“情報商材”ビジネス その巧みな手口は

“情報商材”ビジネス その巧みな手口は
「この方法を知れば、誰でも簡単に儲かります」
インターネットやSNSで、こうした甘い文句で誘いかけるネット広告や動画を目にしたことはないだろうか。いま、こうした広告や動画を信じてしまい、高額な受講料を支払ったものの全く稼ぐことができずトラブルになるケースが急増している。冷静に考えれば簡単にお金が入ることはありえないと分かるのに、なぜ、少なくない数の人がそれを信じてしまうのか。取材を続けていくとSNSや動画などの情報ツールを巧みに操り、高齢者やお金に困った人たちに商品を売りつけようとする情報商材ビジネスの裏側が浮かび上がってきた。(「ネット広告の闇」取材班記者 斉藤直哉 田辺幹夫 )

「簡単に稼げます」それってホント?

去年10月、都内のある業者に、消費者庁が消費者安全法に基づく注意喚起を行った。この業者が、「うその内容の宣伝」を行っていたというもの。

業者は、SNSの広告で「スマホをタップするだけで、お金が稼げる」などとうたい、ウェブサイトに誘導。稼げる方法が知りたければ入会する必要があると勧誘し、入会金や受講料として1人最大で120万円を集めていた。

そして、半年でおよそ6億4000万円を集めていた。巧みな勧誘には、宣伝のための動画が使われていた。
動画では、若い女性が、「料理の合間にスマートフォンをタップするだけで1日で数万円を稼げた」と話していた。ところが、消費者庁の調べで、この動画に出演していた女性は架空の人物で、稼いだという話の内容も全くのウソだった。

入会金を支払ったという50代の女性に取材すると、憤った様子でこう話した。
「フェイスブックを見ていて『アンケートに協力してください』という広告が目にとまり、メールアドレスを登録したら動画のリンクが送られてきた。副業が話題になっていたころだったのでちょっとした収入があればと入会してしまった。指示されたことは全部やったが全く稼げなかった」
女性はその後返金を申し立て一部が返金されたという。

この業者は、消費者庁が注意喚起をしたあと廃業することになった。

情報商材のトラブルは急増

この業者が売っていたのは、「情報商材」と呼ばれる商品の一つだ。「情報商材」は、金融取引や中古品販売など、さまざまな金もうけなどのノウハウを商品として販売するもの。こうした情報商材を扱う悪質な業者をめぐる消費者トラブルが急増している。
「誰でもたった1分で1万円の現金をラクラクGET!」
「たった数秒間の作業でも10万円20万円100万円と現実的に稼ぐことが可能」

このような、うそまたは誇大な広告をSNSに掲載していたなどとして消費者庁は去年だけで9つの業者の実名を公表して注意を促した。

全国の消費生活センターに寄せられる相談も急増していて昨年度だけで6000件以上。今年度はそれを上回るペースで推移している。
消費者庁の小泉勝基財産被害対策室長はこう指摘する。
「トラブルを訴える人には20代もいれば70代もいて幅広い。SNSや動画で、もうかった人の実例として高級車やリゾートマンションなどの派手な生活を見せられ、自分もこうなりたいと憧れてしまいだまされてしまっている。SNSやインターネットで誰でも情報に簡単に触れられるようになった反面、だまされる危険性が増えている」

私、ニセの動画に出演してました

業者が、宣伝のために使っていたネット動画。かつて、同じような情報商材を宣伝する動画に出演したことがあるという男性に話を聞くことができた。
男性は20代。インターネットでアルバイトを探していたところ企業の紹介動画のエキストラの募集があり、応募したという。
「撮影現場に着くと、僕は専門学生の役で『SNSを使って半年で、30万円から40万円稼げました』としゃべってくれと言われテレビショッピング的な感じで動画を撮られました」
アルバイト代は交通費込みで4000円程度。男性は、いまもこの動画に出たことを後悔していると話した。
「話した内容は全部ウソです。お金に苦労していた時期だったので声を上げることができなかった。もしこの業者が摘発されることになれば自分も加担したことになるのではないかと怖いです」

「私もだまされました」続々と寄せられた声

NHKでは、ホームページを通じて情報商材でトラブルにあった人に体験談の提供を呼びかけた。すると2か月余りで270件を超える情報が寄せられた。

これらの情報のなかに「K」という人物が出演する動画をみて情報商材を購入してトラブルになったというケースが多数あった。
このK氏をめぐるトラブルの相談が50件以上寄せられ消費者庁に対して注意喚起するよう申し立てを行ったという東京リプラス法務事務所の田中康雄行政書士は、指摘する。
「毎月最低でもこれだけ稼げるという表現を広告でうたっていることに問題がある。契約上でいえば特商法違反や誇大広告のおそれがある」
「K氏の情報商材を購入したが、収入を得ることはできなかった」と訴える60代の女性に話を聞いた。動画のなかで、K氏は特定の短いことばを自分のSNSに書き込むだけで誰でも簡単に高額の収入が得られると話していた。女性は親の介護のため外で働くことができず、在宅でも働けるということばにひかれて80万円を支払って入会したが1年たっても説明されたような収入は全く入ってこなかったという。
「Kさんはネットのビジネス業界では名前が通っていて、本も何冊も出しているので大丈夫だと思った。次々に動画を見せられてマインドコントロールされていたのかなって。私たちのような情報弱者が食い物にされている」

