失速ヨーロッパ 理由はあの経済大国

失速ヨーロッパ 理由はあの経済大国
リーマンショックやユーロ危機を乗り越えて、順調に経済成長を続けてきたヨーロッパ。その経済の先行きに今、黄信号がともっています。大きな理由が、日本に次ぐ世界4位、あの経済大国の失速です。(ロンドン支局記者 栗原輝之)

中央銀行が漏らした“弱音”

「このところの経済統計はかんばしくない。ユーロ圏の景気は予想以上に弱い」

ヨーロッパ中央銀行のドラギ総裁は、7日の記者会見でこう漏らしました。

ユーロ圏は、EU加盟国のうち、単一通貨ユーロを使うドイツ、フランス、イタリアといった19の国で作られています。

日本における日銀のように、この地域の金融政策を担うのがヨーロッパ中央銀行です。

そのトップがこの日、これまでの方針を見直し、年内の利上げは断念すると発表。景気回復を確認したとして始めたばかりの金融正常化の道は、足踏みとなったのです。

失速するあの経済大国

ユーロ圏の経済に何が起きているのでしょうか。

GDP=域内総生産の伸び率は去年、1.8%となり、前年の2.4%から大きく縮小しました。

大きな要因になったのが、ユーロ圏で最大の経済大国ドイツの失速です。去年の後半、ドイツのGDPの伸び率は7-9月期がー0.2%、10-12月期は0%と低迷しました。2期連続でマイナス成長となると、景気後退局面に入ったとされます。

財政問題に揺れるイタリアは同じ時期にこの状態になりましたが、ドイツも景気後退ぎりぎりの状況となったのです。

ユーロ圏ではこれまで、域内最大の経済大国ドイツがほかの国々を力強く引っ張ってきました。盟主ドイツが失速した影響は非常に大きいのです。

打撃を受けた基幹産業

なぜドイツの成長にブレーキがかかっているのでしょうか。

ドイツは日本と同様に自動車が国の基幹産業です。その自動車業界では、去年9月からEUで新車に新たな燃費試験が必要になり、この対応の遅れから生産が落ち込みました。
これに加えて、アメリカと中国の貿易摩擦や中国経済の減速で、輸出が伸び悩んだことが打撃になりました。

さらに、アメリカがEUから輸入する自動車に関税上乗せを検討する構えを示していることや、イギリスのEUからの“合意なき離脱”への警戒感も根強く、先行きに慎重な見方が強まっているのです。

景気に敏感なメーカーはどうみている?

ヨーロッパ中央銀行の発表を前にした今月5日と6日、私はスイス・ジュネーブで開かれているモーターショーを取材しました。

会場で自動車メーカーの経営者に話を聞くと、不安はドイツ以外にも広がっていることがわかりました。
フランス・シトロエンのリンダ・ジャクソンCEO=最高経営責任者は、イギリスのEU離脱に伴う不透明感が重しになっていると明かしました。
「イギリスは私たちにとって5番目に大きい、非常に重要な市場。離脱後の関税がどうなるのか、自動車をスムーズに輸送できるのかが問題だ」

トヨタのヨーロッパ現地法人のマシュー・ハリソン上級副社長は、自社の販売は好調としながらも、ヨーロッパ市場全体では下向きのリスクがあると説明しました。
「市場は弱くなり始めている。主な市場の中で厳しいのは、フランス、ドイツ、イタリアだ」

金融政策のかじ取りはさらに難しく

先行きが不透明な状況を受けて、ヨーロッパ中央銀行は、ことしのユーロ圏の成長率の予測をこれまでの1.7%から1.1%にまで、大幅に下方修正しました。

年内の利上げを断念すると発表したドラギ総裁は、ことし10月で8年間の任期を終えます。後任には今のところ、フィンランドの前中央銀行総裁やフランスの中央銀行総裁らが有力と見られていますが、欧州経済の減速が強まる中、あくまで異例のゼロ金利政策などからの正常化を目指すのか、それとも再び緩和姿勢を強めるのか、難しい判断を迫られることになります。

「不透明感」に支配されるヨーロッパ経済

米中貿易摩擦とそのあおりを受ける新興国の減速、自動車関税やEU離脱の行方。ヨーロッパ各地で経済を取材していると、この地域が「不透明感」に大きく支配されていると感じます。

今月29日にはイギリスのEU離脱が予定され、どんな形であれイギリスが抜ければ、拡大を続けてきたEUという共同体は全く新しい段階に入ります。

さらに5月のヨーロッパ議会選挙は、統合支持の勢力が多数を維持するか、EUに懐疑的な勢力が躍進するか、EUの将来を左右する節目になります。

ドイツを筆頭に世界経済の主要な一角を占めるヨーロッパは、黄信号を乗り越えることができるのか、重要な時期にさしかかっています。
ロンドン支局記者
栗原 輝之

平成11年入局
経済部、名古屋局、
国際部を経て
おととしからロンドン駐在