「エントリーシート」ってなくならないの?

「エントリーシート」ってなくならないの?
就職活動で、学生が必ず直面する「エントリーシート(ES)」。このES「書くのがつらい…」と学生からは手間が大変と不満の声が。一方で、大量のESを受け取って選別する企業の担当者からも「大変!」の声が。これって意味あるの?どうなるの?なくならないの?疑問を取材しました。(ネットワーク報道部記者 高橋大地 岡田真理紗 國仲真一郎)

ことしも就活解禁!でもESが憂うつ…

エントリーシート(ES)とは、内定に向けた第一関門ともいうべきもの。企業が設定する質問に、学生が回答し、書類選考を兼ねているケースもあります。

就活情報サイトを運営する「ディスコ」が、就活経験者に調査したところ、1人当たりのESの提出数は平均で14.5社にも。(今春卒業予定1159人対象 去年10月時点の提出数)
ESで有名なのが「ガクチカ」=「学生時代に力を入れたことは何ですか」という質問。
「志望動機」「自己PR」などもよくある質問ですが、このほかに企業ごとにオリジナルの質問があり、これがやっかいなんだそうです。

就活生に聞いてみると…
「『あなたの人生の3大ニュースは?』とか『最も苦手なタイプの人は?』など、結構考えないと答えられない質問を10問以上、手書きで書かせるところがあり、とても大変でした」(女子学生)
「『腹を抱えて笑えるエピソード』を教えてください」
「『タイムマシンを借りて、あなたの消したい過去を消しに行くとしたら、いつに戻って何を消しに行きますか』というESがあり、書けそうになかったので、結局出しませんでした…」(男子学生)
SNSにも、悲鳴にも似たつぶやきが並んでいます。
「ES書いて寝るのは(午前)3時半すぎ。就活こんなつらいの?」
「ESって何回も何枚も何社も同じこと書かなきゃなんない。イライラする!!」
「いったい、何社に出せばいいのよ…これ…」
就活生に聞いてみると、だいたい1つのESを書くのに最低でも30分。1週間かかった会社もあったそうです。

中でも、慣れない「手書き」のESに泣かされているようです。
「初めはボールペンで書いていたのですが、何回も書き間違えて最初から書くはめになり、今は鉛筆で薄く書いてボールペンで清書して、にじまないよう1時間くらい待って消しゴムで消しています。時間がかかるので、間に合わなくなって提出を諦めた会社もありました」(女子学生)
売手市場の影響か、ESの提出数は少しずつ減っているようですが、負担となっているのは間違いなさそうです。

ESは平成に入って…

ESはいつからはじまり、どうして広まってきたのでしょうか。

リクルートキャリア就職みらい研究所の増本全所長によりますと、新卒採用にESが使われ出したのは、平成3年にソニーがはじめた「学歴不問採用」が起源だそうです。
「当時は、学歴採用が当たり前でしたので、ソニーの採用は画期的でした。学生にいろんな観点から質問して、どういう考えや価値観をもっているのかを探ったのがエントリーシートの始まりとされています」
「そこから、就職活動は「オープン」「フェア」であるべきだという考えが普及していって『どんな人でも応募できる』状況になりました」(増本さん)
それまでの学歴などの壁が取り払われた一方で、今度は人気企業には応募が殺到する事態に。

ESの役割も変わっていきます。「人物を多面的に見る」というもともとの趣旨に加えて、「学生の意欲をためす」という書類選考の役割も課されたのです。

学生は「一生懸命考えて個性を打ち出し」つつも「誠実に丁寧に」、いくつものESを書かなければならず、負担が大きくなっているのです。

そうなると、このSNSで情報がかけめぐる今の時代では…
“先輩のESをコピペ”“文章のうまい人に代筆”なども珍しくなくなり、フリマアプリなどでは、「エントリーシート代筆します」というサービスが、1000円~3000円程度で売られています。

こんな状況に、「ES意味あるの?」という声も多くつぶやかれているのです。

企業側もESが負担に

ESに苦労しているのは学生だけではありません。人事担当者にとっても、大きな負担という会社も多いようです。

“読むのに膨大な時間がかかるし、苦労して読んでもコピペかもしれない…”

