車のキー、大丈夫ですか?

車のキー、大丈夫ですか?
車のドアのロックを簡単に解除できる「スマートキー」。これを持って車に近づけば、ドアに触れるだけでロックが解除され、エンジンもかけられます。ポケットやかばんに入れておくだけで解錠できるので、便利ですよね。ところが、このスマートキーの仕組みを悪用して車を盗もうとする事件が起きていることがわかりました。わずか数秒でロックが解除されてしまう「リレーアタック」と呼ばれる新たな手口。どう備えればいいのでしょうか。(大阪放送局記者 尾原悠介)

防犯カメラの“不審な2人組”

去年9月、東大阪市の住宅の玄関先に設置された防犯カメラが、犯行の一部始終をとらえていました。

ターゲットになったのは、黒色のトヨタの高級車「レクサス」でした。
防犯カメラの映像では、「レクサス」は手前の白いバンの奥にとまっています。
午前3時ごろ、不審な男が現れます。帽子とマスクを身に着け、リュックを前に抱えた男は、周囲を見回しながら、リュックからのびたコードのようなものを上にかかげて、玄関の前をうろうろします。

突然、車のロックが解除!?

すると、次の瞬間。「レクサス」のロックが解除されたことを示すハザードランプが点滅しました。
このとき、画面の奥には、もう1人の姿も確認できます。
このあと2人はあわてた様子でその場から走り去りました。

2人は窃盗グループとみられ、ロックを解除したものの、人が通りかかったため逃走したとみられています。

所有者が車体を調べるも…

所有者の男性が車に乗ろうとした際、取り付けていたハンドルロックが外されていたことに気がついて、今回の犯行が発覚しました。
しかし、車体を調べたものの、ドアが壊された跡はありませんでした。車のカギは、玄関に置いてあり、盗まれてはいませんでした。
所有者の男性は、「防犯対策がしっかりした車なので、まさか盗まれそうになるとは思わなかった。防犯カメラの映像を見ても何をしているのかわからなかったし、どうやってロックが解除されたんだろうという疑問しかなかった」と話しました。

なぜロック解除?スマートキー悪用か

では、なぜドアのロックが解除されたのか。

防犯対策に詳しい自動車販売会社に話を聞くと、スマートキーの仕組みが悪用された可能性が高いことがわかりました。

スマートキーに対応している車からは、微弱な電波が半径1メートルほどの範囲で出ています。離れていれば、スマートキーから電波は出ませんが、車に近づいて車からの電波を受信すると、キーからも電波が出ます。
このとき、正しいキーなのか、IDの照合が直ちに行われ、その状態でドアハンドルを触るとロックが解除される仕組みです。

驚きの“リレーアタック”の手口

車から出る電波の範囲は、1メートルほどなので、通常、キーを家の中に置いておけば、電波は届きません。

ところが「リレーアタック」は、このスマートキーの特性を悪用するのです。
まず、車の近くにいる犯人Aが、特殊な機械を使って車から出る微弱な電波を“増幅”します。

もう1人の犯人Bは、玄関の近くで、この電波を家の中にあるスマートキーに“中継”します。

中継された電波を受信したスマートキーから電波が出て車に届くと、車は“キーが近くにある”と誤って認識し、ドアハンドルを触ればロックが解除される状態になるのです。
“増幅”役と“中継”役が、電波をリレーのようにつなぐことから「リレーアタック」と呼ばれています。
自動車販売会社のセキュリティー担当の大石唯勝さんは、「窃盗グループは、スマートキーの仕組みを把握したうえで、それを逆手にとっている。極めて巧妙な手口だ」と話しました。

盗んだ車は乗り続けられるの?

でもよく考えると、1つ疑問がわきます。

「リレーアタック」で車を盗んだとしても、いったんエンジンを切ってしまったら、キーがないので、二度とエンジンをかけられないんじゃないかと。
でも、相手は窃盗グループです。
警察などによりますと、盗んだ車は人目につかない場所まで運んで、何らかの方法でIDを新たに登録したり、車のシステムを取り替えたりして、別のキーでロックを解除できるようにしているのではないかということです。

ヨーロッパでは数年前から被害

この「リレーアタック」の手口。
ヨーロッパでは数年前から被害が出ていて、2016年にはドイツの自動車連盟が、手口を再現した動画をインターネットで公開して注意を呼びかけています。
動画では、レストランでテーブルの上にスマートキーを置いたまま会話する男性の後ろにいる男が機械のボタンを押して電波を中継し、別の男が車を盗む様子を再現しています。

日本での被害は?

では、日本での被害はどうなんでしょうか。

今回、防犯カメラの映像から、去年9月に大阪市と東大阪市で「リレーアタック」による犯行が確認されました。

しかし、「リレーアタック」は、ドアをこじあけるようなことはしないため、痕跡が残らないのが特徴です。
その手口で盗まれたのかどうかわからず、被害の実態がつかみにくいのが実情です。

実際、この手口が報道され始めてから、「自分も同じ手口で車が盗まれそうになった」という相談が警察に寄せられているということです。

日本では、これまで具体的な被害は確認されてきませんでしたが、警察は被害が広まるおそれがあるとして警戒を強めています。

カー用品店に問い合わせ相次ぐ

カー用品店には問い合わせが相次いでいるといいます。

取材をした兵庫県尼崎市にあるカー用品店には、ことしに入ってから、「リレーアタック」を防止できる商品はないかという問い合わせが、1日に2件から5件ほど寄せられているということです。

メーカー各社は対策進める

トヨタ自動車
メーカーは対策を講じています。

「トヨタ自動車」は、対策の1つとして、スマートキーを節電モードにすることが有効だとしています。
節電モードにすると、電源がOFFになってキーからの電波が出ない状態にすることができるということです。

また「日産」「ホンダ」「マツダ」「スズキ」「SUBARU」も対策や研究を進めているということです。

リレーアタックから愛車守るには

一方、自分でできる対策もあります。
ポイントは、「電波の遮断」です。
その1つが、スマートキーを金属の缶に入れる方法です。きっちりとふたをしめることで電波を遮断できるといいます。
ただ、缶によっては電波を通してしまうものもあるので、車の近くに持って行って電波を通さないかテストする必要があります。

さらに、もっと簡単な方法もあります。見栄えはあまりよくありませんが、家庭で使うアルミホイルで包むのです。
このときも隙間をあけないように包む必要があります。

このほか、最近では特殊な繊維で電波を遮断する専用のポーチも販売されています。

次に狙われるのは、あなたかも

東大阪市で愛車のレクサスを盗まれそうになった男性は、被害に遭ったのは防犯カメラに写った1回だけでなく、実は去年だけで3回もあったということです。

男性は「リレーアタックの手口を知って、“また盗まれるのでは”とさらに怖くなった」と感じ、今では専用のポーチを使っていると話していました。

一方で、スマートキーを使っている人の中には、「周りに盗まれた人はいないから、自分も大丈夫だと思っている」という声も聞かれました。
そんなふうに皆さんも思っていないでしょうか。

全国では、年間およそ1万台の車が盗難の被害に遭っています。スマートキーに対応した車なら、高級車ではなくても盗まれる危険性があるのです。
「リレーアタック」の脅威は、確実に迫ってきています。ぜひ、ご注意ください。