“フェイク”はカネになる その実態を追跡した

“フェイク”はカネになる その実態を追跡した
国内の市場規模が1兆5000億円に上る巨大なネット広告の市場。その裏で闇が広がっている。「インスタ映え」という流行語を生み、国内で約3000万人のユーザーがいるインスタグラムに、内容がまったくウソの「フェイク広告」が掲載されていたことがNHKの取材でわかった。

なぜ、問題のあるネット広告が見逃され、配信されてしまうのか。追跡すると「フェイク広告」を使った“錬金術”の実態が見えてきた。

(「ネット広告の闇」取材班記者 田辺幹夫・斉藤直哉/ディレクター 中松謙介)

SNSの怪しい広告 徹底的に調べてみた!

毎日、欠かさずチェックしているSNS。
「○○(人気芸能人)が絶賛!」
「○○(有名テレビ番組)で紹介!」
最近、怪しげな広告を目にすることが増えたように感じることはないだろうか?

私たちは、取材班のスマートフォンに配信されてきたある「ダイエットサプリ」の広告を追った。

インスタグラムのタイムラインに表示されたその広告には、スリムな女性の上半身の動画とともに「普段の生活に○○(原文ママ)を加えるだけで驚くほど体重がスッキリ!」といったキャッチコピーが書かれていた。
「詳しくはこちら」という部分をクリックすると、広告サイトに飛ばされる。広告サイトには「テレビ放送をきっかけに話題沸騰中」などというPR文とともに、ある情報番組の一場面をキャプチャーしたような画像が掲載されていた。

画像は中央のモニターのような部分に、やせた女性の写真が映っていて、司会役のタレント坂上忍さんやお笑い芸人がそれを囲み、いかにも何かを紹介しているような構図だ。「専門家も驚愕したダイエット方法」という字幕もあった。

「番組で紹介」はフェイク

この広告の内容が事実かどうか、検証することにした。

広告に使われていた番組のキャプチャーがどこかにないか、ネットを調べると、ある画像が見つかった。それは、この番組の2016年の公式ブログに掲載されていた。

ただし、元の画像には「専門家も驚愕~」の字幕はなく、さらにモニターに映っていたのもやせた女性ではなく番組の出演者だった。

何者かが画像を改ざんし、あたかも番組で紹介されたかのようにねつ造されていたのだ。

番組を制作したフジテレビに確認すると、「この商品を紹介した事実はなく、ウェブサイトの画像を使用することを許可したこともありません」と回答、広告はフェイクだった。

フェイク広告 続々と見つかった

インスタグラムの広告をさらに調べると、タレントのマツコ・デラックスさんが、テレビ番組でこのサプリを紹介しているようにねつ造したフェイク広告も見つかった。
さらに、女優の土屋太鳳さんの画像を使ったフェイク広告では、本人のインスタグラムの写真が勝手に改変されていた。本人と一緒に写っているコップがダイエット商品のパッケージに差し替えられていた。

マツコさんが薦めるならと…

冒頭で紹介したインスタに表示された、ダイエットサプリの広告を見て商品を購入した人に話を聞くことができた。
「マツコさんが『すげー』って驚いている画像があって、普段はテレビを見ないですけどマツコさんが薦めてるなら、と思って購入しました」
東北地方の大学に通う女性(18)は、去年12月、このサプリを月6980円で定期購入した。

広告サイトには「30日間定期解約保証」という表記があり、安心して購入したという。しかし、使ってみると身体に合わず、女性は、解約しようと思ったものの、サイトに書かれていた連絡先に電話をかけても「混み合っているので順番につなぐ」旨の音声案内が流れ、なかなか担当者が出なかった。さらに待機している間にも電話代がかかる、という説明の音声が流れ、焦ったという。

「何回かけても電話がつながらなくて不安でした」

結局、女性は30回ほどかけた末にようやく電話がつながり、解約することができたが、「こんな広告を出すなんて信用できないし、ウソの広告でだますのは本当にやめてほしい」と思いを語った。

