肥満対策に“太りにくい”希少糖を

肥満対策に“太りにくい”希少糖を
ついつい取り過ぎてしまう“糖質”。取り過ぎは、肥満や糖尿病の原因になる。「甘いものが好きだけど、太りたくはない」そんな甘党のあなたの悩みを解決してくれるかもしれない、“太りにくい”とされる希少糖をご存じだろうか。(高松放送局記者 池田昌平)

香川発の希少糖

3月5日、千葉市の幕張メッセで開かれていた「FOODEX JAPAN」。

世界の食料品などを集めたアジア最大級の見本市に設けられた香川県のブースで、ひときわ目を引いたのが「希少糖」。香川発の食品素材として産学官をあげて開発を進めてきた、太りにくいとされる糖だ。シロップやお菓子、うどんのだしなど、希少糖入りの商品およそ60種類が紹介されていた。
希少糖は、文字通り、自然界に少ししか存在しない糖のこと。自然界に大量に存在する糖はブドウ糖や果糖など7種類だけで、残りはすべて希少糖。現在、およそ50種類が知られている。

中でも、希少糖の一種「Dープシコース」は、甘さがありながらカロリーがなく、血糖値の上昇を抑える効果もあるとされている。また、肥満は、炭水化物が体内で分解されてできるブドウ糖の取りすぎが原因とされているが、プシコースには、ブドウ糖の吸収を抑える作用もあることから、太りにくいという。

“太りにくい糖”大量生産スタート

このプシコースの生産方法を香川大学と共同で確立し、“太りにくい糖”として世界に売り込もうと挑んでいるのが、兵庫県の食品素材メーカー、松谷化学工業だ。
ことし1月、アメリカの世界有数の食品素材メーカー「イングレディオン」と共同で、メキシコに工場を建設することを発表。ことし秋にも、世界初となる、純度100%のプシコースの大量生産を始め、2020年から砂糖の代替品として販売する計画だ。最初に売り出す市場には、肥満が深刻な社会問題となっているアメリカを選び、飲料や食品のメーカー向けに販売する。
松谷化学工業 渡辺力太郎希少糖事業本部長
「アメリカは肥満が問題視されていて、砂糖に代わるよい甘味料がないか非常に関心が高い。大きな市場があるので最初のターゲットとした。肥満をできるだけ無くすことに貢献していきたい」

30年越しの挑戦

香川大学農学部 何森健名誉教授
プシコースのアメリカでの販売を、特別な思いで見つめている人がいる。香川大学農学部の何森健名誉教授(75)だ。

このプロジェクトの実現の陰には30年近い長い年月にわたる挑戦の歴史があった。何森さんは、1991年に果糖をプシコースに変える酵素を発見して、プシコース生産の突破口を開いた希少糖研究の第一人者だ。「希少糖」という言葉を定義し、“ミスター希少糖”とも呼ばれている。

大発見のきっかけは、大学の食堂の裏で採集した土壌から、果糖をプシコースに変える酵素を生成する微生物を見つけたことだった。
「糖の研究は見向きもされず、いつ研究をやめようかと思っていた中でたまたま微生物を見つけた。当時は価値が分からないまま研究を進めていたので、世界中に希少糖が広がるとは夢にも思わなかった」(何森名誉教授)
この発見をきっかけに、プシコースの生産方法の研究が一気に進み、2000年に大量生産の方法を確立。そこから香川大学と松谷化学工業、それに香川県の産学官が連携して実用化に向けた研究を進め、11年には希少糖が約15%入ったシロップの商品化にこぎつけた。

純度100%の希少糖を

しかし、飲料メーカーなどに売り込むには「ノンカロリー」であることが求められる。そのためには、純度100%の希少糖をつくらなければならないのだが、それは簡単なことではなかった。

食品素材として純度100%の希少糖を販売するには、各国で、安全性の確認のほか、血糖値の上昇を抑えるといった機能性の認可を得る必要があり、それに時間がかかるのだ。
それが6年前、まずFDA=アメリカ食品医薬品局が安全性と機能性について認可したことを受けて、ようやく純度100%の希少糖を商品として売り出すことができた。
香川大学農学部 何森健名誉教授
「純度100%の希少糖が世の中に出て本当の意味で私の研究は実を結んだと言える。大量生産されたプシコースがアメリカで売れていくことでさらに研究が進むことを期待したい」

世界に受け入れられるか

プシコースは、普通の糖より生産コストがかかるため、価格が砂糖の数倍にもなる。価格を抑えるには、メキシコの工場での大量生産でどこまでコストが下げられるかがカギを握る。

松谷化学工業では日本でも6年前、消費者庁に対し、純度100%のプシコースを特定保健用食品として認可してもらえるよう申請しており、日本での販売も目指す。

20世紀にはヒトゲノムの解明など遺伝子やタンパク質の研究が進んだ一方、糖の研究はあまり進まなかった。希少糖が大量生産によって広く知られるようになれば、研究がさらに進み、医療分野などでの応用も期待される。

私が生まれたのは1991年、果糖をプシコースに変える酵素が発見された年だ。同い年の希少糖が、アメリカを皮切りに世界の糖市場でどう受け入れられるのか、関心をもって見つめていきたい。
高松放送局記者
池田 昌平

平成27年入局
警察・行政を担当した後
現在は経済などを取材