夫婦間でもレイプ・ドラッグ 手料理に睡眠薬が

夫婦間でもレイプ・ドラッグ 手料理に睡眠薬が
「レイプ・ドラッグ」。普通の睡眠薬が、性的暴行を加える目的で飲み物や食べ物に混ぜて使われるとき、こう呼ばれます。私たちは、レイプ・ドラッグの事件を取材して伝えた去年12月以降、さらに実態に迫るため、同じような被害にあった方々にお話を聞かせてほしいと呼びかけてきました。今回、1人の女性が私たちに語ってくれたのは、夫の手料理に睡眠薬が混ぜられていたという壮絶な体験でした。(京都放送局 記者・小山志央理/ディレクター・岩根佳奈子)

「私もレイプ・ドラッグの被害者です」

その女性・大阪府に住む真由美さん(50代)から投稿があったのは、最初の記事を掲載してから3日後のことでした。
「はじめまして。12月13日の記事を拝見し、投稿させていただきました。私自身は夫からの性暴力(レイプ・ドラッグ)を受けていました。レイプ・ドラッグは家庭内でも起こっています。女性の人格や尊厳を侵害する卑劣な行為です」
知らぬ間に夫が食べ物や飲み物に睡眠薬を混ぜていたこと。眠っている間に性的な行為をされ、裸の写真まで撮られていたこと。真由美さんが書き込んだ文章の断片だけからも、本人が受けた衝撃の強さが伝わってきました。

夫婦の間でレイプ・ドラッグ。なぜそんなことが起きたのでしょうか。以下は、私たちが真由美さんの自宅のリビングで伺った話です。その内容は、後に裁判でも認定されています。

青いハンバーグ 何か入ってる?

6年前、2013年の5月のことでした。午後7時ごろ、仕事を終えて真由美さんが自宅マンションに帰宅すると、皿の上に、少し不ぞろいなハンバーグが並んでいました。その日は休みだった夫が、自分で買い物に行って作ってくれたものです。夫はテレビを見ていました。一緒に食卓についた小学生の娘は、普通に食べていました。真由美さんも同じようにハンバーグを口に入れると、その途端、強烈な苦みを感じました。すぐに吐き出しましたが、舌にはピリピリとしたしびれが残ったといいます。

外はこんがりと焼けていてわかりませんでしたが、割ってみると肉やタマネギがうっすらと青く変色していました。夫は「肉かタマネギが腐っていたのかな」と言います。食材を買ったというスーパーに電話しようと思いましたが、すでに閉店時間をすぎていました。ただ真由美さんはこのとき、「何かを入れられた」と確信していました。

その直後、真由美さんが長女に送ったSNSのメッセージです。
「お父さんが作ったハンバーグ、ママのだけ薬物混入されてるんちゃうかと」「めっちゃ苦いねん」「家の中に2人でおるんは嫌や。怖いし」
翌日、保健所に連絡しましたが「事件性があるものは鑑定できない」と言われました。何が起きたのか、早く知りたい。大阪府警に相談すると、科学捜査研究所で鑑定してくれることになりました。ハンバーグから検出されたのは、2種類の睡眠薬でした。

苦いギョーザ、みそ汁もー 子どもの将来を考えながら

夫のジャケットのポケットやバッグの中から、睡眠薬が見つかりました。のちに、夫が病院で処方されたものだと分かりました。

夫が私に睡眠薬を飲ませようとしたー真由美さんは、言いようのない不安にかられましたが、実は以前も、おかしいと感じたことが何度かあったといいます。

“青いハンバーグ事件”の1年前から、夫が作ってくれたみそ汁やギョーザが、苦く感じられたことがありました。「仕事で疲れているのかな」と深く考えず、食べ残しました。また同じころ、夫がコップについで渡してくれた梅酒を口にすると、しばらくして激しいどうきを感じ、いつのまにか眠りに落ちていることもありました。

夜中にシャッター音やフラッシュの光で目が覚めたり、朝起きたら下着が裏返しになっていることもありました。しかし記憶があいまいで、「変な夢でも見ていたのかな」と考えていました。何かおかしいとは感じていましたが、まさか夫に睡眠薬を入れられているとは、思いもよりませんでした。

しかし「事件」のあと、夫の机の引き出しから信じられないものが見つかりました。1枚のDVDです。入っていたのはおよそ50枚の写真ー 裸にされた姿、下半身、性的な行為をされている様子ー すべて真由美さんでした。寝ている間に撮られていたのです。画像データを見ると、その4年前から何度も何度も撮影されていたことになります。睡眠薬を入れられていた意味が、わかりました。

体重は減り、夜は眠れなくなりました。病院で「重度ストレス反応」と診断を受けました。何が起きたのか、気持ちの整理がつきませんでした。刑事告訴して逮捕されるような事態になれば、最も犠牲になるのは、まだ小さな娘ではないか。夫もさすがに過ちを認めて向き合ってくれるのではないか。話し合いの末、夫はカウンセリングを受けることにも同意しましたが、「性的に異常なところはなかった」と、1回でやめてしまいました。真由美さんは我慢せざるをえませんでした。