広告主のサプリの販売会社に聞くと

まずは、広告主と思われる、このダイエットサプリを販売する会社に事情を聞こうと、私たちは登記簿上の所在地を訪ねた。
そこは都内の住宅街にある一軒家だった。何度ノックをしても誰も出てこない。近所の人に尋ねると、「ここは1年くらい前に、前の人が出て行って以来、ふだんは誰も住んでいない。たまに若い人が集まって会議しているの見ますが、何をやっているのかはぜんぜん知りません」と話した。

そこで、会社の代表の自宅を訪ねることにした。

マンションの部屋から出てきたのは若い男性だった。男性は、関東にある大学の学生で、自分がダイエットサプリを製造・販売するベンチャー企業の代表だと話した。一軒家は、登記上の便宜的な建物で、実際の業務は別の場所で行っているという。
自社のサプリがフェイク広告で販売されている事情を尋ねると「広告は『広告仲介業者』を通じて出しており、詳細は、仲介業者に聞かないとわからない」と話した。

仲介業者は、およそ30社を使っていると明かしたが、具体的な名前は「怒られそうなので言えない」と言葉を濁した。

私たちの取材で電話がつながらず解約できないトラブルが起きていることを伝えると「コールセンターも外部に委託しているので、人数を増やすように対応する」と話した。

広告仲介事業者もチェックできず

サプリの販売会社の社長が広告の出稿を依頼していた30の広告仲介業者。実際にフェイク広告を仲介していた業者はどこなのか。ヒントは、フェイク広告の中にあった。

フェイク広告が掲載されたサイトには「購入する」と書かれたボタンがあり、これをクリックすると販売会社のサイトに飛んで、そこで購入の手続きを行う仕組みになっていた。

この「購入する」ボタンのリンク先から、ある広告仲介業者を割り出すことができた。都内に事務所を構えるこの業者を直撃すると、「サプリのフェイク広告が出ていることは把握している」とフェイク広告の仲介を認めた。

しかし、フェイク広告の制作は、「一部のモラルのないアフィリエイター(広告サイトの制作者)がやっていること」とした。

この仲介業者は「自社と契約している広告サイトの制作者は約1000あり、その中の制作者の一部が、インスタグラム上にバナー広告を出して自分の作ったフェイク広告のサイトへ誘導していた。自分のサイトへのアクセスを増やす目的だった」と説明した。

仲介業者としての責任について問うと、「見つけ次第、契約を解除するなどしているが、なにぶん、少ない人数でやっているのでチェックしきれていないのが現状。申し訳ない」と答えた。

フェイク広告の制作者は?

では、実際にサプリのフェイク広告を作っていたのは、一体、何者なのか。

フェイク広告のサイトの中には、連絡先の住所や事業者名は全く書かれていなかった。しかし、サイトに残された情報を元に取材を進めると、このフェイク広告サイトを作成したのが、福岡県にある会社である可能性が浮上した。

現地に向かうと、そこは、雑居ビルに入る小さなウェブ制作会社だった。
私たちは何度か取材を試みたが応じず、実際にフェイク広告を作っているのか、確かめることはできなかった。その後、もう一度フェイク広告のサイトを確認すると、そこで使われていた画像は、別の、問題のない画像に差し替わっていた。

インスタグラムの運営責任は?

