ごはん給食にいま何が…

ごはん給食にいま何が…
みなさん、「給食に異物が入っていた」というニュースをよく聞きませんか?「またか」「どうして、なくならないの?」と感じている人も多いのではないでしょうか。実は、私もその1人でした。山形県でも、去年から給食のごはんに、相次いで金属片が混入していたんです。ところが、給食を作っている業者を取材すると、思いがけない事情が見えてきました。(山形放送局記者 風間郁乃)

異物混入が止まらない

混入した金属片
去年5月、山形県寒河江市の小学校で、業者から届いた給食用のごはんを入れた容器から、直径2ミリほどの金属片が見つかりました。子どもたちに出す前に、調理師が気づいたため、学校では、ごはんをすべて廃棄して、急きょ、パンに切り替えました。
小学校の校長
「びっくりしたのが一番です。子どもたちが食べる前に見つかってよかった。せっかく作ってもらったごはんを廃棄するのは抵抗もありましたが、子どもたちの安全・安心が一番ですから」
しかし、その後、周辺の市や町でも、給食のごはんに金属片が混入しているのが相次いで見つかりました。その数は、8か月間で合わせて5件に上りました。

保護者からは不安の声が上がり、NHK山形放送局にも「どうにかしてほしい」という声が寄せられました。

原因は?

どうして、混入があとを絶たないのか?
そもそも、この金属片はいったい何なのか?
私は、ごはんの調理を業者に委託している「県学校給食会」を訪ねました。すると…
「こちらが、原因になった釜です」
担当者が見せてくれた炊飯工場で使われている大型の「炊飯釜」。金属片は、この釜から、はがれ落ちたというのです。

炊飯工場では、まず炊飯釜にコメを入れたあと、釜を大型の「炊飯器」にセットして炊きあげます。
このあと、釜を炊飯器から取り出して、工場内の別の場所までコンベヤーで移動させます。この時、釜が、周辺の設備にぶつかったりして、表面がわずかに削れてしまいます。

釜の中のごはんは、学校別の容器に移すため、「反転機」と呼ばれる装置で、台の上にひっくり返されます。この際、金属片が、一緒に落下してしまったのではないかということでした。
さらに、この炊飯釜。30年以上も使用されていました。劣化が進んで、表面がはがれやすくなっていたんです。私は思わず、担当者に「なぜ新しい釜に取り替えないんですか?」と聞きました。

すると、担当者は「そうできれば一番いいのですが…」と言って、ことばに詰まりました。そうしたくても簡単にはできない“事情”があったんです。

“やめることさえ考えた”

その“事情”を説明してくれたのは、山形市内のある炊飯工場でした。社長の佐藤矩昭さんは、多くの人に現状を知ってもらいたいと、取材に応じてくれました。
佐藤社長が、この仕事を始めたのは、およそ40年前です。当時、給食はパンが主流でしたが、当時の食糧庁が、コメの消費を拡大しようと、全国のパン工場に補助金を出して、炊飯設備を導入するよう促しました。

しかし、その後、設備を更新するための補助金は出なかったそうです。農林水産省や文部科学省に確認すると、市町村が所有する給食施設には、一部、補助が出る場合もあるそうですが、民間業者への補助は確かになくなっていました。
炊飯釜
佐藤社長は、炊飯釜を10年ごとに新しくしたいと考えていましたが、その費用は1台で10万円。工場にある30個の釜をすべて買い替えるとなると300万円が必要です。

少子化で売上が減少する中で、従業員に支払う人件費や保険料などは年々、増加しました。そのため、炊飯釜を買い替える費用が工面できなかったと言います。
佐藤矩昭社長
「経営が苦しくて何度もやめようと考えました。体力も金もどんどんなくなっていくわけですから…。でも『自分がやめたら子どもたちに給食が届かなくなる』ということが常に頭の片隅にあったので、簡単にはやめられませんでした」
山形県内の炊飯工場の多くは、家族経営の零細企業です。売上の減少に、後継者不足が追い打ちをかけて、以前は50あった炊飯工場は3分の1にまで減少しています。

