オフィスに“アート” 増えているワケ

オフィスに“アート” 増えているワケ
仕事をするデスクのすぐ横にアート作品。いまIT企業を中心にそんな会社が増えている。現代的な働き方の1つとして、アート作品を中心に据えたデザイン型のオフィス光景が広がっているのだ。なぜ、アートをオフィスに置く会社が増えているのだろうか?「オフィス×アート」の新たな関係性を探った。(経済部記者 野上大輔)

社員をクリエイティブに

シェアリングサービスの事業を展開するIT企業「ガイアックス」。

オフィスビル内ではほとんどの社員には固定席がなく、多くは交流スペースのシェアオフィスとして開放されている。外部の人も登録すれば自由に出入りができ、社員もそこに交じって働く。

そして、各フロアには現代美術のアート作品が壁にかけられている。イラストレーターによる作品など60点以上で、いずれも社員の友人の若手アーティストに依頼しているそうだ。
デザインを担当した社員のダビドバ・ナタリアさんは、オフィスの設計にあたってアメリカの西海岸に渡り、民泊大手のAirbnbや配車サービス大手のUber、それにGoogleなどのIT大手のオフィスを訪ねて、デザインの参考にしたという。

ナタリアさんがそこで目にした各社の共通点は、オフィス内にあるアート作品の数々。職場にアート作品がないと、企業の性格や個性が出ないとの印象を持ち、その考えを日本に持ち込んだ。

なぜ、ここまでオフィスのアートにこだわるのだろうか。
「1つはアートを置くことで人が集まる場所をつくりたかった。もう1つは、会社の事業としてクリエイティブな考え方をしないといけないので、殺風景な職場ではいいアイデアが出てこないと考えた」
作品は定期的に入れ替えられ、社員にはオフィスに行く感覚を持たないで来てもらうことを会社として重視している。

社員の1人、日比朝子さんは「ぱっと顔をあげたときに絵が目に映るのがいいし、遊びにきている気持ちになる」と話す。
「アートがちりばめられることで、どこから仕事場でどこからプライベートな空間かわからないようになっている。与えられたタスクをこなすだけの働き方は社員に求めていないので、個人が自分で物事を考えてブランドを磨いてほしい、そんな願いをこめている」(ナタリアさん)

社員のアイデンティティーに

スマホ向けゲームの開発やエンターテインメント施設の運営を行う「アカツキ」では、オフィスのいたるところにアート作品を置く。
なかでも社内の会議室には部屋ごとに違った絵が壁一面に描かれている。アートが描かれた会議室は全部で10部屋あり、そのほかにもオブジェを配置し、職場をカラフルに彩っている。
ことし、社員が集まる合宿では、社員がチームに分かれてペンキで絵を描く体験も行った。美術の専門家がいるわけではないが、アートへの意識は高い。

オフィスが移転した3年前に共同創業者の香田哲朗取締役が設計した。
「本物のアートやクリエイティブなものに日常的に触れて刺激を受け続けることで、われわれ自身が表現しやすい環境であることがとても重要だと考えている。置く作品も社長の趣味ではなく、会社のビジョンに合ったものを選んでいる」
アカツキでは、オフィスを人で例えるなら洋服のようなものと捉えて、アートを肌で感じてもらうことを仕事のモチベーションの向上につなげてもらおうとしている。

「どんなオフィスで働くかが、社員のアイデンティティーに影響する」として、アート以外にも図書室やフィットネスのスタジオなどもオフィス内に併設している。

定額制で貸し出すサービスも

オフィスのこうした需要に応えるサービスも出てきている。

「clubFm」では、作品の販売に加えて、月々4800円(税別)からアート作品をオフィスに貸し出す。
初期費用はかからず、協力するギャラリーから厳選されたアート作品が届くもので、気に入った作品は単品で購入することもできる。
大手電機メーカーや家具メーカーなど、現在20社ほどが利用している。
運営する「アートアンドリーズン」の佐々木真純代表は「まずはレンタルで壁にかけてもらい、アートを身近に感じるためのキッカケにしてほしい」と話す。

このサービスでは、会社としては作品の保管はせず、導入先の企業から注文が入ると、ギャラリーから作品を借りて企業に貸し出す仕組みをとり、2000点以上の作品からいつも新鮮な作品を飾ってもらうことに気を配っているという。

なかなか手が出しづらい芸術だが、レンタルなら気軽にできるという入門編のようなサービスで、どう配置したらいいかわからない企業に対しては、個社ごとの空間に合う作品を提案もしてくれる。
「企業がアートを取り入れると持続性は高い。アート作品が右脳にいい影響を与えてくれると期待して導入する企業さんも多い。ただ、その効果は簡単に数値化できるものでもない」(佐々木代表)
人事・採用などへの効果も期待して、作品を取り入れる企業も多いようだ。

時代の変容をうつす

アートを置く企業に共通していたねらいは、イノベーションの創出だ。

IT企業はアイデアやデザインがものを言う市場で競争を行う。このため、社員がアートに身近に接することが創造力を高めるきっかけになればと、各社は期待をこめる。

オフィスのアートと言えば、これまでは大企業の役員フロアや大きな会議室に絵画などが飾られているのを目にすることが多かった。しかし、今回の取材では、社員どうしの交流スペースや多くの人の目につく場にあったのが印象的だった。

かつては1つの会社に入って20年、30年働くのが当たり前だったが、これからは個人がキャリアを積む時代と言われる。アートがあふれる職場によって働き手の交流を促し、個人のアイデアを引き出す。「オフィス×アート」の新たな関係には、働き手の変化という時代背景も無縁ではないのかもしれない。
経済部
野上大輔

平成22年入局
横浜市出身
金沢局をへて
現在、経済部で情報通信業界を担当