このようなフェイク広告があふれている現状を、SNSを運営するプラットフォームはどう考えているのか。インスタグラムを運営するフェイスブック社の日本法人に聞いた。

広告担当の執行役員、鈴木大海氏は、今の広告チェックの状況が100%完璧ではないことを認め、「フェイク広告が出ていることについては大変残念に思いますし、あってはならないと思います」とした。
そのうえで、「すべての広告は、掲載開始前に審査させていただくことになっており、広告から遷移した先のページがどのような内容の広告なのかをAI(人工知能)と人の目で審査しています。弊社の創業者マーク・ザッカーバーグも、安全・安心をここ数年で最も重要な課題と明確に言っております。メディアや広告の在り方、そのものを変えようとして、取り組みを進めているところです」と話した。
また、ユーザーがフェイク広告を「通報」する仕組みを作っていると説明した。インスタグラムでは、画面の右上にあるボタンをタップすると「広告を報告する」というボタンが現れ、そこから「詐欺またはスパム」や「不適切」など通報の理由を選んで、フェイスブック側に「まずい広告」であることを知らせることができる。通報をされた広告は表示される確率がぐんと下がると言うことだった。

アフィリエイトの落とし穴

今回のフェイク広告がインスタグラムに表示されていた件、背景には次のような事情がある。
インスタグラムから誘導される広告サイトに掲載されていた内容が、まったくウソの内容で商品を宣伝する「フェイク広告」だった。

フェイク広告を作っていたと見られるのは、福岡県内のウェブ制作会社で、フェイク広告のサイトは「アフィリエイト広告」と呼ばれるネット広告の一種だった。

アフィリエイト広告は、「成果報酬型広告」とも呼ばれ、広告を掲載したサイト(メディア)を閲覧した人が、広告されていた商品を購入すると、その数(成果)に応じて、広告主から報酬が支払われるもの。

これまでテレビや新聞の広告は、ある程度の金額をかけなければ出せなかったが、ネットでは、アフィリエイトの仕組みを使うことで、広告の掲載先が個人のブログなどまで無数に広がり、広告主にとっては比較的安価で広告が出しやすくなったのだ。
アフィリエイトは十数年前から徐々に普及し、日本アフィリエイト協議会(JAO)によると、広告主と広告掲載先のメディアを仲介するアフィリエイトサービスの会社は100社以上あり、アフィリエイターと呼ばれる広告掲載サイトの運営者は推定で国内400万人に上るという。そうした膨大な数のアフィリエイターの中で、一部の心ない人たちがフェイク広告を作っている。

“フェイク”は金になる

なぜ、ルールを逸脱してまでフェイク広告を作るのか。それは、フェイクが“オイシイ”からだ。

「芸能人や有名人、テレビ番組など、権威づければ確実に売れるから」

ネット広告に詳しい業界関係者はみな、同じように説明する。複数の証言から、次のようなことがわかった。

「やせる」とか、「肌がきれいになる」とか、「薄毛が改善する」といった、特定の人が持つ願いをかなえる商品は『コンプレックス系』と呼ばれている。このコンプレックス系の商品は、ネット販売が強い。そして、広告の表現ひとつで売れ行きは大きく変わる。こうした商品では、実際に芸能人とタイアップ契約し、広告に芸能人の名前や写真が使えるケースも存在する。そうした商品は売れるという。
しかし、芸能人とタイアップするには契約金がかかる。そこで『どうせバレないだろう』と考える一部の心ない広告制作者が、フェイク広告に手を染めている。バレて広告の契約が解除になっても、また会社の名前を変えてやる、いたちごっこの状況が続いている。一部の広告主や広告仲介業者はこれを見逃している。

アフィリエイターに支払われる報酬は、コンプレックス系商品の新規購入1件あたり数千円。SNSにフェイク広告を流す費用は安く、フェイクが当たるまで試行錯誤する。

当たれば、もうけは大きいという。

誰もが無責任?フェイクが生まれる土壌

インスタグラムに表示されたフェイク広告を追跡した私たちが目の当たりにしたのは、本来はチェックすべき広告主や広告仲介事業者が責任を果たさず、さらに最新のAI技術をもすり抜けたフェイク広告が、多数の利用者を抱えるSNSによって、一気に拡散されている現状だった。

こうしたフェイク広告が、いつ、誰の手元で表示されるか、予測することはできない。いま、この瞬間にも、あなたの手元でフェイク広告が表示され、知らないうちに“闇の錬金術”に巻き込まれている。