紙が足りない!

紙が足りない!
私達の日常に欠かせない「紙」。今、品薄感が広がっているといいます。じわりじわりと影響も…。そこにはこんな背景がありました。(ネットワーク報道部記者 伊賀亮人 田辺幹夫 飯田耕太)

コミケが…

紙の品薄感でネットで心配する声が特に見られたのは、アニメなどの同人誌が大規模に販売されるイベント「コミックマーケット」(通称・コミケ)についてです。

同人誌は、制作者本人が印刷会社に持ち込んでつくりますが、紙不足のあおりをうけるのではないかというのです。

ネットには、「紙不足でコミケが死ぬのでは」とか「コミケは会場問題だけじゃなくて、紙確保も問題になってきたのか」という声が上がっていました。
実際に同人誌の制作者の中にはすでに影響を受けた人も。

ネットで販売している石林グミさん(36)は、3月、自作の同人誌を増刷するため、これまで発注していた印刷所に頼もうとしたところ、「紙が不足していて印刷できません」と断られたということです。

石林さんは、急いで他の印刷会社を探し、最終的には見つけることができました。しかし印刷にかかった費用は、前の印刷所よりも10万円ほど高くなってしまったということです。
「個人で印刷を手配し販売しているので、こういう値上がりはとても痛いです」(石林さん)

紙の取り合い?

印刷会社のホームページを見ると、確かに複数の企業が注文の受け付けを一部停止するという通知を出しています。
その1つで企業の書類やチラシ、それに個人向けのフォトブックなどの印刷を行っている「グラフィック」(京都市)に話を聞きました。
「もともと3月は年度末で企業や官公庁からの需要が高まる時期のため、注文の受け付けを一部でお断りすることもあるのですが、紙不足で受け付けをやめるのは異例で、ことしが初めてです」(担当者)
この会社では3月から注文にさまざまな制限を設けていて、例えば冊子によっては、3000部以下、36ページまでのものに限るとしています。
「印刷用紙全体が不足して業界で取り合いになっているのです」(担当者)

納期に余裕を…

こうした状況の中、東京都印刷工業組合では、3月、参加する印刷業者に対して、印刷用紙が不足していることに官公庁や自治体から理解を得るよう呼びかけました。
組合が出した文書
組合によると、1月に調査を行った結果、全国的に印刷用紙が非常に品薄で特に再生紙が入手困難になっていることがわかったそうです。

このため、環境保護の観点から書類に再生紙を使うことが多い官公庁や自治体に対して年度末や年度初めにピークを迎える印刷物の注文には、納期に余裕を持たせてもらう必要などがあると考えました。

原因は紙離れ、災害、米中貿易摩擦

それではなぜ印刷用紙がなくなっているのか。

大手製紙会社「日本製紙」に問い合わせたところ、大きな流れとして社会のデジタル化に伴う「紙離れ」でそもそも印刷用紙の需要が減っていて、設備を停止するなど、生産の縮小が続いているといいます。

それに加えて去年は、西日本豪雨や北海道の地震という自然災害の影響で設備が停止したことなどでさらに生産量が減少。例年の生産のピークである9月や10月にも回復しなかったことから在庫も少なくなっていき、現在は一時的に紙が手に入りにくくなっているのではないかとしています。

製紙会社でつくる日本製紙連合会によると、業界全体がこうした状況にあるほかアメリカと中国による貿易摩擦も影響しているとみられるそうです。
というのも中国政府が段ボールなどの原料になる古紙について、最大の輸入元であるアメリカに関税をかけたため日本から輸入する企業が増えたそうです。

結果として日本国内で新聞などの古紙の流通量が少なくなり、古紙からつくられる再生紙の生産量が減少しているというのです。

仕事にも影響

紙不足で利用者への影響が広がっています。

「3万部以上印刷出来なくてめちゃくちゃ困ったよ」

栃木県に住む32歳の女性は広告の仕事で毎月イベントや新商品の告知チラシを印刷しています。
3月上旬にも、いつも利用している印刷業者のサイトを通じて、4万部発注しようとしましたが、いつの間にか部数に上限が設けられていることを知り、思わずツイートしたと言います。

このため、同じ会社で2回に分けて発注することになりましたが、料金は10万円ほどかかり、いつもより2万円ほど高くなったということです。
女性は「仕事で頻繁に印刷する必要があるのに、そのつど会社を探すのは大変で料金がかさむのも困ります」と話していました。

チラシの減少も検討

工務店で働く京都市の40代の女性は、店で定期的に開いている住民向けの住宅や建築に関する勉強会のチラシの制作を担当しています。

3月に1万2000部の案内チラシを注文しようとしたところ、印刷会社が部数を制限していることを知りました。

ネットで他の印刷会社も探しましたが、2000部以上受け付けてもらえるところが見つからず、やっと注文できたところも、納期の希望は通らず、「最短で2週間後のお届け」となったそうです。
「チラシが納品された後、住民に配る時間を考えると4月の勉強会に間に合うかどうかタイムリミットが近づいています。会社では6~7年、チラシの発注に関わっていますが、こんなことは初めてで、今後は、配布枚数を減らしたり、エリアを縮小したりすることも考えなければいけません」。

「紙不足」今後も続くのか

それでは印刷用紙は今後も足りない状況が続くのでしょうか。

印刷会社の「グラフィック」では、ことしは4月に新しい元号が発表されることから書類やカレンダーなどで印刷用紙の需要が増えると見込まれるほか、夏の参議院選挙や10月の消費税率の引き上げなどもあり例年以上に印刷用紙が必要になるのではないかとしています。
「新元号についてはどのような影響があるのか読めないこともあり、今後も紙不足が続くことを危惧しています」
日本製紙は今後、生産設備の点検などが予定されることから、しばらくは需給がひっ迫した状態が続くものの、夏ごろからは生産が安定し不足状態も解消するのではないかと見ています。
生産の縮小が続く中で起きた印刷用紙の品薄感。需要と供給のバランスが見合うようになるまでには、まだ時間がかかりそうです。