3分の1で昼休み ある地銀の選択

3分の1で昼休み ある地銀の選択
13日のこの特集ページで、鳥取銀行の支店窓口の廃止をめぐる町の苦悩をお伝えしたが、今回はお隣の島根県からの報告。人口減少と過疎化のフロントランナー「山陰」地方では、銀行の店舗網の縮小の動きが止まらない。店舗運営の効率化を図りながら、なんとか地域サービスを維持できないか。地方銀行の試行錯誤が続いている。(松江放送局記者 白石明大)

ここでもあそこでも店舗縮小

幹線道路沿いの2階建てのオフィスビル。建物をのぞくと、中は無人でATM=現金自動預け払い機が1台あるだけ。ここは島根銀行北出張所。JR松江駅から2キロの住宅街にあり、50年近くにわたって、この地区の金融サービスを担ってきた。

一時は「支店」として最大10人の行員を擁するも、その後、支店から出張所へ、そして去年10月、ついに常駐する行員はいなくなった。「窓口で年金を下ろしていたのに...。ATMはあるといっても使い方が分からなくて」地元の高齢者からはそんな声も聞かれるという。

島根県浜田市役所には、地域福祉課や会計課に並ぶ形で山陰合同銀行の窓口があったが、2年前に廃止。もはや市役所内で銀行の存在をうかがわせるのは、廊下の片隅に移動しひっそりとたたずむATMだけだ。

過疎地だろうが比較的都市部だろうが関係なく進む店舗網の縮小。人口減少と過疎化が進む山陰地方の現実だ。

3分の1で「昼休み」

山陰合同銀行の南出張所。松江駅から歩いて10分ほどの場所だが、窓口を訪れる利用者は1日10人程度だ。私が取材した際も窓口を利用していたのは1人だけだった。それに対し、9人の行員が働いているという。

ここでは、4月以降、午前11時半から1時間窓口を閉める「昼休み」を導入する。

銀行の支店や出張所は営業時間の午前9時から午後3時まで、防犯上の理由もあって一定の人員がいなければならない。昼の休憩を順番に取ると、その分、人手が必要になる。

そこで、山陰合同銀行が導入を決めたのが窓口業務の「昼休み」だ。少人数で店を効率的に運営するのが狙い。山陰地方や兵庫県などにある山陰合同銀行の計150店舗のうち、対象となるのは、島根・鳥取両県の49出張所。ほぼ3分の1だ。

銀行の窓口の営業時間は、3年前に規制が緩和された。これを受けて伊予銀行や三重銀行、秋田銀行に北海道銀行...と全国で昼休み導入の動きが広がっている。そうした中でも、全体の3分の1という今回の規模は異例だ。

苦肉の策

昼休みの導入の背景にあるのは、銀行を取り巻く環境の悪化だ。

山陰合同銀行は、島根県の企業の6割、鳥取県では5割弱がメーンバンクにしているともいう山陰金融界の「ドン」。「ごうぎん」の愛称で知られ、2001年にアメリカ・ニューヨークで起きた同時多発テロの際、世界貿易センタービルに支店を構えていたことでも話題となった。

4年連続で過去最高益を更新し、一見問題はなさそうだが、将来への危機感は強い。低金利や人口減少などで、今後も、厳しい経営が続くと見られるからだ。

主要な営業範囲である島根・鳥取両県は東西およそ300キロ。東京・名古屋間とほぼ同じ距離をカバーしており、店舗維持のコストは重荷となっている。平成4年に最大で223あった支店・出張所は、今は150にまで減り、さらに集約を進める考えだ。

店舗をまるごと閉めれば一気に効率化が進むが、その分、地域サービスはがくっと落ちてしまう。効率化は進めたいが、店舗網は維持して利便性の低下をなるべく抑えたい。「昼休み」の導入は、そんな発想から生まれた「苦肉の策」と言える。

移動店舗を導入するも…

地域サービスは地方銀行にとって生命線だ。山陰合同銀行は、これまでも店舗網の縮小のショックを和らげ利用者の利便性を確保しようと取り組んできた。

その1つが「移動店舗車」だ。3トントラックの荷台から現れた階段を上ると、そこは銀行の窓口。広さ6畳程度のスペースに2人の銀行員が座り、口座の開設や公共料金の支払いなどの対応をする。ATMも1台設置され、通常の銀行の店舗とほぼ同じサービスを受けることができる。おととし4月に導入し、お年寄りなどからの評判はよかった。

しかし、見込みほど利用者は伸びず、行員を乗せて遠隔地をトラックで回るコストも重くのしかかった。コスト削減のために店舗を集約したのに、トラックを走らせてコストがかかるのでは本末転倒だ。移動店舗車は、導入からおよそ1年後の去年5月に運用を中断、現在は災害時など緊急時の活用を検討している。

悩める地方銀行

長引く低金利による収益力の低下、一方で急速に進むキャッシュレス化。こうした環境のなか、銀行が、効率化を目的に店舗網の縮小に踏み切ろうとするのは当然と言えば当然だ。ただ、過疎地を多く抱える地方銀行にとって、それは簡単なことではない。

従来型の対面サービスを希望する人たちがいるからだ。年金の受け取り、税金の支払い、資産の運用、経営する商店の資金繰り...。対面ではなくても可能なサービスもあるが、それも含めて彼ら彼女らと向き合い、ともに歩んできたのが地方の銀行なのだ。そうした顧客に寄り添いながら、いかに経営の効率化を進めていくのか、地方銀行の苦悩と試行錯誤は続く。
松江放送局記者
白石明大
平成27年入局
経済・行政を担当
4月に控えた島根県知事選挙の取材に走り回る