちをこんな窮屈な空間で生活させて本当にいいのかいつも葛藤があります。子どもの中には“優しい刑務所”と表現した子もいました。必要なときは躊躇なく保護すべきですがやみくもに保護して衣食住だけ保障しておけば良いというわけではないと思っています」と話していました。

心の回復が遅れた…

一時保護所で過ごした子どもは、どう感じているのか。
私たちは、中学生のころに都内の施設で3か月余り過ごしたという20代の女性に話を聞くことができました。
安全管理の方法は施設によって違います。女性が入っていた都内の施設では、子どもたちは岡山市よりも厳しく管理された生活を強いられていました。
「他の子どもとの会話だけでなく目を合わせることすら禁止でした。24時間見張られて寝るときも常に緊張していました。当時は考える余裕もなく従うしかありませんでしたが、虐待で受けた心の傷の回復がとても遅れたと感じています」
厚生労働省は去年7月、一時保護所での生活や行動の制限を必要最小限にすることとするガイドラインをまとめました。施設の改修や生活ルールの改善がようやく始まろうとしています。

里親家庭の活用を

実は一時保護所のほかにも保護された子どもたちを受け入れる場所があります。

その1つが「里親」です。里親は子どもにとっては、見知らぬ他人ですが、子どもたちの事情をよく理解し、家族と同じように温かく迎え入れてくれます。

また、地域に開かれた「児童養護施設」も受け入れが可能です。多くの場合、一時保護所よりは生活に制限が少なく、学校に通うこともできます。

ところが、実際にはあまり活用されているとは言えません。昨年度、虐待を理由に一時保護された延べ2万1000人余りのうち、里親に預けられたのはわずか約7%、児童養護施設は約13%にとどまっています。
里親や児童養護施設に預けられるのは、親が連れ戻しに来るリスクが無いなど子どもの安全に問題がない場合に限られるということも要因としてありますが、最大の理由は受け皿不足です。

深刻な受け皿不足

特に東京などの都市部では虐待の急増で、里親や児童養護施設のもとで暮らす子どもが慢性的に多く、一時保護の子どもを受け入れる余裕がないのです。
さらに、受け入れの余裕が無いのは「一時保護所」も同じです。保護される子どもが急増し都内を中心に定員を超えての受け入れを余儀なくされているところがあります。

東京都の担当者は、「受け皿の拡大には取り組んできたが、虐待で保護が必要になる子どもが予想以上に増え、対策が追いついていない」と話していました。

保護の遅れにつながりかねない

日本社会事業大学の宮島清教授は、受け入れ先が見つからずに保護の判断が遅れてしまうことにもつながりかねないと警鐘を鳴らしています。
「受け皿に余裕がない状況では、危険度がそれほど高くないケースの保護は、後回しにせざるを得なくなる。しかし、施設の空きを待っている間にシングルマザーの母親が暴力的な男と同居を始めるなど家庭環境が急激に悪化することもあり、その結果、保護が遅れて子どもを救えなかったケースが過去に何度も起きている」
すでに危機的な状況にあるという宮島教授。受け皿の拡大とともに虐待の芽を早期に摘む努力も不可欠だと指摘します。
「里親や児童養護施設などの受け皿の拡大に早急に取り組まなければならないが、どうしても時間がかかる。同時並行で児童相談所の職員などがトラブルの起きた家庭で親にも寄り添って子育てを支え、保護が必要になる子どもを減らすなど、やれることはすべてやるという覚悟を持って対応すべきだ」
岡山市の一時保護所を取材して最も心に残ったのは被害者である子どもたちが保護された先でも窮屈な生活を強いられている現実でした。もちろん必要な場合は積極的に保護すべきですが、何より大切なのは一時保護所で過ごす子どもをいかに減らしていくかを考えていくことだと思います。
社会部記者
本多ひろみ
社会部記者
村堀等