厳しさ増す「食の安全」

「食の安全」に対する見方が年々厳しくなる中、炊飯工場は、今、どのようにして食の安全を守ろうとしているのでしょうか?
佐藤社長の工場では、帽子やマスクをした従業員たちが、炊きあがったばかりの熱々のごはんを取り扱っていました。工場内のあちこちに、氷の入った麦茶が置かれています。

従業員たちは、一度に10キロものごはんを、しゃもじを使って手際よくかき分けていました。このとき、異物が混入していないかを確認しますが、時間をかけることはできません。
「子どもたちには温かいごはんを食べてもらいたいですし、決まった時間までに学校に届けないといけないですからね。精米の段階で入り込んだ小さな石ころまで見つけてくれる従業員には頭が下がります」(佐藤社長)
私たちが取材に行った時も、精米の過程で出た1粒の米ぬかを従業員が見つけていました。正直、私には、米粒とほとんど見分けがつきませんでしたが、それでも「気にする人がいるから」と取り除いていました。しかし、目視だけでは、混入した金属片をすべて見つけるのは難しいと言います。
「これまでに見つかった金属片の大きさは数ミリ程度。米粒の間に入り込んでしまえば、見つけるのは正直難しいです。努力はしているつもりなんですが…」(佐藤社長)
工場では、炊飯釜の表面から金属片がはがれ落ちないよう、新たな対策も取り入れました。専門の業者に釜を磨いてもらったり、釜を移動させる途中、周辺の設備に激しくぶつからないよう、ホースを2重に巻き付けたりしたのです。しかし、しだいにホースに穴が開いてしまい、抜本的な解決にはなっていません。

解決策は“共同工場”?!

山形県学校給食会によると、最近、ほかの工場では、「異物を絶対に見つけなくては」というプレッシャーに耐えかねて、生産ラインから外してほしいと訴える従業員も出てきているそうです。

担当者は「ただでさえ人手不足なのに…。このままでは給食のごはんを作る業者がいなくなってしまう」と頭を抱えていました。

こうした状況をふまえて佐藤社長は、同じ地域を担当するほかの工場の経営者たちと“共同工場”を建てるしかないと考えています。作業が効率化されて、利益も上がるためです。

隣の宮城県には、実際に“共同工場”があります。担当者に聞くと「ごはんを学校にまとめて配送できるので、人件費や運送料も削減できています」と話していました。

問題は、建設費用です。見積もりを取ると、最低でも5億円かかることが分かりました。佐藤社長は、これまで、共同工場の建設について、山形市などに何度も相談してきました。しかし、具体的な進展はなかったそうです。
こうした中で相次いだ金属片の混入。県内の炊飯工場で作る組合と山形県学校給食会は、共同工場の建設への助成を求める要望書を県や山形市に提出しました。

これに対し、山形市は「近隣の自治体も共有する広域的な問題なので、今後、県や関係自治体と一緒に支援のあり方を検討したい」と回答しています。

施設の老朽化 全国でも

炊飯工場の老朽化は、決して山形県だけの問題ではありません。

「全国学校給食会連合会」の國府島勇三事務局長は、「ほかの地域からも『炊飯工場が老朽化しているので、国などから助成を受けられないか』と相談が寄せられている」と明かしました。そのうえで「ごはんだけでなく、給食用のパンや麺を作る工場も同じように厳しい状況だが、国からの助成はない。対策がなかなか見つからない」と話していました。

「異物の混入を防ぐのは、業者の責任」と言ってしまうのは簡単です。しかし、ごはん給食は、およそ40年も前に国策として導入され、今では、全国で定着しています。それを続けていくための負担と責任は、本当に業者だけが負うべきなのでしょうか?

子どもたちの健康と食の安全を守るためにも、国や自治体は、これ以上、問題を先延ばしにすべきではないと思います。