喜びの火花をアメリカに あの“こんまり”大ブレークのワケ

喜びの火花をアメリカに あの“こんまり”大ブレークのワケ
アメリカで今、もっとも有名な日本人といえば、誰でしょう。片づけコンサルタント・近藤麻理恵さんの名前をあげるアメリカ人が多いと思います。

先月、ロサンゼルスのハリウッドで開かれたアカデミー賞の受賞式にもピンクのドレス姿で登場。アカデミー賞の事務局が「関係者の皆さん、レッドカーペットをきれいにしましょうね。マリエ・コンドウが到着しました」とツイートして彼女を出迎えました。拠点を日本からロサンゼルスに移し、ブームを巻き起こしている近藤さんに話を聞きました。(ロサンゼルス支局長 飯田香織)

もっとも有名な日本人

近藤麻理恵さん、通称こんまり。アメリカのテレビ番組や新聞の特集記事で連日見かけます。いや、見ない日はない、という方が正確かもしれません。

試しに彼女の写真を持って、ロサンゼルスの街行く人に「誰でしょう?」と聞くと、半分以上の人が名前を正確に答えました(発音はマリー・カンドーですが)。

取材で訪れたとある街で「きょうのラジオで近藤麻理恵が出ていたよね。最近“こんまり”している?」という会話が聞こえてきました。

また6歳の女の子が、近藤さんの名前と、合言葉の「ときめき(英語ではスパーク・ジョイ)」を知っていました。そのとき、「これはブームだ」と確信しました。
きっかけは、ことし配信された動画配信大手ネットフリックスの番組。近藤さんが子育て中の夫婦や、新婚の同性カップル、夫と死別した女性など、さまざまな家庭を訪問して、洋服や思い出の品物の片付けを手助けし、アメリカの人たちが人生を見つめ直すという内容です。

この番組を見て、こんまり流の片付けを実践する人が増えています。
「アメリカの方はモノが多く、それが管理しきれずいっぱいいっぱいになっている状況があります。モノを整理し、(身の回りを)クリアに、軽くしたいと思っている人が多かったのだと思います。ここまで、こんまりメソッドが広まるとはまったく予想していませんでした」

感謝して捨てる、に驚き

アメリカの人たちに広く受け入れられているのはなぜなのか。インディアナ州インディアナポリスのレーチェル・ヘガーさん(37)に話を聞きました。
12年前に購入した一軒家の地下室には、夫が昔、勝ち取ったサッカーのトロフィー、6歳の娘の思い出深い洋服などが山積み。モノがあふれる地下室は、アメリカでよく見る光景です。

ただ、自分のモノは、すでに整理したそうです。
「ときめき=スパーク・ジョイ(直訳すれば、喜びの火花が散る)」があるかどうか。1つ1つ手に取って確認し、残すか、手放すかを判断しました。
「処分するかどうか」ではなく「残すかどうか」に主眼を置く、近藤さん流の片付け術がおおいに役に立ったということです。

ヘガーさんは「モノに感謝して手放す」というこんまりメソッドの考え方を初めて知ったときは、衝撃的だったといいます。ただ、その考え方のおかげで、片づけが進んだそうです。
「すてきな思い出に感謝して処分することで、罪悪感が軽減される」

こんまりが語る ブレークのワケ

近藤さんはこう言います。
「モノに感謝して処分するということは日本ではすごくナチュラルに受け入れてくださる方が多かったですけれども、初めにこの概念を説明するとアメリカの方はとてもびっくりされますね」

「アメリカの場合、モノってモノでしょ?という感覚がすごく強いみたいなので、改めてモノと自分とのつながりを思い出していただいて、そのモノによって自分がどういうふうに幸せを得てきたか。どういう学びを得てきたかを改めて考えてもらうようにするんです」

「着ていなかったお洋服も『自分に似合わないことを教えてくれてありがとう』というふうに具体的な例を挙げてお伝えすると分かってくださいます。言葉を尽くして説明することがとても大事だと思っていて、そう考えることによってモノを手放す罪悪感を減らすことができますし、片付けがどんどんポジティブな意味を持ってくるので、根拠を説明すると分かってくださる方が多いです」
こんまりメソッドがアメリカで根付くと確信した瞬間は?
「その瞬間は1つではないですね。実際に片付けをし終えた瞬間とか、片付けとは単なる家をすっきりさせることではなくて自分のこれまでの人生を棚卸しすることなんだと気づく瞬間がどなたにもあります」

「どんな方でも自分が大切な決断、大きな決断をするときこそ、自分の身の回りや頭の中をすっきりさせたいと思うみたいで、物理的に片付けることで本当に自分にとって何が大切なのかという、判断する軸が見えてくるようになります。それによって本当の大切な大きな決断ができるようになるのは万国共通だと思います」

「今このタイミングで自分の身の回りをシンプルにしたいとか、本当に大切なものを大切にしたいと潜在的に思っていながらどうしたらよいのか分からない状態があったと思うんですけど、そこに、たまたま私が片付けの方法という手段をお伝えしたのです」

アメリカでも日本流、に疑問の声

近藤さんはアメリカで「ふわふわしたスカートをはいて空から舞い降りて、魔法で問題を解決するメアリー・ポピンズのようだ」といわれることがあります。

ただ、活動の流儀は、日本にいたときとほぼ同じ。正座をして家と対話し、プレゼンテーションは、原則、日本語です。
「日本でやっていたことと、まったく同じことをやるようにしているんです。それしかできないので。おうちにあいさつするのは、日本ぶろうと思っているわけではなく日本で片付けのコンサルタントとして活動している時も必ずやっていたことなんです」
ただ、英語を使わない近藤さんへの批判も出ました。

アメリカの著名な女性コラムニストが「私は近藤麻理恵が嫌い」とツイートしました。英語を話さない人がアメリカ人に受け入れられてブームになっているのはアメリカの衰退を示唆しているという主張でした。コラムニストはのちに謝罪しましたが、大きな議論になりました。
近藤さんに、こうした批判について聞いたところ、意外にも「おっしゃるとおりですね」と。
「ベストなのは、自分で思っていることをきちんと正確に英語で伝えられることだと思います。ただ英語では本当に私が伝えたい、深いところがまだ伝えることができなくて。本当に私が伝えたいことが相手に伝わることがとても大切なので、通訳と二人三脚で一緒に片付けのレッスンをしていくというスタンスで試してみたんです」

「頭で考えたのではなく、とにかく目の前にある状況の中から自分がベストな状態でできる道を選んでいって今の状態がたまたまあるんです」

本は30冊まで、が論争に

また、近藤さんが「所有する本の数を30冊に制限している」という受け止めがアメリカ人の間に広がって、論争になりました。

「本には特別な価値がある。捨てるなんて考えられない」「日本の家が狭いからではないか」という批判が出たのです。
近藤さんは「誤解であり、絶対に『30冊までしか持ってはいけない』とは言っていません」と反論。「片付けをして今持っている本が30冊」と語ったことに尾ひれがついたのではないか、と説明しています。
「本について皆さんが議論してくださったのは結果としては悪くなかったと思っています。片付けについて、考えをぶつけることによって、自分はやはり本が好きだとか、価値観を知ることができたのではないでしょうか」

米に活動の拠点を移して

こんまりブームについて、近藤さん自身は、こつこつやっていたら「本当はシンプルに生きたい」と思っているアメリカ人のツボにはまったと分析しています。

近藤さんは今や「アメリカで働く、日本を代表する女性」です。批判が話題になるくらいアメリカに浸透し、社会現象になっているのを見ると、頼もしいな、と思います。
ロサンゼルス支局長
飯田香織