アメリカで自動販売機の“逆襲”!?

アメリカで自動販売機の“逆襲”!?
まだ残暑が厳しかった頃のニューヨークの夜11時。自宅への帰路、改めてあることに気がつきました…。自販機がない。炭酸飲料を飲みたい衝動に駆られましたが、日本では当たり前の自動販売機は、見つけられませんでした。アメリカでは、特に屋外にはほとんど自販機が置かれていません。あっても金が入らなかったり、商品が出てこなかったり…。ということもあり、あの夜から数か月後、こんな一文をアメリカの新聞で目にしても、にわかには、理解できませんでした。
“自販機の新たな展開”。よく読むと、アメリカでは自販機の“逆襲”が始まっている、らしいのです。(アメリカ総局 及川利文)

やっぱり危ない?屋外に自販機がない

(私)「寒いですね、マイナス7度ですよ」

(カメラマン)「ニューヨークの冬はこんなもんじゃないですよ。最高気温がマイナス10数度の日が続いて、ハドソン川が凍ることもありますから。覚悟してください(笑)」

季節は、自販機の温かい缶コーヒーが恋しくなるような冬。私はニューヨークに長年住むベテランカメラマンと、外で取材対象者を待つ“張り番”をしていました。ベテランカメラマンとの会話で、特に大事なのは、安全面に関わる情報です。

(カメラマン)「このあたりは、あまり治安がよくないんで、気をつけてください」

ニューヨークは安全になったと言われています。それでも、日本の治安のよさとは、比べようもありません。
アメリカでは、屋外で自販機を見かけないのも、治安が関係しています。壊されて商品が盗まれたり、現金が盗まれたり。
ニューヨークの宝石店が、去年6月、店の近くに自販機を置いて宝石を売り始め注目を集めました。が、すぐに偽造クレジットカードが使われて宝石がとられてしまい、やむなく販売をやめました。

自販機のルーツ

日本では、街のあちこちで見かける自販機。そのため、“自販機大国”と呼ばれることもありますが、調べてみると、世界最古の自販機は、紀元前215年ごろ、古代エジプトに登場した「聖水自販機」と言われているそうです。コインを投入した重みで水が出てくる装置だったとか。

その後、産業革命後のイギリスで現在のような自販機が登場。

日本初の清涼飲料の自販機は、1962年に飲料大手のコカ・コーラが設置しました。日本で自販機が浸透するきっかけになったのは、アメリカだったんです。

月100万円以上売り上げる自販機

そのアメリカで今、人の目が届きやすい屋内で、自販機が増えています。

シカゴの空港には、新鮮な野菜を使ったできたてのサラダを売る自販機。

ラスベガスのホテルには、カジノでの勝利を祝うためか、シャンパンをボトルで売る自販機。
そして、サンフランシスコのホテルでは、地元のアーティストがデザインしたネックレスやシール、それに1枚20ドルで絵画まで、自販機で売られています。ホテル側が地元のアーティストを支援しようと始めたそうです。
また、サンフランシスコ国際空港では、日本だと店頭でしか売られていない「ユニクロ」のダウンジャケットも売られています。

空港の広報担当者によると、この自販機は、月に100万円以上売り上げるとのこと。

人気の理由は、“時間節約”だそうで、男性利用者は「列に並んで待つ必要がなく、すぐ買えるのがいい」と話していました。

背景にアメリカの景気拡大

アメリカでの自販機による商品の売り上げは、おととし(2017年)は2兆4000億円以上。日本の4兆円以上と比べると、まだ少ないものの、2011年からは毎年400億円以上ずつ伸び続けています。

背景にあるのが、景気拡大による人件費の上昇です。アメリカ労働省によると、2009年以降、全米50州のうち半数以上の29州で、毎年、最低賃金が上がり続けています。

ちなみに、ニューヨーク市内では、去年12月から、従業員数11人以上の企業の場合、最低賃金が時給15ドル(およそ1640円)になりました。

アメリカの自動販売機協会のカーラ・バラギCEOの話では、自販機はコストを抑えられると人気が高まっていて、「いまは従業員を確保するのがとても難しく、企業は新たに出店する代わりに、自販機を置くようになっている」と話していました。

人手不足は商機!?

アメリカでの自販機の“逆襲”は、本物か?

それを確かめようと、1月、ニューヨークで行われたNRF=全米小売業協会の展示会に取材に行きました。

会場では、アメリカの大手自販機メーカーが、市場拡大を見込んで、新機種を開発し展示していました。
空港の「ユニクロ」の自販機も手がけるこの会社が、ことし4月に発売予定なのが、買う前に商品を手にとって選べる自販機です。
透明のドアの向こうに並ぶ商品を、まず品定め。ドアはロックされていますが、クレジットカード情報を登録したスマホをかざすと、開けられます。
あとは、好きな商品、例えば、サンドイッチや飲料を手に取るだけ。自販機内に取り付けたカメラやセンサーで、何を取り出したかを識別し、気に入らなければ商品を棚に戻せます。ドアを閉めると、そのときに持っていた商品の料金が、クレジットカードに請求される仕組みです。

この自販機、食べ物であれば、カロリーなど表示を見比べたうえで、購入できるメリットもあります。

将来は、指紋や顔認証でドアのロックを解除できるような開発も進めているそうです。

取材した、スウィフト社のゴーアー・スミスCEOは「私たちは、顧客に利便性を提供する」と話していました。そして「人手不足に直面し、自販機がよく利用されている日本に大きなビジネスチャンスがある。今後も革新的な自販機をつくっていきたい」と、日本市場への積極進出に意欲満々でした。

アメリカで始まった自販機の“逆襲”。
その自販機が日本の人手不足の解消にも力を発揮する。すぐにそんな日が来るかはわかりませんが、数々のユニークな自販機が、私の頭から離れなくなったことだけは、間違いありません。
先日、再び“張り番”をしていたら、頭の中に、あのダウンジャケットを売る自販機が、浮かんでは消え、消えては浮かんでを繰り返していましたので。
アメリカ総局記者
及川利文

平成24年入局
千葉局、国際部をへて
2018年からアメリカ総局