声を上げ始めた“無給医”

声を上げ始めた“無給医”
大学病院で診療しても、給与が支払われない「無給医」。私たちが去年10月に、この問題を初めて報じた時、医師の間からは
「昔からあったし、なぜ今頃問題になるのか」
「キャリアアップのために勉強しているので、嫌々やっているわけではない」
こんな意見が大半でした。しかし、それがここに来て、大きく変わりつつあります。
(社会部記者 小林さやか)

声を封じる医局体制

報道後、文部科学省は年度内に無給医の実態を調査することを初めて表明しました。

私たちはニュースだけでなく、SNSでも無給医の情報を求めました。すると、無給医の当事者たちからこうした声が寄せられました。
「基本みんな見て見ぬ振り、おかしい制度だと思っていても、異議をとなえることはできません。嫌なら医局を辞めれば、ということです」(30代)

「学位を盾に大学院生を強引に使ったり、とにかくパワハラ・人事が医局のすべてと言っても過言ではありません」(40代)

「このような理不尽な医局体制が続くことがとても悔しく、このことを外部に伝えたく連絡しました」(30代)
若い医師たちが“白い巨塔”とも呼ばれた古い医局の体質に疑問の声を上げ始めたのです。

声を上げ始めた無給医

なかには、実際に行動を起こす無給医も現れました。

首都圏の私立大学の付属病院で働く医師は労働基準監督署に無給医の勤務実態を調べて、是正指導するよう訴えました。
取材した医師の給与明細
この医師は外来など診療を有給医師と変わりなく行っていますが、支給されるのは月数万円の当直手当だけ。雇用保険や労災などの社会保障もありません。

外部の病院でアルバイトをして生計を立てているため、休みがほとんどない状態だといいます。こうした大学の実態については、複数の医師から同様の情報が寄せられています。

医師は「体力も気力も限界に近づいています。この状況を変えるには、社会の注目が集まっている今しかないと思いました。お金がただほしいのでなく、責任を持って医師として働いているということを、認めてほしいです」と訴えています。

医師が所属する大学は「回答は控えさせていただきます」とコメントしています。

支払いに応じるケースも

報道のあと、医局で上司と交渉して、未払い分の給与の支払いにこぎつけた医師もいます。
関西地方の国公立大学に勤務する30代の医師です。この医師は医学部を卒業後、一般病院で医師として勤務、さらに専門分野の研究をしようと大学院に進学しました。

しかし、研究とは別に、毎日外来診療を義務づけられましたが、支給額は月に5万円ほど。慣習として、大学院生には正式な給与が支払われなかったといいます。
交渉で提示したタイムカード
これに疑問を感じた男性医師は、ついに教授と直接交渉しました。最初は「前例がない」と拒絶されましたが、自主的に記録していたタイムカードを提示して交渉した結果、過去2年分の給与を受け取ることができました。その額は190万円です。

勤務に見合う金額とはいえませんが、この医師は「金額の多い少ないではありません。医局の慣習や無言の圧力の中で給与は出ないものだと思い込まされてきました。自分のケースが前例となって、今後は、他の医師に対してもきちんと働いた分に応じた対価が支払われるように変わってほしいです」と話していました。

報道後 各大学では…

医師たちが行動を起こすなか、大学側にも変化が見られます。
「無給医が多数いる」と報じた順天堂大学。報道の直後から無給医に対し、時給1000円が支払われるようになりました。さらに、来年度からは、一定の勤務時間を満たす場合、社会保険に加入できることになったといいます。

順天堂大学で働く医師は「労働者としての最低限の基本的権利がやっと保障されたが、仕事の内容を考えるとあまりにも見合わない待遇だ。これで終わりにしないでほしい」と話しています。

一方で、「無給医の存在を隠蔽している」という情報も寄せられています。
「(当直表に)「無給研究医」と書かれていた人たちが当直をしていましたが、ある時を境にその表記が「研究医員」に変更されていました。過去の記録も肩書だけすべて差し替えられていました」(関西の私立大学)
「先月から突然当直料が水増しされて支払われるようになりました」(首都圏の私立大学)

国の調査始まるが

文部科学省の調査依頼文書
さらに文部科学省の調査への実効性に疑問の声も上がっています。調査は全国99大学105の付属病院で、診療にあたっている医師と歯科医師の全て(大学教員と初期研修医は除く)が対象ですが、国公立大学に勤める20代の男性医師からこんな情報が寄せられました。
この大学で、ことし1月に配られた調査用紙です。この医師は、付属病院で週に40時間ほど働いていますが、月給は4万円ほど。残業代はもちろん、最低賃金も満たしていません。

ところが調査票には「給与が支払われている」という記入欄しかありません。この医師は「わずかでも払っていれば問題ではないと言い逃れようとする意図を感じる。違法なサービス残業が行われているので、文部科学省だけでなく、厚生労働省も責任を持って調べてほしい」と訴えています。

さらに他の大学の医師からも、
「調査が行われている気配すらない」
「訴えたいことが色々あるのに書かせてくれないのか」
「医局がとりまとめる形だと本当のことを回答できない」
といった声が相次いで寄せられています。
調査でどこまで無給医の実態が明らかにされるのか。調査の締め切りは2月末ですが、文部科学省に現場の医師らの危機感を伝えました。

その際の回答です。
「調査中であり、進行状況についてコメントする立場にない。調査については、具体的な調査手法は大学に任せているものの、内外の専門家と相談して適切に回答するよう求めている」
NHKではこれからもこの無給医問題を取材し続けます。
▽各大学での勤務実態
▽大学の動きや調査の状況
▽医局のパワハラ
などについて、ぜひ以下のリンク(ニュースポスト)から情報を提供してください。
https://www3.nhk.or.jp/news/contents/newspost/