給料UP 早くも息切れ?

給料UP 早くも息切れ?
「給料をどこまで底上げできるか?」ーーデフレからの完全脱却、目前に控えた消費税率引き上げ、“戦後最長”の景気回復の実感など、さまざまな角度から真価が問われた、ことしの「春闘」。集中回答日に示された大手企業の妥結内容から見えてきたものとは? (経済部記者 篠崎夏樹)

“脱官製”の結果は?

この5年は政府が強く賃上げを求め「官製春闘」とも呼ばれましたが、ことしは経団連が「賃上げはあくまで労使の話し合いで決めるという原則に立ち戻る」という立場で、数値目標は示さずいわば“脱官製”春闘としてどれだけ賃金の底上げができるかが最大の焦点となっていました。

その結果ですが、相場をリードするはずの大手メーカーで、去年実績を下回る状況が相次ぎました。
社員のやる気を引き出すため、日産自動車やマツダでは組合からの要求どおりの「満額回答」となりました。また、深刻な人手不足への対応として、去年の3倍のベースアップ(ベア=月額の基本給の一律引き上げ)に踏み切った福山通運などの例もありました。

しかし、ベアで見ると、多くの大手企業で賃上げの幅は去年を下回り、全体として賃上げの勢いが鈍り、息切れ感が出ています。

こうした結果について、米中貿易摩擦による先行き不透明感や中国経済の減速の影響など厳しい要因がある中で、労使ともに総じて「まずまず」という評価をしています。
経団連 中西宏明会長
「日本経済を着実に前に進めていくような結果ではないか。集中回答日の回答をみるかぎり、ポジティブに受け止めている」
自動車総連 高倉明 会長
「年明け以降、交渉環境が日増しに悪化するなかで、それぞれの組合にとって最大限の回答を引き出せたと受け止めている」
電機連合 野中孝泰 中央執行委員長「1000円という回答は賃上げの引き上げの流れを継続できて組合員の期待に答えうるものと評価している」

賃上げは十分?

しかし、10月には消費税率の引き上げがあり、この春には生活に身近な食品の値上げの動きも相次いでいるだけに、できるだけ給料が上がってほしいと多くの人が考えているはずです。果たして「十分な賃上げ」と言えるのでしょうか?。
日本総研の山田久主席研究員は、今回の結果について「消費税率の引き上げを考えると、1%程度のベアはほしかったところだ」と評します。月給30万円だとすると、3000円程度に相当しますが、そこに届いた企業は多くありません。

ベアの伸びが弱かった理由として「世界経済の先行きの不透明さ、企業が構造改革でメリハリのきいた賃金体系を構築しようとしていること、さらに“脱官製”の動きの中で政府の働きかけが例年より弱かったことの3つが考えられる」と指摘しています。
ここ数年、賃上げ率は小幅ながらも上昇傾向にあり、「3%」という数値目標が掲げられた去年は月額給与ベースでの賃上げ率は2%台半ば、ボーナスを含む年収ベースでは3%を達成できた可能性があります。ことしは残念ながら、“脱官製”の力強さを欠いたことは否めず、今回は賃上げ率のグラフが下向きになってしまいそうです。

“脱横並び”のねらいは?

ことしの春闘で、もう一つ焦点となっていたのが、“脱横並び”です。もともと、業界ごとに大手企業の労働組合が共同戦線をとることで、より大きな賃上げを勝ち取ろうというのが、今の春闘の方式となっている統一交渉のねらいでした。

しかし、今は「悪しき横並び」の弊害が指摘されています。日本経済が低成長になり、業界や企業ごとに業績のよしあしに大きな差が付くようになる中では、横を見ているからこそ突出した賃上げを避けたり、中堅・中小企業が相場をリードする企業や親会社などの妥結内容を見てそれ以下の水準で妥結してしまうという弊害です。その影響で、大企業と中小企業、正社員と非正規従業員の間の格差を広げる要因になっているとも言われています。
こうした構図を変えようと、今回の交渉では、トヨタ自動車が横並びの指標となっていた「ベア」を交渉の指標として使うことをやめ、「ベア+定期昇給+手当て」という賃上げ全体額を新たな指標としました。

これにマツダが続いたほか、来年以降は電機業界の労使が統一要求や回答の方法について見直しを検討するとしています。こうした手法が定着すれば、悪しき横並びから脱して「上げられる会社は思い切って上げやすくなる」効果が期待できるというわけです。
一方で、課題もあります。ベアを軸とした今の物差しでなくなると、結果を評価することが難しくなるという懸念です。過去には景気の悪化で、ベアがゼロやマイナス、定期昇給も見送られたケースがありました。いったん引き上げると、なかなか引き下げるのが困難なベアに比べて、手当てなどは社内の制度の一部なだけに比較的簡単に削減することもでき、経済情勢に左右されやすいという側面は否めません。

“脱ベア”を進めるのであれば、新たな物差しには外部からも評価できるよう、業界や会社の垣根をまたいだ一定の共通性を持たせることが必要になります。

春闘はオワコンか?!

春闘はオワコン=役割を終えたコンテンツと揶揄(やゆ)されることもあります。

労働組合に加入している人がかつての50%超から去年は過去最低の17%に低下。非正規労働者の割合が全体の4割近くに増えて、その分だけ春闘の影響力は小さくなってしまいました。

しかし、経済同友会の小林代表幹事が、日本の弱点とされる生産性向上へ、「低下傾向にある労働分配率の引き上げに取り組まなければならない」と指摘するように、賃金水準を上げることの重要性はむしろ高まっています。

それに、労使が賃上げにとどまらず、働き方も含めた幅広く議論を交わす枠組みがあるということは意義があるはずです。

ほんとうにオワコンになってしまわないよう、より大きな成果をあげられる形に変われるのか。春闘はバージョンアップの加速が求められています。
経済部記者
篠崎夏樹

平成11年入局 
山形局をへて
財務省や内閣府を担当