刑事告訴、そして離婚

「私が言わなかったら、事実がなかったことにされる」ー 真由美さんは事件から3年後、公訴の時効を控えた2016年5月に、夫を準強制わいせつ未遂で刑事告訴しました。離婚を心に決めたうえでの、決断でした。

翌年3月、検察から起訴猶予になったという通知が届きました。理由はわかりませんでした。しかし、離婚をめぐる訴訟の中で、夫の行為が明らかになっていきます。

ハンバーグをはじめ、真由美さんが口にする食べ物や飲み物に、睡眠薬を砕いて混ぜたことがあったと認めました。動機について夫は、夫婦関係がうまくいっていないと感じていた中で、「困らせてやろうという安易な考え」や「子どもを叱る声がうるさいので早く寝てほしいという思い」からだったと説明しました。手法はインターネットで調べ、撮影した真由美さんの写真を拡散させることも考えたとも話しました。

ただ、真由美さんは、夫が誠実に答えているとは感じられなかったと言います。睡眠薬を入れた回数や処方を受けた医療機関については「覚えていない」と繰り返し、性的な目的があったかについても、あいまいな答えに終始していたからです。
同じ年の判決の中で、大阪家庭裁判所は、夫が複数回にわたって飲食物に睡眠薬を混入して真由美さんに意識障害を生じさせ、性的暴力や写真撮影などに及んだことを事実だと認めました。そして夫が行った行為は悪質であり、真由美さんの被った精神的苦痛は相当に大きいものと認められるとして、夫に慰謝料など330万円の支払いを命じています。

離婚は成立し、今はいちばん下の娘と2人で暮らしています。真由美さんの元夫の男性に、弁護士を通じて取材を申し込みましたが、「取材はお受けできません」ということでした。

夫婦間でも被害があることを知ってほしい

「こわいから中身は読んでいないんです」ー 真由美さんは、当時の裁判の資料を読むことができないと言います。思い返したくもないつらい経験を話してくれたのは、夫婦間でもレイプ・ドラッグを使った性暴力の被害があることを社会に広く知ってほしいという、強い思いからでした。

詳しい内容や、そのときの気持ちを細かく尋ねる私たちに、少し考えるそぶりをみせながら、丁寧に答えてくれました。「泣き寝入りしてしまう人も多いと思いますが、自分の話せることならすべて話します」と、しっかりと私たちの目を見据えて答えてくれました。

どこまで踏み込んでいいのか。ためらいながら取材を始めた私たちでしたが、真摯(しんし)に向き合ってくれる姿を見て、彼女の思いを正面から受け止めたいと思いました。

被害女性たち SNSで支え合う

被害が発覚したあと、真由美さんは、その経験をツイッターやブログにつづり始めました。みずからの非をなかなか認めようとしない夫を見て、逆に自分の感覚がおかしいのではと感じ、多くの人の意見を聞いて確かめたいと考えたからです。「あなたはおかしくないよ」ということばに励まされ、精神的に楽になったと言います。

真由美さんのツイッターは、今では、女性たちが悩みを打ち明ける場になっています。家庭内暴力に悩む人たち、見知らぬ人から性暴力を受けた人たち。今、真由美さんが書き込んでいるのは、彼女たちを支えることばです。
「夜になると不安が襲ってきて、涙が出ますよね。夜泣きもされるとつらいと思います。周囲にSOSを出してくださいね」

「被害直後なら尿は採っておいた方がいいかも。私は1日たってたし、思いつかなかったので採れませんでしたが。相談窓口もあります」
夫婦間で起きる性暴力について、真由美さんは、「同意がなくても夫婦だから何をしてもいい」とか、「妻にするなら犯罪ではない」という考えがあると感じています。殴る蹴るなど、身体に危害を与えることだけがDVではなく、合意のない性的な行為を強制させられることもDVの1つだと訴えます。

夫婦だからこそ見えづらい

一般的に、夫婦間で起きる性暴力はオープンに話しにくいことに加え、「夫婦なのだから性行為に応じるのは当たり前だ」という意識があるーDVやセクハラなど女性への暴力の相談に応じる公益財団法人京都市男女共同参画推進協会の今井まゆりさんは、そう話します。

相談者とやり取りを重ねていく中で、あとになって性暴力も合わせて受けていたことが分かるケースは決して少なくないとのことでした。

内閣府の調査(2017年)では、結婚経験のある20歳以上の女性1300人余りのうち、およそ1割の女性が、配偶者から性的強要の被害を受けたことがあると回答しています。

いちばん安心できる場であるはずの家庭の中で、信頼している家族に睡眠薬を飲まされていた。被害は、私たちが想像している以上に広がっているのではないかと感じました。こうした声をひとつひとつ拾っていこうと、改めて胸に刻みつけています。私たちはこれからも取材を続けます。同じような被害の情報や、被害を掘り起こすための取り組み、被害に遭った人たちを支える取り組みなど、幅広く情報提供をお待ちしています。当事者のプライバシーは厳守します。アドレスは次のとおりです。

https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/

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