即戦力より将来性?ラグビー「人材発掘合宿」に密着

即戦力より将来性?ラグビー「人材発掘合宿」に密着
組織が人材を採用する時、求めたくなるのが「即戦力」。しかし長い目で見れば、将来性の高い人材を発掘、育成することも大切だ。

今、日本のラグビー界で、即戦力ではない「ダイヤの原石」ともいえる無名の高校生を発掘し、将来の日本代表選手を育てようというプロジェクトが動き出している。背景には、ラグビーだけではなく日本のスポーツ界全体につながる危機感がある。どんなプロジェクトなのか、現地で動きを追った。(ニュースウオッチ9 倉野亨也)

すごいヤツらがやってきた

去年12月、京都で行われた2泊3日の強化合宿。これが、今回のプロジェクトの舞台だ。

集められたのは23人の高校生。高校ラグビーの頂点「花園」の常連になるような強豪校ではない、普通の高校のラグビー部に所属する選手たちだ。初日、集まって来た彼らの姿を見て驚いた。

身長が2メートル近くある長身や、体重が120キロを超える「巨漢」がぞろぞろ。一方でラグビー選手としては小柄な160センチ台の選手の姿も。

驚異的なダッシュ力や瞬発力の持ち主らしい。体格にすぐれた「ビッグマン」と、スピードにすぐれた「ファストマン」、一芸に秀でた選手を集めて行われたのが今回の合宿「ビッグマン&ファストマン・キャンプ」だ。

まずは一人、話を聞いてみた。「ファストマン」として選ばれた山口県立宇部高校の中山覚富選手。身長は171cmとラクビー選手としては小柄なものの、一瞬で相手を抜き去る切れ味鋭いステップが武器だ。ただ宇部高校のラグビー部は試合ができるギリギリの15人しかおらず、去年秋の県大会も1回戦で敗退。

中山選手は、自分がメンバーに選ばれたことに驚きながら、思わぬチャンスに目を輝かせていた。
「驚きが一番大きかったです。最近、自分のプレーに満足いくことがあまりなかったので。合宿では、自分の強みであるステップがどれだけ通用するか楽しみにしています。持ち味を発揮して、いいところをアピールできればと思っています」(中山選手)

ラグビーという「世界」

ここで紹介しておきたいラグビーの魅力を1つ。それは「多様性」だ。
1チーム15人、両チームで30人がグラウンドでボールを追う。球技では最も選手の数が多いと言われ、ポジションごとに求められる体格やスキルが異なる。

レスラーのように体が大きい選手もいれば、かつての平尾誠二さんや五郎丸歩選手のように、どちらかと言えばスリムで(とは言っても体はすごくたくましいのだけれど)、華麗なパスやキックを繰り出す選手もいる。

大男でも、小柄でも、あらゆる特徴をもった選手に活躍のチャンスがある。

200校のラグビー部が消えた?

プロジェクトを企画したのは、元日本代表選手の野澤武史さん。現役引退後、ビジネススクールでMBAを取得、テレビのラグビー解説者として活躍しながら出版社の経営にも携わる。今、日本ラグビー協会でユース世代の人材発掘を担当している。

野澤さんを動かしたのは、今のラグビー界にある「危機感」だ。

高校のラグビー選手は、近年、驚くほど減っている。全国高校体育連盟によると、高校生の競技人口は、2003年に全国1252校、3万人余りだったが、2017年には1026校、2万2000人余まで減少。実に200校以上でラグビー部が「消えた」ことになる。

このままでは日本ラグビーの将来は危うい。そこで野澤さんが取り組んだのが、これまでとは違うやり方で、人材を発掘すること。全国各地、半年余りかけて足を運び、みずからの目で有望な「ダイヤの原石」探しを始めた。

今回の合宿の参加者を選ぶにあたって、野澤さんが決めた基準がある。
(1)全国大会の常連校や「U17」など世代別代表経験者は選ばない。
(2)規格外の一芸を持っている選手を選ぶ。
「例えば中学までは野球をやっていたけど高校からラグビーを始めました、というような選手は、なかなかU17、U16に選ばれない。これから伸びるのにっていう選手が表舞台に出てこられない状況が生まれているんです」

「子どもたちは、早熟な選手もいれば、あとから伸びてくる選手もいて、人の成長ってそれぞれだと思うんです。今回のプログラムで人材を発掘したあと、選手たちを『追跡』して、人材を選ぶプロセスを体系化していきたいという思いがあります」(野澤さん)

「意識改革」で強くなる

3日間の合宿。大学や社会人のチームで取り入れられているような最新のラグビー理論や戦術に基づいた練習が行われていた。

しかしほとんどの選手が、不安や緊張から自分に自信を持てず強みを発揮できないでいると感じた。

初日に話を聞いた中山選手もミスを連発。思うようなプレーができていない様子だった。
そんな「原石」たちに野澤さんらコーチ陣が出した課題が1つある。それは「1対1の勝負に勝つ」こと。

これまで日本のラグビー界は世界の強豪国と戦うため、徹底した「体力」と「チームワーク」の強化に取り組んできた。一方で、強豪国入りをめざす日本ラグビー全体が成長するためには、選手1人1人が相手チームと直接対決した時に1対1で勝つ、「個」の力の強化が避けて通れない道だという。

野澤さんは原石たちの「意識改革」を試みた。選手たち自身に目標である「1対1で勝つ」ために必要なことを考えさせ、実現するための決意をメンバー全員が参加するミーティングで語らせた。
このミーティング後の練習は、開始直後から選手たちの雰囲気が変化していた。それまでほとんどなかった選手がお互いを鼓舞する声が自然と聞こえ、おのおのに気合いがみなぎっているのが伝わってきた。
選手たちのプレーもそれぞれが自分のよさを競うようにアピールしはじめ、試合さながらの熱気のこもった練習となった。

中山選手はその時の思いをこう語っている。
「初日は消極的になってしまって、やはり自分のやりたいことが思うようにできなくてボールを触る回数も少なくて。2日目は自分から積極的にいってボールを触る回数を増やしました。ミーティングで勝負だと言われて気持ちも前日に比べて入りましたし、その分自分も目立てるように自分で(攻撃を)仕掛けるように心がけました」
合宿を終えたあとの選手たちの表情は充実感と自信にあふれているように見えた。
「初日の練習から比べると思っていた以上の成長をみんなしてくれたと思います。やはりもともと潜在能力があって、それがうまく出てきたのかなと。日本の最先端でやっていることを体感して、そこにおもしろさを感じてくれて、より彼らの成長のドライブにつながったんだと思います」(野澤さん)

感じた“手応え”

合宿には、「原石」を自分の大学に勧誘しようと強豪校の監督やコーチが数多く視察に訪れていた。合宿終了後には、こうした取り組みを続けてほしいという声が大学や社会人チームから野澤さんのもとに相次いだ。無名の選手を発掘する新たな取り組みに、野澤さんは確かな手応えを感じたという。
2015年のラグビーワールドカップで南アフリカを相手に大金星をあげ、ことし日本で開かれる大会でも強豪国に挑む日本のラグビー。競技人口の減少という課題に直面する中、戦力強化のため、無名の人材を育てていくのは時間がかかる根気のいるプロセスだと思う。

しかし、一人でも多くの子どもたちに活躍のチャンスがめぐってくるよう、大人たちが知恵を絞ることは、長い目で見れば競技全体を強化していくことにつながるはずだ。「原石」を探し出すプロジェクト、ぜひ実を結んでほしい。
ニュースウオッチ9
倉野亨也

平成17年入局
小学生から大学生までラグビーに打ち込み、現在も社会人チームでプレー