キスでもハグでもセックスでも ~2人の間の性的同意~

キスでもハグでもセックスでも ~2人の間の性的同意~
♂「今日、しよっか」
♀「きょうはちょっと…今度いっぱいしよう。でも、誘ってくれてありがとう」

男女がそんな会話を交わす動画を大学生たちが制作しました。訴えたかったのは「性的同意」。“セックスはもちろんキスでもハグでも性的な行為の時は相手の気持ちをきちんと確認すること”です。

「でもさあ、毎回確認ってムードが壊れない?」ネット上に多くあがったそんな声にも応えようと作った動画でした。
(ネットワーク報道部 高橋大地)

“それ、ちゃんと『同意』したの”

制作の中心となったのは去年秋に京都の大学を卒業した高島菜芭さんです。取り組むきっかけは3年前、イギリスに留学した時でした。学生と話をしたり、性教育に関するNGOでインターンをしたりする中で、日本ではあまりない言葉をかけられたのです。
高島菜芭さん
「恋バナとかしている時、“それ、ちゃんと『同意』したの”とか“それって、無理やりされたんじゃない”とか言ってくれるんです」
「義務教育でも、健康的な関係を築くために、カップルであってもお互いが『同意』したうえでセックスしようねと教えていて、驚きました」(高島さん)

こうした『同意』は“セクシャル・コンセント”=“性的同意”と呼ばれていて、日本では、なじみのない言葉でした。

傷ついた人たち

帰国後、別の大学の学生たちと、「Genesis」という団体を立ち上げます。「起源」や「発端」という意味で「新しい性の常識を創る」という思いを込めました。
まず性的同意の大切さを知ってもらうためのハンドブックを作ろうと考え、大学生たちにセックスに関する経験について幅広くインタビューをしてみました。見えてきたのは、相手との気持ちのすれ違いに悩む姿でした。

「嫌だったのにセックスの誘いをうまく断れなかった。体が目的なのかもしれないと思い何年も恋愛ができなくなった」
「自分にはその相手しかいないから、性行為がいやでも断れない」

同意ができていない性行為で、傷つき悩んでいる若者たちが目の前に多くいました。

「最初は付き合っていない、カジュアルな関係の時のセックスでトラブルが起きていると思っていました」
「でも聞いてみると、その逆。むしろ付き合ったあとに傷ついている人たちが多かった。『付き合っていたらしても当たり前』、『キスをしたらセックスもOK』といった根拠のない思い込みが同意のない性行為を招いているように感じました」(高島さん)

チェックリスト炎上

性的同意のチェックリスト
切実な声を元に作ったハンドブックに、チェックリストを載せました。
□「二人きりでデートに行くことは、セックスを前提としている」
□「家に泊まるのは、セックスをしてもいいサイン」
□「同じ相手に、毎回セックスの同意をとる必要は無い」

全部で10の項目のうち、1つでもチェックが入ったら要注意。性的同意がとれていないとしたのです。
ハンドブック(京都市男女共同参画推進協会と作成)
ハンドブックは2万部を作成して配布し、インターネット上でも公開しました。しかし、これがネット上で思わぬ批判にさらされます。

毎回確認ってムードが壊れない?

「付き合っていても、毎回確認。ムードが壊れない?」
「倫理的には正しいのかもしれない。でも、ヒトも動物なんだよ」
「同意書を互いに読んでサインを書いてから、するってシュールすぎ」
ツイッターの反応のほとんどが、そうほとんどがチェックリストに批判的で若者たちからも厳しい意見がたくさん寄せられたのです。

「否定的な意見ばかりで正直凹みました。『これはしてはダメ』、『あれはしてはダメ』、ととられ、ちょっとプレッシャーに感じられてしまったのかもしれません」(高島さん)

動画、作ってみよう

リストに理解を示してくれる声もありましたが、“確認、確認、また確認では恋もうまくいかなくなる”。そんな声が目立つように感じました。そこで考えたのが動画の制作です。
「どうやったらムードを壊さず同意を取ることができるのか」、また「相手を傷つけず断るにはどうしたらいいのか」。ネットでの「炎上」を糧に、難しい問いに答えようとしたのです。

同意の話、断る話

「Genesis」のメンバーに加え、賛同してくれたカップル役の男女の学生、カメラマンなどあわせて7人が集まり京都市内でロケが行われました。
●カップルが、キスやセックス、それにコンドームをつけることについて、きちんと同意をとるという話。
●つきあって3か月になり、そろそろセックスしたいと伝える男性と、まだ少し不安だと断る女性の話。
●女性から誘ったけれど、疲れていて乗り気になれず断る男性の話。
脚本、出演、撮影や編集などすべてをメンバーと学生たちでやりました。意見を交わしながら「そういうシチュエーションある!」と納得してもらえるようなシーンを作ることにこだわりました。
制作した動画
“断られた時でも、相手から誘ってくれてありがとうって言われたらうれしくない?”そんな意見も出て、セリフを動画に入れてみることにしました。現在公開している動画は5本。今後、「こんな性的同意の取り方もある」といった意見をSNSで募集し、さらに動画を作って公開していきたいと考えています。

「性的同意を取ると、『ムードが壊れる』という意見が多かった。それなら『セクシーに性的同意をとる』をテーマにしようと考え動画を作りました。性的同意という考え方が少しずつでも根づいてくれればと思います」(高島さん)

それぞれの形

性的同意をめぐってはさまざまな意見があります。“同意の大切さはわかる。だけど毎回、毎回確認って、そこまでの必要はないんじゃない。大切に育ててきた恋愛も堅苦しいものになってしまう”そんな声が聞こえてくることが少なからずありました。確かに、確認のしかたは「セックスしよう」「うん、しよう」といった直接的なものではなくとも、それぞれの形があっていいと思います。
「直接言葉にするのが恥ずかしいので『お風呂に一緒に入ろう』というのが2人で決めた『きょうできるかな?』のサイン」といった声もありました。大切なのは「同意をとる」=「思いを同じにする」って何なのか、日ごろから話すことで、それがないために苦しんでいる人がいるのだと思います。

言えない気持ち

そして…「同意をきちんととってほしい」という声をたどると、「嫌われたくないために言い出せず、相手の行為に従ってしまう。それが苦しい」という叫びのような訴えが多くありました。相手に気付いてもらえず、自分でもなかなか言い出せず、苦しんでいるのです。
「いまは望んでいない」と伝えることが、両思いの間であってもなお、はばかられるような風潮が間違いなくあります。性的同意という言葉は、日本では登場したばかりで、これからどうとらえられていくのか、まだわかりません。だけど意思を伝えたいと思う時にそれがはばかられてしまう、そんな時代はどこかで終わりにしないといけない。「性への思いを“互いが”伝え合うのは当たり前」、そうなっていくことで互いに誤解がない、よりすてきな関係を築けるのではないかと思います。性について悲しむ人をなくすために、時代をいまにとどまらせず先に進める努力がまだまだ必要なんだ、そう、思っています。

性的同意について「あさイチ」で放送したところ多くのご意見をいただきました。取材を続けていきますのでご意見などあれば以下の投稿フォームからお寄せください。

https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/