ESやめた企業も

住友商事は、去年からESを廃止。1次選考は学力試験のみにしました。4年前にESを取り入れてみたものの、結局3年で廃止に。
「そもそも数百文字の文章で学生を評価するのは難しいですし、最近はネット上に『模範解答』のようなものが多数出ていて、コピーして使う学生もいることからよけいに難しいです。学生が多くの時間を費やして作成したESを有効活用できないなら不誠実だと考え、廃止しました」(住友商事)
では、学力試験以外の面をどう評価しているのでしょうか?
「学生に、WEB上で面接官に聞いてほしいことを5つ入力してもらって、面接でそれを聞いています。これなら学生の負担も軽くて済みます」とのことでした。
大手バイクメーカー「ヤマハ発動機」では、平成30年4月の採用からESを廃止しました。

ESを見なくていいことで、採用担当者は楽になったのでしょうか?
「(ESを廃止したところ)応募数が1.5倍に増加。さらに学生1人当たりの面接回数が増えたので、採用にかかる労力は例年の3倍近くになりました」
ES廃止で時短というわけには、いかなかったようですが、メリットは大きかったといいます。
「(応募の大幅増で)以前よりも多くの学生から選考できるため、より当社に合った人物を選ぶことができるようになりました」(担当者)

やめないけど省力化

こうした中、ESの選考の省力化に取り組み始めたのが、ソフトバンクです。
2年前から導入したのが、AI=人工知能の活用。どうやって活用するのかといいますと。

まず、「合格者のES」「不合格者のES」をAIに学習させていきます。そして、学習させたAIに、応募されたESを読み込ませます。
そうすると、AIが内容を認識、基準を満たした場合は選考通過という仕組みだそうです。

すべて機械判定?ということではないそうで、AIが不合格と判断した場合は、担当者が人間の目で見て合否を判断しているそうです。

「AIを導入した狙いは大きく分けて2つです」
(1)時間の短縮
ESには2つの質問があり、平均すると1人当たり1200文字が書かれているそうです。熟練した担当者でも1問読むのに3分はかかります。
以前は、担当者10人で取り組み、その合計はおよそ1360時間=(56.6日に相当)もかかっていました。
(2)公平公正な目線で採用
担当者も、若手から経験豊富な社員までさまざま。トレーニングを積んでも、ESを読むスキルにばらつきがでるのは否めません。
この点、AIを使えば、ある一定の基準で判断されます。
さらに、他人のESをコピペした場合、それをチェックすることもできるとか。

AIの導入によって、ESの読み込み時間が75%も短縮できたそうです。
「(採用担当にとって)ESの提出と説明会の時期が重なってしまうので苦労していましたが、AIで時間を短縮できたので、学生に会ったり、内定者の入社までのフォローに時間を割くなど、人間にしかできないことに注力できるようになりました」
「ESの文章で、性格なども判断できますし、非常に価値のあるデータなので、今のところは続けていく予定です。AIで効率化を進めつつ、優れた人材を発掘できるようにしていきたいです」(採用担当 安藤公美さん)

ESの今後は?

結局、ESは、なくなっていくのでしょうか、なくならないのでしょうか。リクルートキャリア就職みらい研究所の増本さんの見解は「大手では残るのでは?」
「学生の応募のハードルを下げるため、ESを廃止する流れもありますが、多数の学生から応募があるような大企業は、物理的に全員に会うことが不可能です。最初の段階の判定ツールとして、今すぐなくなることはないと思います。8割以上の企業が、ESを含めたなんらかの書類選考をもうけているのが現状ですので」(増本さん)
さらに、増本さんは、ESがなくなっても、学生が問われることは本質的には変わらないとみています。
「学生は、自分をどのように表現していいかわからないからESを負担に感じるのだと思います。でも、自分の強みなどを整理して言語化することは、就職活動で避けては通れません。ESがなくなったとしても、自分のやりたいことや取り組んできたことについて分析する過程は必要ですし、形は変わってもなくならないと思います」
ESに苦しめられている就活生の皆さん、本当にお疲れさまです。皆さんが直面している最初のハードル。まずはここを超えることが、第一歩。どうか頑張ってください!