水道水で育つ“びわ湖フグ”現る

水道水で育つ“びわ湖フグ”現る
京都の日本料理店で出された高級魚・トラフグの刺身。一口食べてみると、プリップリの歯応えがあり、おいしい!実はこの刺身、隣の滋賀県で試験的に養殖されたもの。フグの養殖は、長崎や熊本など海のある県で盛んだが、このフグは、海のない滋賀で、びわ湖の水を浄化した水道水を使って育てられたという。(大津放送局記者 古川幹子)

なぜ滋賀でフグ養殖?

びわ湖の水道水で養殖できるのか?フグ養殖の実証実験を行う秘密の研究施設があると聞いて、びわ湖を望む、大津市の商業施設内にある建物に行ってみた。
扉を開けると、水槽に大量のトラフグが元気に泳いでいた。養殖を始めたのは、公園などの設計や、その周囲の池や川の水質を浄化する研究に取り組んできた会社。

京都の平等院の池や、皇居のお堀の水質浄化にも携わり、その技術は高い評価を得ているという。

「新たなビジネスを生み出せるかもしれない」
社長の大谷洋士さんは、この水質浄化の技術を環境保全以外にも活用することを模索してきた。そしてたどりついたのが「魚の養殖」だった。

投棄されたプラスチックごみなど海の環境汚染が世界的な問題となる中、海の汚染と切り離して、魚を養殖するニーズが高まるのではないか、そう考えたのだ。

大谷社長はフグ養殖を始めたいきさつをこう話す。
フグ養殖に取り組む会社 大谷洋士社長
「どうせ育てるなら付加価値の高い魚を養殖してみようかと。中でも水質の変化に弱く養殖が難しいフグに挑みたい」

独自技術で養殖可能に

びわ湖の水道水で、どうやってフグを養殖するのか。まず、海の成分に近づけるため、水道水にミネラル分や塩分を混ぜる。
バクテリアが入った瓶
そして、「バクテリア」を投入。この会社の水質浄化技術の中核を担うものだ。

水槽の水は、魚の排せつ物やヘドロがたまると水質が悪化してしまう。このため、通常は水を入れ替える必要がある。
しかし、水温や酸素量をきめ細かく調節する独自のノウハウで、バクテリアを活動しやすくすると、魚にとって有害となる物質やヘドロをバクテリアが食べて分解してくれる。これが、良好な水質を保つことにつながるのだ。

驚きの時短・コストカット

10年もの歳月をかけて見いだしたこのノウハウ。フグの水槽に導入してみたところ、赤潮や悪天候などの影響がないということもあり、海で行う養殖に比べ、半分の期間、たった1年で稚魚が成魚に育ったという。
また、水槽中に排出されるフグのふん尿も、バクテリアがしっかり分解してくれるので、水槽は蒸発した水分を水道水で補うだけ。大きな負担となる水を入れ替えるコストも、ほぼ無くなった。

さらに、排水で周辺環境を汚す心配もなくなったという。養殖にかかるコストは、これまでの陸上養殖の3分の1くらいに抑えられると試算している。

ビッグビジネスになるか

びわ湖の水道水によるフグ養殖。水槽の数を増やすなど事業化に向けた取り組みが進められている。

こうした中、ことし1月、京都の日本料理店で、支援を受けている地元の銀行の頭取を招いて試食会が開かれた。その反応は…
滋賀銀行 高橋祥二郎頭取
「甘みと歯応えがすごい、すばらしい」
驚嘆と絶賛。フグの旬・冬以外の季節でも出荷できる点は、ビジネスチャンスだと、事業の将来性を前向きに評価していた。

フグの陸上養殖は、海の汚染物質から切り離して安全・安心な魚を供給しようと、すでに内陸県の岐阜や山梨などでも、それぞれで工夫を凝らして養殖が始まっている。

大谷社長は、独自の水質浄化の技術で養殖する強みを生かし、一大消費地・関西圏と中京圏に近い滋賀県の地の利を生かして、新鮮なフグを出荷していく方針だ。
飲食店やホテルなどと提携して、将来、フグが泳ぐ水槽をそのまま「丸ごと出荷する」という、新ビジネスにも乗り出したいとも語る。さらに、車エビやあわびなどフグ以外の高級な海産物の養殖にも挑みたいと、夢を膨らませている。

びわ湖のほとりで始まったフグ養殖の取り組み。海の漁業の在り方を変え、地域に新たな産業を見いだせるか、注目したい。
大津放送局記者
古川幹子
平成29年入局
現在、警察・司法担当
特技は乗馬