情報商材の“カリスマ”を直撃

このK氏に、都内のオフィスで話を聞いた。
(取材班)「だまされたという声がわれわれに寄せられていますがどう考えているのですか」

(K氏)「だまそうとは思っていない。去年は仮想通貨の値下がりなどでたまたま稼げていないだけだ」

(取材班)「広告の内容は、本当に事実なんですか?」

(K氏)「確かに、ちょっと盛っているところはあります。でもそれは、女性が化粧をして自分を少しでもよく見せようというのと同じです。動画では、私はステージで歌う歌手のような役割。シナリオやコメントを考えるのは、別のプロモーターです」
K氏は、取材に対して、自分は情報商材の販売を仕切っているわけではなく、宣伝動画を企画したり、作っているのも、別のプロモーターだと話した。そのプロモーターは誰なのか、聞いたが、「絶対に言えない」と答えた。

闇の“プロモーター”に迫る

K氏が話した「プロモーター」と呼ばれる存在が、悪質な情報商材ビジネスの元締めなのか。関係者への取材からこうした、プロモーターと呼ばれる人物は、情報商材ビジネスの世界には、複数いることがわかった。

そのうちの1人が関係しているとみられる会社は都内にあり、登記上はウェブ制作などを手がけるデザイン事務所だった。私たちは直接オフィスを訪問したが、こちらが取材の内容を伝える前に「お断りします」といっさい話を聞かずに追い払われてしまった。

引き続き取材を進めていくと、これとはまた別のプロモーターの会社でかつて働いていたという男性から話を聞くことができた。男性が話した情報商材ビジネスの裏側は驚くべきものだった。

“情報弱者をだませ”悪質ビジネスの実態

男性によると、オフィスがあったのは都内の閑静な住宅地にある一軒家。ここで30人ほどの社員が働いていた。
「社員は20代の若者ばかりで、いわゆる“半グレ”や“反社会的勢力”のような雰囲気があった。なかにはかつてヤミ金融で働いていた人もいた」
会社は、情報商材ビジネスそのものを企画・立案したり、SNSでの宣伝や勧誘のための動画の制作を手がけていたという。
「1つの案件で簡単に10億円を売り上げたりする。社長や幹部はタワーマンションの高層部に住んで、数千万円する高級車を乗り回して派手な生活をしていた」
扱っていた情報商材はネットのアフィリエイトや仮想通貨で稼ごうというもの。しかし、実際には「もうからない可能性が非常に高い」ものばかりだったと言う。
「社員たちは、おおっぴらには言わないけれど『こうやって情弱(情報弱者)をだましていこうぜ』なんてことを口にしていた」
ターゲットにしていたのは、借金を抱えるなどお金に困っていたり、投資に興味がある人たちで、全体的に高齢者が多かったという。
「SNSの広告や動画には、『これで人生逆転できます』などということばを入れることで反応が全然違ってくるんです」
宣伝のための動画は、社員がみずから撮影や編集を行っていた。出演させていた、広告塔の人物やインタビュアーはすべて架空の人物の設定で、社員が演じていたり、インターネットの人材紹介サービスから雇うこともあったという。

さらに、社内には入手したメールアドレスに大量の勧誘メールを送りつける部署や代金の支払いが滞っている顧客に対して、電話で催促する「取り立て」の部署もあった。
不満を訴える顧客には「追加でこのサービスを購入すればもうかるようになる」などとさらに高額な商材を売りつけていたという。この男性も「罪滅ぼしのつもりだ」と、取材に応じてくれた。

広がる“情報商材の闇”

情報商材のトラブル急増の背景について、取材を始めた私たちは当初、そんな怪しげな話に、簡単にだまされる人がそれほど多いものなのか、疑問に感じていた。

しかし、取材を続けていくと、副業ブームやSNSの普及などに便乗して高齢者やお金に困った人の心理にうまくつけ込こんで、情報商材を売りつける悪質な業者の手口が見えてきた。

SNSやインターネットを正しく使って起業したり稼いだりしている人は大勢いる。しかし、本当に「誰もが簡単に稼げるノウハウ」なんてあるのだろうか?ネット上にあふれる甘い誘惑をよく見極めないと、あなたも“情報商材の闇”に巻き込まれてしまうかもしれない。