町長が発した衝撃の投稿

町長が発した衝撃の投稿
「鳥取銀行と勝ち目のないけんかをしようと思います」

去年8月末の早朝、私は、担当している鳥取県西部の小さな町の町長が、衝撃的な文章をフェイスブックに投稿していることを、上司からの電話で知らされた。町長はなぜ、このような投稿をしたのか。(鳥取放送局記者 村上弘樹)

精一杯の意地を見せたい

この投稿をしたのは、鳥取県日南町の増原聡町長。
地元の鳥取銀行が、町にある支店窓口を廃止、ATMだけにするという方針を打ち出したことがきっかけだった。

日南町の人口は約4600。
うち半数以上が65歳以上の高齢者という典型的な過疎地域で、窓口を利用するためには、およそ20キロ離れた隣町の店舗まで行かなければならない。

投稿はさらに続く。
「高齢化が進む中、対機械でなく、対面こそが必要だと思う次第です。鳥取銀行にもう一度地方銀行としてのありようを考える機会になり、他の市町村で日南町のような例を起こさぬよう、精一杯の意地を見せたいと思います」
増原町長はそう投稿し、その日のうちに鳥取銀行に預けていた町の預金、約5億6000万円を解約した。
「地方を切り捨てないで欲しい」
投稿は、地方の置かれた窮状を訴える悲痛な叫びのように思えた。

怒りの矛先は鳥取銀行に

町長の怒りに火をつけた鳥取銀行は、鳥取を拠点に、大阪など全国に65の支店(平成31年1月時点)を持つ地方銀行。

しかし、長引く低金利や人口減少で厳しい経営が続き、日南町内の支店を含む10店舗の支店集約を決めた。
町の関係者によれば、支店集約の方針が日南町側に伝えられたのは発表の前日。長年、増原町長を支えてきた町の幹部は私の取材に対し、こうした銀行側の対応も、その後の町長の投稿につながったのではないかと話した。
衝撃の投稿からおよそ2週間。
鳥取銀行の平井耕司頭取は町長と面会するため、町役場に出向いた。
そして、町長に対して支店集約を予定どおり進める一方、利用者に不便をできるだけかけないよう、ATMの操作方法をまとめたパンフレットを配布し、訪問営業を充実させるとして理解を求めた。

町長 まさかの急逝

町と銀行はどう折り合いをつけるのだろうかーー。
そう思っていた去年11月4日、私のもとに衝撃的なニュースが飛び込んできた。増原町長が亡くなったというのだ。62歳だった。

直前まで一緒に働いていた町の職員も、体調の異変には気付かなかったほどで、増原町長は周囲には病を隠しながら公務にあたっていたのだろう。
町長の突然の死は鳥取銀行の関係者にも衝撃を与えた。その直後の中間決算会見の冒頭で、平井頭取は町長の死去に触れ、ショックを隠しきれない様子だった。

一方で、厳しい経営は続くとして「業務の見直しの中でさらなる支店の集約は考えざるをえない」と話し、銀行側の立場に理解を求めた。

現場を歩くと…

町長の投稿が投げかけたものは何だったのか。

私は、実際に町民の声を聞いてみようと町を歩いたが、なかなか人の姿が見えない。やっと話が聞けたのは、高齢者が集う健康体操教室。70代の女性がこぼしたのは鳥取銀行への不満だった。

「ずっと使い続けていたのに利用者のことも考えず窓口を無くすなんて考えられない。本当に腹が立つ」

女性は口座を解約し、町内に窓口がある、ほかの金融機関に貯金を移したと明かした。
さらに町を歩いていると、ある男性に出会った。1人で暮らす坪倉晃一さん(77)は、およそ30年、鳥取銀行に口座を持ち、今も年金の引き出しに利用しているという。
自宅に上げてもらい話を聞くと、ATMの操作に不安があると話してくれた。坪倉さんは去年、購入した商品の代金を振り込むため、ATMを利用しようとしたが、操作手順がわからず、窓口にいた行員から教えてもらったという。
窓口がなくなった今後は、ATMがうまく使いこなせなければ、車で30分ほどかかる隣町の支店まで行かなければならない。
坪倉さんは通帳を見つめながら「僕らが銀行に『窓口を残してくれ』と言っても残してもらえるわけでもない。不便にはなるが、時代の流れだし、どうしようもない」と諦め顔で話す様子が印象的だった。

町の高齢者から話を聞くうちに、問題の本質は、単なる銀行窓口の閉鎖にとどまらず、地方銀行の存在意義そのものが問われているのではないかと感じた。

地方の金融はどうなるのか

今後、地方銀行はどうあるべきなのか。地域経済の専門家に聞いてみた。
「地域があっての地方銀行なので高齢化が進んでも地域の人に寄り添うような金融機関であるべきだ。地域の人たちとコミュニケーションをとりながら成長していくことが本当に問われてくる」
そのうえで多田教授は、地方銀行と行政が連携して地域の産業を育て、地域経済を活性化させることで、経営基盤を強化していくことが求められると指摘した。

都市部ではネットバンキングやスマホのキャッシュレス決済などが普及する一方で、地方、特に高齢化が進む過疎地では、まだ“現金主義”が主流だ。私は去年の夏に鳥取県に赴任したが、コンビニでスマホ決済をするようなお年寄りには出会ったことはない。

今後、地方は、金融の大きな変化から取り残されてしまうのか。

増原町長が社会に問いたかったのは、単に銀行の支店集約への反発だけでなく、地方の現実と向き合ってほしい、そういう思いだったのではないかと感じる。地方の金融機関が地域とどう向き合っていくのか、これからも取材を続けていきたい。
鳥取放送局記者
村上弘樹
長崎局をへて鳥取局
現在、米子支局で
拉致問題や地域経済を担当