“ノーマーク火口” 全国21の火山に 富士山も監視強化

“ノーマーク火口” 全国21の火山に 富士山も監視強化
温泉やスノボなどで訪れる場所、その近くには活火山の火口があるかもしれません。去年、群馬県の草津白根山のスキー場付近で発生した噴火。気象庁が重点監視していた火口とは別の“ノーマーク火口”で起きた突然の噴火に衝撃が走りました。その後、同様のリスクは全国21の火山で確認され、気象庁は監視の強化に乗り出しました。21の火山には日本一の山「富士山」も含まれています。ノーマーク火口は市街地からわずか1.5キロの場所に潜んでいました。(社会部記者 小林育大)

富士山にノーマーク火口

言わずと知れた日本一の山、富士山。かつては「休火山」とされていましたが、現在はれっきとした「活火山」です。

最後の噴火は300年以上前の江戸時代。数百年程度の活動休止は、火山の寿命の中で“つかの間の眠り”だとして「過去1万年以内に噴火した火山は活火山」という考え方に変わりました。

現在、日本には富士山を含め111の活火山があります。その「富士山」で将来、噴火の可能性が否定できない火口が新たに確認されました。
「雁ノ穴火口」と呼ばれ、山頂から北東におよそ10キロ離れた自衛隊の演習場の中にあります。存在は以前から知られていましたが、最新の調査で約1500年前にも噴火が起きていたことがわかってきたのです。

この火口、従来の想定火口域の外側にあるため、監視カメラも無く防災計画もない“ノーマーク火口”です。
富士吉田市の市街地までの距離はわずか1.5キロ。市内にある道の駅で話を聞くと、観光客からは「山頂から噴火するものだと思っていた。近くで噴火したらびっくりする」という声が聞かれました。

気象庁は万が一の噴火を見逃さないよう、新たにカメラでの監視を行うことを決定。富士吉田市なども今後「雁ノ穴火口」を想定火口域に含めてハザードマップの改定を進める予定です。

草津白根山の噴火きっかけに精査

ノーマーク火口の精査が進められたきっかけは去年1月に起きた群馬県・草津白根山の噴火です。スキー場で1人が死亡11人がけがをする惨事となりましたが、気象庁が重点監視していた火口とは全く別の場所で噴火が発生したため、監視カメラで捕捉できず噴火速報も発表できませんでした。

当時、私は気象庁で取材をしていましたが、火山課の担当者らが噴火地点を特定できず、テーブルに広げた大きな地図の前で苦しんでいた様子を鮮明に覚えています。

後日、ある研究者は「積み上げてきた火山観測の哲学が振り出しに戻った」と唇をかみました。

全国21火山に

その後、気象庁は全国50の常時観測火山の噴火履歴を精査。ノーマーク火口(※)は少なくとも全国21の火山で確認されました。
※噴火警戒レベル運用における想定火口域の外で、過去1万年以内に噴火した火口

これらのノーマーク火口を監視するため、気象庁は7つの火山で監視カメラを新設することを決定。残りの火山でも自治体などが保有する既設のカメラを活用して監視します。

新たなリスクにどう向き合う

新たに浮かび上がったリスクを、地元ではどう受け止めているのか?

気になった私は各火山のふもとの自治体などに取材を始めました。
火山の周辺は観光地であるケースが多く、風評被害を心配する声も聞かれましたが、北海道の上富良野町が取材に応じてくれることになり、現地に向かいました。1月中旬、私は雪に覆われた十勝岳のふもとにある十勝岳温泉の宿泊施設を訪れました。
ヌッカクシ火口
この施設から約1.6キロの場所にこれまでノーマークだった「ヌッカクシ火口」があります。
この日、町の防災担当職員が宿を訪れ、ヌッカクシ火口のリスクを記載した文書を配りました。そして、宿泊施設の担当者と一緒に噴火に備えた避難計画を点検。客を誘導するとしていた食堂は窓が火口に面していることから、地下に誘導するよう計画を改めました。
宿泊施設の青野範子さんは「去年の草津白根山の噴火を考えると、『ヌッカクシ火口』での噴火もあり得ると思う。いざという時に対応できるよう備えを進めたい」と話していました。

観光と安全 両立するには

火山の監視や観測は限られた予算や態勢の中で危険性が高いと考えられる場所が優先され、その結果、ノーマークの火口のように十分な監視の目が届かない場所も出てきます。

気象庁は、噴火の可能性が高いのはあくまでも従来から想定されている火口だとしていますが、草津白根山の噴火はリスクがゼロでないかぎり無視はできないということを突きつけました。

登山や温泉など火山は魅力の観光地でもあり、観光と安全の両立は常につきまとう問題です。
今回取材した上富良野町総務課防災担当の櫻井友幸さんは「町も住民も火山と共生しているという意識なんです。危険性ばかりを前面に出すわけではないが、リスクはきちんと発信していきたい。観光を楽しむためには、危険性をきちんとおさえてもらうことが大切だと思います」と話していたのが印象に残りました。
社会部記者
小林育大