外国人観光客が欲しがる「○○らしさ」

外国人観光客が欲しがる「○○らしさ」
中国では春節に合わせた大型連休が始まり、ことしは、訪日ビザの発給要件が緩和されて若者を中心に日本を訪れる人が増える見込みです。訪日外国人「年間4000万人」を目標に「観光立国」を目指す日本。その戦略のカギが「データ」と「地域の現場」から見えてきました。
(徳島放送局記者 六田悠一・社会番組部ディレクター 新井直之・淡浪里彩・ネットワーク報道部ディレクター 富田千尋)

外国人旅行者はいま…

外国人旅行者の数は年々増加していて、政府は「2020年に4000万人」を目標に「観光立国」を目指しています。これを達成するには、これまでのように大都市だけではなく、それ以外の地方にも多くの外国人に足を向けてもらうことが必要だと言われています。
そこで…。外国人旅行者の誘致に成功している自治体があるのか、データを調べてみました。

2月の中国や台湾などからの宿泊者数について、去年までの3年間の伸び率で見てみると…。
東北地方や中国四国地方など、大都市以外でも増えているところがあります。それぞれの地域ではどんな戦略が功を奏しているのでしょうか。

山あいのまちに多くの外国人が…

外国人旅行者が増えている県の一つ、徳島県。外国人旅行者はどこに行っているのでしょうか。
去年1月から2月に中国や台湾などから訪れた人について、携帯電話の位置情報をもとに分析すると、ある場所に多く人が訪れていることがわかりました。
その場所は、徳島市から車で2時間。四国山地に囲まれ過疎化が進む三好市大歩危・祖谷地区。この山あいのまちに、年間およそ2万人もの外国人観光客が訪れていると言います。
ここでの外国人のお目当ては「渓谷の川下り」や「古いつり橋」です。SNSなどで「日本の原風景」と紹介されていたことで人気が広がったということです。

そして、理由はほかにもありました。

言葉が通じなくても…

山口由紀子さん(右)
地元で商店を営む山口由紀子さん(76)。取材に訪れたこの日、山口さんは、ニュージーランドから日本に初めて訪れたという旅行客にみずから声をかけました。

山口さんは自分の店に招き入れると、地域で昔から作られてきたお茶を石臼でひいてもらい、無料でふるまいました。山口さんの説明は、ほとんど身ぶり手ぶりです。

それでも、初めて見る石臼に外国人は興味津々。山口さんの明るく気さくな「もてなし」もあって、訪れた人はすっかり魅了されている様子でした。
「ここに『本当の日本』を見に来た」と話す外国人旅行者。山口さんは「サンキュー」とか「ベリーグー」などといった片言の英語でしたが、「もてなしの心」は十分に伝わっているように思いました。

しかし、こうした「もてなし」ははじめからできたわけではなく、この地域では郷土料理や伝統芸能を紹介するイベントを開くなどして、少しずつ育んでいったと言います。

地域の人たちはこうした経験を通じて、「言葉は通じなくても気持ちを込めれば伝わる」ということが分かってきたということです。

そして何より、「地元で長年培ってきた『暮らしそのもの』が観光資源」と気付くようになったと言います。
一般社団法人「そらの郷」 出尾宏二さん
地元の観光振興に取り組む一般社団法人「そらの郷」出尾宏二さんは「この地域では、今では外国人を見ると自分で握手してハグしに行く人も多くなった。単にレジャーを提供するのではなく、訪れる人と地域の人が上質な交流を紡いでいっていることが、外国人に魅力的だと評価されていると思う」と話していました。

緻密な戦略で「○○ならでは」を演出

私たちがふだんはあまり意識しない「暮らし」が、外国人旅行者にとっては大きな魅力なようです。それをどのように生かしていけるかが「観光立国」へのカギです。

こうした地域の魅力をより高め、緻密な戦略を立てて効果を上げている自治体もあります。去年までの3年間で2月の外国人宿泊者数の伸び率が最も高かった青森県では、官民をあげて訪日客の獲得戦略に乗り出していました。

その一つは交通アクセスと海外発信。航空路線を次々と誘致し、韓国や中国からの定期便はこの冬、およそ2倍に増やしました。
SNSでの発信にも早くから力を入れ、7億人が登録していると言われている中国版ツイッターの「ウェイボー」では47都道府県で1位のフォロワー数を誇ります。
さらに、訪れた人々の心をどうつかむかという点でも、戦略にぬかりはありません。戦略の一つが「青森ならではの体験」です。
大人気の名物「ストーブ列車」
例えば、雪景色を見ながら石炭ストーブで暖まる名物の「ストーブ列車」は冬の青森でしか体験できないと大人気。乗り込んだ外国人は、ストーブで暖まりながら車窓からの雪景色を楽しみます。
地元では当たり前の風景ですが、外国人旅行者にとっては「ここでしかできない体験」なのです。
こうした「青森体験」を前面に打ち出して、人気を集める旅館もあります。
足を踏み入れると、そこは夏祭りのねぶた一色。浴衣に着替え、いざなわれた先には、昔ながらの遊びを体験してもらうコーナーも。訪れた親子は折り紙やコマなどで遊んでいました。
こうした至る所に仕掛けられた青森の文化を体験できるイベント。実は従業員が総出で生み出したと言います。週に一度の会議では、ふせん一つ一つにアイデアを書き込んで議論。

「こたつでとことん暖まってもらう企画」や「青森の味覚が存分に味わえる鍋」など…。言葉が通じなくても楽しんでもらえるものは何か、みんなで知恵を絞っているそうです。
旅館の支配人の山形徹さんは「1泊ではなく、今度は2泊、3泊していろんなものを体験しに来ようと思ってもらう。それがわれわれの戦略です」と話します。

こうした熱のこもった取り組みが評判を呼び、この旅館では外国人宿泊者がこの5年で3.5倍に増えたと言います。まさに緻密な戦略によって「○○ならでは」を演出しているのです。

「今だけ ここだけ あなただけ」

外国人旅行者を伸ばしている地域に共通しているのは、訪れた外国人に「その地域ならでは」の魅力的な体験を提供していることです。
日本総合研究所の藻谷浩介さんは「外国人が喜ぶ魅力はそれぞれの地域にある」と話します。そして、「言葉が通じなくても真心を込めて『来てくれてありがとう』という気持ちでサービスしている地域ではお客さんが増え、逆に目先の数だけを増やすことに注力しているところは落ち込む」ということを強調しました。

そのうえで、外国人旅行者を呼び込む“キラーフレーズ”を紹介してくれました。それは「今だけ ここだけ あなただけ」。

「今だけ」とは「その時期にしか体験できないもの」。
「ここだけ」とは「その地方でしか体験できないこと」。
「あなただけ」とは「押しつけではなく、外国人旅行者それぞれのニーズに合った体験やサービスを提供すること」。

外国人旅行者は今、「その地域ならではの暮らし」を求めています。「今だけ ここだけ あなただけ」。皆さんの地域でも知恵を絞ってみませんか。
徳島放送局記者
六田悠一
社会番組部ディレクター
新井直之
社会番組部ディレクター
淡浪里彩