波紋を呼ぶライドシェア

波紋を呼ぶライドシェア
自家用車を使った有料の送迎サービス、“ライドシェア”。
「タクシーよりも安い、つかまえやすい」「空き時間の副業になる」などと、アメリカや中国では広く受け入れられ、日常の移動手段になっています。
日本では“白タク”として禁止されていますが、自家用車をつかった新たなサービスも始まっています。国内の現状を取材しました。(経済部記者 木下健 早川俊太郎)

日本でライドシェア?

「国内でもライドシェアのようなサービスがある」

そんな情報を聞き、都内の路上で、あるアプリをタップしてみました。まず、名前やクレジットカードの情報を登録。その後、アプリ上で乗車場所、目的地を設定すると近くにいる車をマッチングし、迎えの車がきてくれました。

初めての体験で少しどきどきしながら乗り込むと、ドライバーの男性がにこやかに迎え入れてくれました。目的地は伝わっているので、車はすぐに出発。10分ほどで目的地に着きました。
ここまでは海外で普及している”ライドシェア”とほぼ同じ手順ですが、「クルー」と呼ばれるこのサービスで最後に登場するのは、ドライバーに支払う”謝礼”を決める画面です。
金額は任意で、ゼロ円でもよいとされています。
私は通常のタクシー料金の6割程度を”謝礼”として支払いました。
国土交通省に確認すると「自家用車を使って有料で送迎したとしても、支払いが『好意に対する任意の謝礼』である場合は、許可や登録は必要ない」としていて、白タクにあたらず「違法ではない」というスタンスです。

運営会社によりますと、2015年に始まったこのサービスは都内の都心部で利用でき、アプリの登録者は非公表ながら右肩上がりに伸びているということです。

保険はドライバーと運営会社の双方が加入。サービスの利用には、手数料などの支払いは必要です。謝礼はゼロ円でも、ドライバーには運営会社から燃料代が支払われるということです。

運営会社は「謝礼は任意であり、ドライバーも認識しています。これまでのところ、謝礼をめぐるトラブルは起きていません」と話しています。

海外では普及

ライドシェアは海外では日常の移動手段として定着しています。

先駆けとなったのが、アメリカの「ウーバー」です。
2010年にサービスを開始し、現在はアメリカを中心に64か国でサービスを展開しています。
さらに中国やブラジルなど5か国で展開する中国の「滴滴(ディディ)」、東南アジアの8か国で展開するシンガポールの「グラブ」など、大手の配車サービスが地域ごとにサービスを展開していて、いずれも急成長を遂げています。

国内の調査会社は、去年7兆円だったライドシェアの世界市場は、2025年には21兆円以上に拡大するとしています。
このため、「ウーバー」などに出資するソフトバンクグループの孫正義社長、IT企業などでつくる経済団体『新経済連盟』は、自家用車によるライドシェアを国内でも解禁するよう求めています。

また、クルー以外にも、コンサートなどのイベント会場までや長距離ドライブで相乗りする相手の仲介など、白タクにはあたらない、自家用車を使った新たなサービスが国内でも次々と生まれています。利用者はドライバーとガソリン代などを割り勘する形式です。

政府は慎重姿勢

こうした状況にタクシー業界は、警戒感を強めています。ことし3月、東京・霞が関におよそ400台のタクシーが集結し、ライドシェアに反対するデモを行いました。

「国がライドシェアを解禁すれば、自分たちが仕事を失いかねない」

ドライバーからは切実な叫びが聞かれました。
所管する国土交通省も、ライドシェア解禁について極めて慎重な検討が必要というスタンスです。
理由は「安全の確保」です。

ライドシェアのドライバーは一般の人です。
多くの場合、バスやタクシーのように、営業運転を認めた2種免許を取得している訳ではありません。さらに運行管理や車両整備について第三者が日常的にチェックする機能がなく、事故を防ぐ仕組みも十分ではないというのです。

このため、国土交通省は自家用車を利用した相乗りなどのサービスを利用する際は、保険など事故の際の対応を確認するよう呼びかけています。
ただ、交通の便が年々悪化している山間部や過疎の地域では、市町村やNPO法人が自家用車で行う有料の送迎サービスや、タクシー会社などによる相乗りでの営業を認めています。
この2つは国の許可や登録が必要です。

さらに相乗りタクシーについては全国で解禁する検討を始めています。

国土交通省の幹部は「まずは、バスやタクシー会社が、交通不便な地域や自治体と向き合い、解決していくべきだ」と語りました。

ライドシェアの今後は

国内では7800万台もの車が保有されていますが、そのすべてを活用し切れているとはいえません。
こうした「眠れる資産」をライドシェアでうまく活用すれば、交通不便な地域の解決策につながる可能性があります。

一方、先行する海外では、アメリカのニューヨーク市で、ライドシェアが深刻な交通渋滞の原因になっているとして、新たな規制が導入されるなど、議論していくべき課題も多く残されています。

利便性の一方、課題も指摘されているライドシェア。
国内でも議論を拒絶するのではなく、多くの人に必要とされるサービスになるのかを考えていくべきではないでしょうか。
経済部記者
木下健
平成22年入局 さいたま局、
山口局岩国報道室をへて
現在、国土交通省を担当
経済部記者
早川俊太郎
平成22年入局
横浜局、岐阜局、名古屋局をへて
現在、自動車業界を担当